7. アリなこととナシなこと

 海岸通りを歩いて小路に入ったさきの百均で、待夜先輩と五宮さんが買い集めてきた装飾品たちが、パラソルつきのテーブルに立ち並ぶ。


 白い小さな枝木につけられた、涼しげなオーナメント。


 水色の布でベル、星、リース、靴下のマスコットをあっという間に手縫いで作り、白いレースや紫、銀色のストーンで五宮さんはあっという間に、真っ白なその木を飾り付けてしまった。


 てっぺんには同じ水色の布で作った天使のマスコット。


 南国風の涼しげなツリーの完成だ。


 すごい。

 まだ造り出して三十分と経ってないのに。

 器用って言葉じゃ収まりきらない。


 テトラポットから飛び出していって今すぐ彼女に伝えたかった。

 五宮さん、これ、才能です……!


 五宮さんが大事そうにてっぺんに天使を飾ると、先輩は言った。

 美しい、と。


「よく、がんばりましたね。五宮さん」


 それはもしかしたら、ツリーをつくったことだけに向けられた言葉じゃなかったのかもしれない。


「まつぼっくりのツリーは壊してしまったかもしれないけれど。物を作ることはやめなかった。だから成長したあなたはこうして、自分自身にプレゼントが作れるようになった」

 そう言うと、先輩は片目をつぶる。

 ちょっとだけ、おどけて。

「へたなカレシからもらうプレゼントなんかより、よほど価値があると思いませんか」

 その笑顔を照れたような笑みで受け取ると、五宮さんはどこか恥ずかしそうにうつむく。

「……親にいつまでも腹立てて。反抗して不良グループなんかに入って。ガキっぽいとは思うんです」

「そうでしょうか」

 先輩が宙を仰ぐと、甲高い声を上げて、カモメが海の上を旋回していくところだった。

「ご両親に愛されていないと不満をもつこと。その事実を自分の中で認めてしまうことすら、“あり”だとオレは思います」

 はっと息を呑んで、五宮さんが顔をあげる。

 蒸気した頬。見開いた瞳。

 きれいだと思った。

 美人顔だからとか、お化粧が上手だからとか、そんな理由じゃない。

 その顔は、女の子の顔だった。

 心の奥の自分をはじめて誰かに見つけてもらえたときの、顔。

「五宮さんのご両親のほんとうの気持ちは、ご本人たちにしかわかりません。ですが、幼かった五宮さんをお二人が顧みなかった部分があるということは事実です」

 頬に通った、涙がかわいた跡が、陽光に反射してきらきら光る。

 五宮さんの視界は今、みるみるうちにクリアになっているんだろう。

「“なし”なのは、そういう自分には愛される価値がないと決定して、うわべや外見の華やかさだけにすり寄ってくる人々の中に身を貶めること」

 先輩の眼差しが、海風に心地よさそうに揺れる涼しげなオーナメントに注がれる。

「周りが見向きもしなくても。あきらめられたとしても。自分で自分をあきらめなければ、降り積もる雪はいつか結晶に変わる」

 五宮さんの視線のさきでも。

 南国風のツリーは楽しげに揺れ、波間を背景に光っていた。

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