チャプター1 佐村河内横溝、10年前の出来事。

 ここは郊外にある、とある地下室。

 青山リリーと佐村河内が出会う、10年前の出来事だ。


 東京都三鷹市で、ある悲惨な事件が起きた。

 俗に言うSMの拷問室に、男女1組のカップルが入り、でてきたのは男性だけという、これまた犯罪のお決まりのパターンだった。


 連続殺人事件の1回目の殺人で、事件はその後、迷宮入りした。

 女性は殺され、肉を食われ、遺体の大部分を富士山麓に捨てられた。


 女は佐村河内と出会ってまだ2週間で、年の差が40あった。

 当時、佐村河内は62歳で、まだそれほど白髪しらがが目立つふうでもなく、どこにでもいる紳士を装っていた。


 佐村河内はいやがる女性の口にペニスを無理矢理、押し当て、口を開くよう女性の鼻を指先でつまんだ。


 鼻を指先でつままれた女性は息ができず、仕方なく佐村河内横溝のペニスを口に受け入れた。


 佐村河内横溝はぶたの生き血を飲むのが好きで、脳内に寄生虫を9匹飼っていた。


 頭にウジがわいていたので、ときどき思考の一切を失うことがあった。

 有鉤条虫ゆうかぎじょうちゅうに寄生された豚の血で、神経嚢虫症しんけいふくろちゅうしょうを発症して20年になる。


 よくぞまあ廃人にならず今日まで生きながらえたものだと思うが、それでも豚の生き血を飲むのをやめなかった。


 肉屋で豚の生き血を1リットル買い、それを3日で飲み干す習慣は、つい最近まで約20年続いた。


 佐村河内は飲み屋で知り合った女性を家に招き、地下室へと誘った。

 時刻は深夜を大きく回っていた。


 3日も風呂に入っていない老人のペニスは、スルメのような乾物かんぶつの匂いがして、女性は吐き気をこらえるのに必死だった。


 「どうだ。ごほうびをあげようじゃないか。ブランド物だけが、ほうびじゃないぞ」


 カウパー液でぬめる老人のペニス。

 その前にひざまずく、恐怖に震える女性が膝を折り、コンクリートの地面に正座していた。


 下着は泥だらけで、朝から水一滴も与えられていない。

 パンティーだけを身にまとった女性は恐怖に震えおののき、

 「ここから出してください」

 男に哀願した。


 女性は泥だらけの膝を丁寧に2つに折り、老人の前で恐怖と戦っていた。

 辺り一面、ロウソクがたれ、女性の乳首には鍵針かぎばりがピアシングされ、乳首の先端から血がにじんだ。


 私はこの男に殺されるかもしれない。

 何かいいようのない、得体の知れない恐怖が突如、女性を襲った。


 黒光りする男の右顔。

 男は狂ったような不気味な笑顔を女性に向けわけもなく微笑んだ。


 「おまえは朝を迎えられない。この部屋で死ぬのだ。これは宿命だ。おまえとわしが出会った運命をのろうがいい。そして明日には私の胃袋に収まる。スープ。カレー。とんかつ。ビフテキ。私はおまえを毎日のように食べる。食べておまえを思い出し、おまえへの愛を感じながらおまえを毎日食べる」

 高らかに笑う老人。


 目がいっちゃっていて、視点が定まっていなかった。

 おのを振り上げる。

 女性の右腕を切りつける。


 おのが当たった部分からは血が吹き出し、肉があけびのようにざっくりと2つに割れた。


 「ギャ~」

 女性の悲鳴。

 その声を楽しむ老人。


 もはや老人以外、誰の耳にも悲鳴は届かなかった。

 要塞ようさいのような佐村河内横溝邸、拷問室での出来事。

 彼女は殺されるために、佐村河内横溝と巡り会ったといってよかった。


 恐怖に震える女性。

 老人の右手には黒光りする斧が握られていて、もはやこれまでなのか。

 女性は許しをうた。


 お母さん。お父さん。高史たかし

 私はもう駄目かもしれない。

 ここから生きてでられないのかも知れない。

 女性は本能でそれを悟った。


 南無阿弥陀仏。

 南無阿弥陀仏。


 女性の口から出た言葉は、今までとなえたこともないおきょうだった。女性は肩で大きく息をしていて、過呼吸で倒れそうな細い体を2本の華奢きゃしゃな足で支えようと、座り込みながらも必死だった。


 殺されるのを悟った女性が、取った行動は1つ。

 それは男が一目ひとめで訳ありだということを外部に知らせることだった。

 男の体に証拠を残すことだった。


 老人がペニスを再び、女性にくわえさせた。

 女性は口の中に無理矢理こじ入れられた黒光りするぬめったペニスを。亀頭の部分から迷うことなく食いちぎった。


 男がグギーと、声にならない悲鳴をあげる。

 吹き出る血しぶき。あふれでる血液。


 甘い血の香りが女性の口の中、室内に広がった。

 勃起したはずのペニスは無惨にもちじこまり、老人のズボン。足を伝いコンクリの上に血のかたまりを作った。


 男は、女にペニスの亀頭部分を食いちぎられた。

 ぐぎ。ぎゃあ~。


 腹の底から絞り出すような声が辺り一面に響き、男は自分の股間を右手で何度もさすった。


 しかし本来あるべき場所に亀頭があるはずもなく、男は九死きゅうし一生いっしょうのような状態だった。


 「お~いてえ。あつ~。畜生」

 コンクリートの上にはき出された、つばにまみれた亀頭きとうが1つ。ほこりだらけの亀頭きとうをつまみあげ、つばきで洗浄し、元のあるべき場所に接着した。


 夜中なので病院に行くこともできないだろう、男はこれまでにない悲惨な表情を浮かべた。 


 男は咄嗟とっさに短い時間で判断した。

 仮に病院に駆け込み、何か訳ありだと思われ事情聴取されれば、男は今していた自分の行いを告げなければならなくなる。


 ここは泣き寝入りしかない。

 男はぶるぶると体を震(ふる)わせ、身をよじって痛みに耐えた。


 「くそう、生かしちゃおかねえ」

 男の中に怨念おんねんがうずまき、女を力尽くで突き飛ばした。


 「なんてことしやがる。貴様、死にたいか。そうか、死にたいのか。お望み通り、死んでもらおうじゃないか。苦しんで苦しんで。苦しんで死ぬがいい」


 女は観念したのか、男に命乞いするのをやめ、天をあおいだ。恐怖に震えた顔は青白く曇り、懸命に見開いたまぶたは泥だらけで汗がしたたり落ちていた。

 

 「畜生。このビッチ野郎」

 佐村河内は女性を何度も怒鳴り、どつき、自分に怒りをぶつけた。

 右手は血糊ちのりでそれでなくともベトベトしていて、洋服も血まみれだった。


 計算がわずかばかり狂った男は、発狂し、何度も怒りおののいた。

 前かがみになり、くの字になりながら、痛みに耐え、うめく男。

 怒りと痛みが交互に襲い、男は目を閉じ、腹で呼吸した。


 「泣け。わめけ。おまえに明日はない。あと5分もすれば、おまえは死ぬのだ」

 痛みと怒りにワナワナと震えた佐村河内横溝は、女性のまわりをぐるぐると行ったり来たり周回しながら、そして最後に渾身こんしんの力で斧を女性の頭めがけて振りおろした。


 バキ。グシャ。

 骨が砕ける音、肉が裂ける音が同時にあたりに響いた。


 女は万事休す、そこで絶命ぜつめいした。

 顔が2つに左右に割れ、脳みそが頭蓋骨からあふれ出た。


 見開いた瞳が、佐村河内をにらみつける。

 すいか割りのすいかのように、女は物のように地べたへと崩れ落ちた。


 グシャ。

 アドベ。

 

 モノがつぶれた音、骨がくだけた音が佐村河内の耳にしばらく残った。

 とどめを散弾銃で、頭の右半分を吹き飛ばした。


 壊死えししたペニスは、後日、捨てることとなり、男はそれ以来、女性とセックスができなくなった。自業自得だった。

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