第10話 Blue Spring Melody's
一本杉さんは、快く承諾してくれた。そりゃあ、10代の若者がバンド組むなんて。それなら、ミュージックオフィスも有名になるに違いない。会社としての判断だろう。
電車はガタゴトと揺れていた。JRから、地下鉄に乗り換える。それまでの段階で夜景はたくさん見ていた。でも、丸ノ内線のトンネルから出てくるときに見える夜景というのが格別に美しく感じられる。地下から出てきたという解放感があるからだ。
クカークカー
翔は寝ている。優理はミュージックオフィスの先輩(この中では)らしく、グループを作るときの手引きを調べていて、将嘉は、スマホで音楽を聴いていた。僕は――特にそれといった対策をしているわけでもなく、ライブをしている僕たちの姿を妄想していた。
次の日、スマホにメールが届いた。送り主には、ハルジオンと書いてある。
(優理だ・・・・・)
優理は、SNSなどのメールと、仕事用のメールを同じにしているから、SNS用の名前でメールを送ってくる。
『おはよう。昨日、電車で新グループを作るときの手続きみたいなもん調べたら、社員用ページにこんなことが書いてあった。読んでくれ。
https://musicoffice.com/syain/新グループ結成にあたって
頑張ろうな!!!!』
早速、そのリンクを開いて、説明を読む。
(っと、決めなきゃいけないことは・・・・・)
①グループ名
②メンバー
だけだ。これを報告すれば、あとは事務所が色々やってくれるらしい。
メンバーはもう決まっている。あとは、グループ名か・・・・・。そこは、また今度みんなと一緒に相談しなければならない。
僕は、みんなにLINEして、4人だけのランチに誘った。場所は、池袋のビルに入っているラーメン屋だ。
「で、今日は相談なんだろう?」
「結局、何を話すんだ?」
翔と将嘉は何も知らない。優理は、ちゃんと分かっているようだ。
「グループ名を決めよう」
「おお!!!!」
拍手が沸き上がった。僕は、手を握って、それを制した。
「まず、どんなワード入れたい?」
勝手に優理が仕切り始めたな・・・・・まあ、いいか。
「ボーイズ」
「メロディー」
「青春」
「バンド」
翔、優理、将嘉、僕の順で、入れてほしい言葉を言う。
「はい、ここに出た中で、引っ付けたいものある?」
そこで、将嘉が名案を出した。
「ボーイズと、メロディーを合わせて、メロディーズってどうだ?」
「おお、かっけーじゃん!」
「バンドは、メロディーズに統合でいいか?」
優理に問われ、その案を出した僕はうなずいた。
「んじゃぁ・・・・・残ったのは、優理案の青春だろ?」
「英語にすると、ブルースプリング?」
「それだ!!!!」
拍手喝采。ブルースプリング、それほど優れたものはない。
「カッコいいじゃん。ボーイズの代わりに、なんかこの年代を主張するものはないかなと思ったら、思いついたのが青春。アオハルだよ」
「なるほど」
「メロディーズは必然的に後になるよな。じゃあ、もう決まったんじゃね?他にやっぱこれってもんあるか?」
みんな首を振った。そりゃあそうだよ。こんな完璧なグループ名に誰が異論を唱えるというのだ。芸能界入りの優等生なのだから、僕らは。
「それじゃあ、グループ名を発表しま~す!」
優理が言った。そして、どこに準備していたのか、メモ帳を取り出して、赤ボールペンで大きく走り書きした。
「僕らは、これから『Blue Spring Melody's』だ!!」
ヒューヒューと歓声が上がった。
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