第5章 ラヴァンパイア兄弟があたしを奪いあってきます
1. 恋ってそんなもの?
いつものように裏庭で待夜先輩の講義を受けたあたしは1年C組への道を歩いていた。
先輩が時々、理解の確認のためにかけてくれる声に、あたしは生返事だった。
ずっと先輩の顔まともに見れなくて。
内容も頭に入ってこないし。
そうこうしているうちにチャイムが鳴った瞬間、彼は少しだけ首をかしげて、しまいにはまだ体調が回復していないのかと心配されてしまうしで。なんだか、今日の講義は歯切れのわるい終わり方になってしまった。
だから正直、廊下から同じように教室に戻る千佳といっしょになって、挨拶ついでにからかってみたのは、元気をもらいたかったからってのが大きい。
「千佳さん、最近、カレシといかがですかね?」
ところがだ。
うーんとしばらく考えると、千佳は思わぬことを言った。
「別れようかと思ってる」
え!?
「あれだけラブラブだったのになんで?」
千佳がカレシと別れるかもしれない。その事実だけじゃない。
彼女が悲しそうでも苦しそうでもなく、しごくあっさり言い放ったことが、完全な平時に響く緊急サイレンのようにあたしの違和感を増大させていた。
「これと言って理由はないんだけどね。なんかあたしも向こうも、覚めちゃったっていうか。前みたいに好きって気持ちがあんまりないんだよね」
「……」
彼の恋をつかまえるために、恋を育てるために、丹精こめていたと思っていたのに。
そんなものなんだろうか?
ちらと廊下の窓から何気なく目に入ったのは、校舎から運動場に出る玄関だ。
様々な学科が三つの校舎に別れて勉強しているなか、あそこはデートの待ち合わせスポットとして有名だったけど。さっきもカップルが減っているかなという気がした。
たしかに、恋ばかりに時間かけてるわけにもいかないしね。
あたしたち学生には本分の勉強だってありますし。
五宮さんや小春のように夢に向かっていたり、部活動やなんかにみんな忙しくしているのかもしれない。
それでも。
なんか、変だな。
前を普段通り、平然と歩く千佳の長い髪が揺れるのを眺めながら、あたしは首をかしげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます