4. 世界に設定一つ加えました
定食屋三朝の看板が出ている、古風な障子ふうの扉の前。
つまり我が家の前で、あたしは立ち尽くしていた。
となりには持ち帰って来た待夜先輩。
どう考えても、高校生の身分で一人暮らしをしようとしていた試みは阻止して正解だったと思う。
でも、うう。
家に置くにしても、とうさんとかあさんにどう言い訳しよう。
ここは、あれしかないか。
「先輩、玄関入ったら、抜き足差し足で忍者のように二階に向かってください。うまい言い訳思いつくまでひとまず、あたしの部屋に保護します」
名付けて作戦Aを披露すると、先輩は瞳を二、三またたいて、ううむと首をかしげた。
「大切な杏さんのお宅に伺うのに、そういうコソ泥のような手段は使いたくないのですが」
「あのですねぇ。今はそんなこと言ってる場合じゃ」
「まぁまぁ、帰ってきたのね、杏に冥都くん」
ぎょぎょっ。
半径3メートル以内に、買い物かごを下げたかあさんを発見!
作戦A、早くも頓挫!
思わず髪をかきむしり――その手がん? と止まる。
『冥都くん』? かあさん今そう言った?
「遅くなりました、奥様。杏さんをたしかに無事に送り届けました」
先輩は平然と胸に手なんかあてて礼をしている。
母さんは頬に手をあてて、
「ま、冥都くんったら、あいかわらず紳士だわ」
え?
ちょっと待って。あいむ・ろすと。あたし一人だけついていってません。
謎は直後、かあさんによって明らかにされた。
「もう、なに惚けた顔してるの? 杏。冥都くんは、杏の家族も公認のカレシじゃない。親御さんが海外赴任しているあいだ、うちでお預かりしてるんでしょ?」
なんだその都合いい設定――!
るんるんとネギを突き刺した買い物袋片手にかあさんが扉の奥に消えると、当然のようにそれに続きながら、待夜先輩が囁く。
「考えてみれば、世界に設定を一つくわえることくらい、残りの魔力を駆使すれば可能でした。杏さん、ナイスアイディアありがとうございます」
……えぇえぇもうなんでもユアウェルカム。
ウェルカムした覚えないけど。
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