2、冒険者レナードとユリウス

 最近、王宮での仕事が終わり、夜に向かう場所がある。

 王都の冒険者ギルドだ。

 ギルドの中に入ると一人の少年が声をかけてきた。

「レナード、遅いよ」

 レナードというのは俺が冒険者として活動する時に使っている偽名だ。

 そして声をかけてきたのは、最近よく一緒にパーティを組んでいる少年、ユリウスだ。怒っている様子ではなく、早く出発したい気持ちが抑えられないようだ。かわいい奴だ。

「悪い、悪い」

「さあ行こう。クエストは僕が選んで受けておいたよ。いいでしょ」

「ああ」

 そう言ってユリウスはギルドの外に向かって歩き出した。


 ユリウスが歩き出すと、ギルドにいる女性たちの目が彼に集まる。ユリウスはかなりの美少年なのだ。

 ユリウスはまだ声変りをしていない年少の少年で、身長は俺よりだいぶ低い。ちょうどユーリア王女と同じくらいの背の高さだ。そしてさらさらの金髪と透き通るような白い肌。近づくとほのかに良い匂いすらする。いったい同じ男という生物でなぜこうも違うのだろうか。悲しくなってくる。

 ユリウスと一緒にいる限り、俺の姿が女性の眼中に入ることは決してないだろうと思える。

 使用人の同僚はなぜか男ばかりだということもあって、冒険者としての副業では女性との出会いを少し期待していたのに、ユリウスと一緒に行動するようになってからはそんな望みも断たれてしまった。

 そんなことを考えていたらため息が出てしまう。

「レナード、何か悩みでもあるの?」と無邪気に尋ねてくるユリウス。悩みの原因はお前だ、と言いたいところだが、別にユリウスが悪いわけではない。

「ギルドの中にいた女性がみんなユリウスの方を見ていたなって。同じ男なのにこんなにも差があるのか、て絶望していたんだよ」と俺は冗談めかしていった。

「何、レナード、もてたいの?」とユリウスは怪訝な表情をした。

「いや、もてたいというか、俺も独り身だし、どこかにいい相手がいないかなって。別にいいだろうそれくらい」

「ふーん」とユリウスは馬鹿にするような表情をして、「レナードには僕がいるからいいじゃん」と言った。

「いやお前男だし」

「え、男じゃだめなの?」とユリウスはきらきら目をして俺の顔をのぞき込んだ。そんなかわいい顔に見つめられると、男だとわかっていてもどきどきしてしまってやばい。いい匂いするし。

「おいやめろ」

「ははは。冗談だよ。でも、レナードなら焦ることないよ。いいところ一杯あるし、わかってくれる子は絶対いるよ」

「そうかなあ」

「うん。もうすでにいるかもよ。案外、近くに」

 ユリウスはそう言って俺の方をちらちらと見た。

「ユリウスが女の子だったら好きになってたかもな」

「本当?」とユリウスは目をきらきらさせた。こちらは冗談なのに、本当に嬉しそうなのが怖い。


 俺は少し前まで一人でクエストをこなしていた。

 ユリウスに誘われた当初は断っていたのだが、簡単なクエストでいいからと頼まれて一緒に仕事をしてみると、ユリウスは思いのほか優秀で俺が普段受けているクエストをこなせるくらいの能力があることがわかった。それにユリウスとはなんだか妙に息が合うのだ。

 それでだんだんとユリウスと一緒に冒険者の仕事をすることが増えていったのだった。

 

「ほら連れてきたよ」とユリウスが夜の草原をこちらに向かって走ってくる。その後方には、ユリウスを追い掛け走ってくる真っ黒な体をした狼の姿があった。

「任せろ」

 俺は体を落とし剣を構えた。ユリウスとすれ違うと、狼が目の前に来たところでタイミング良く剣を振り上げた。狼は宙を舞い、落ちてくるところにもう一振り。狼の体は真っ二つに分かれて地面に落ちたのだった。

「これで終わりだね」とユリウスはずっと走り回っていたのに、疲れた様子はなく涼しい顔で言った。

「ああ」

「夜になると畑を荒らすダークウルフの討伐。僕たちの手にかかれば訳ないよ」

「ユリウスが全部連れてくるから俺は突っ立って剣を振ってるだけでよかったよ。お疲れ様」

「えへへ。僕のこと褒めてくれるの? 嬉しいな。ふふふ。もっと褒めて褒めて」とユリウスは弾むような足取りになって嬉しそうな表情をした。

 こういうところを見ると、まだ子どもなのだなと思う。

「調子に乗るなよ。夜は常に危険が潜んでいるんだ」

「わかってるよ。ところで、今日の食事当番はレナードだよね。楽しみだな。レナードのご飯」

 そう言ってユリウスは待ちきれないというように、早足になって先を行くのだった。

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