第9話 肉汁たっぷりの提案

 プシューッ

電車が、静かにストップした。

僕らは、軽快なステップで電車を降りた。改札を出ると、広い広い品川の通りが広がっていた。


「今から行くのは、富士山の溶岩で焼くことができる焼肉店だ」

「うお!富士山の溶岩!!すげぇ!って、ステーキじゃない?」

あ、確かに。

「え、ステーキのリクエストだったのか?」

「「「「そうそう」」」」

四人が声をそろえる。

「うわ、マジか!すまん、みんな。だが、あそこはなかなか美味い。心配するな」

「別に心配はしてないけど・・・・・」

ほらほらと、一本杉さんは僕らの背中を押した。


 品川の狭い道をたくさん歩いた。東京って、電車やバス、自動車ですぐに行けるかと思ったが、思ったより歩きも多かった。健康のためにはいいかもしれないが。


「よし、ここだ」

一本杉さんは足を止めたが、店らしきものは見当たらない。

「あ、あれか」

将嘉が下を向いた。

連なって、三人が下を向くと、階段があり、小さなドアが置いてあった。

「ついてこい」

階段を降り、一人がやっと通れる狭さのドアを通ると、活気があり、モダンな店が広がっていた。


肉を頼んで、最初に一本杉さんから、事務所について、ルール、やらなければいけないこと、などなどを話した。

「お待たせしました・・・・・、あれ、大事なお話の途中でしたか?」

「ああ、いや大丈夫。肉は置いてって」

ウェイトレスの若い男は、慌ただしく肉を置き、火をつけた。溶岩の鉄板がジリジリと暑くなる。

「君、新入りかい?」

「はい、そうです。いつもご来店ありがとうございます」

緊張しているのか、挨拶を済ませると厨房へ戻っていった。


「じゃあ、焼こうぜ」

いつものことなのか、率先して翔が立った。

「いいよ、私がやるから」

「そうじゃなくって、やりたいんだよ」

社長に向かって溜口か?!

「うおぉ、これが富士山の溶岩か・・・・・」

タンに、塩コショウを振りかけ、しばらく焼くと美味そうな塩タンがやってきた。

「いただきます!・・・・・うお、うめぇ!!」

「ステーキのつもりだったけど、こっちもありだね」

「うま!うわ、ここいつでも来れるわ」

僕は、その通りの感想を口にした。ああ、毎日来たい!太るから無理かもだけど。


「それじゃあさ、僕から話があるんだ」

「何だ?」

三人と、一本杉さんがコチラを向いた。

「バントを組んでみない?」

「「「バンド??」」」

「そう」

これが、僕が溜めていた考えだ。

「だってさ、僕はピアノ・・・・・ボーカル&ベースで、優理はギター、翔はボーカル&ギター、将嘉はドラム。なあ、完璧じゃないか?」


「確かにそうかも・・・・・」

「いいかもね。仲間と一緒に演奏するってめっちゃ楽しいから。このメンバーでバンド組んだら世間もビックリだよ」

優理は、考え込んでいて、将嘉は賛成の腰だ。

「俺はやる!!!!絶対にやる!!!!おい、良平。お前天才か!!すぐにテレビに出れるぜ。よっしゃぁ、やってやろうぜ!!!!」

ゆっくりとテッチャンを食べていた翔が言った。ロースをかきこみながら。

「みんながやるならいいよ。グループでバンド。うん、なかなかいいじゃん。僕はやりたい」

優理~~~~~!!!!

「それじゃあ、決まりだ!」


「バンド名は何にする?」

「デビュー曲は?」

「役回りはどうだ?」

「必要な楽器はどうする?」

早速、肉汁があふれるような話を始めていた。

みんな、この計画に乗り気のようで、良かった良かった。これで、承認してもらわないと。何としても、絶対に。

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