第12話 ありがとう‥‥その一言を

=注意=

今回は過去に思っていたことと思い出について高校生目線からの思いの二つを入れていてややこしく感じるかもしれません。ごめんなさい。


「おい圭祐!お前逆上がりも出来ねぇし掛け算も出来ないって何ができるんだよ」

「圭祐って本当に無能だなぁ」


みんなが集って嘲笑っていた。

教室で俺のことをバカにしていた奴ら。

俺は悔しかった。頑張っても出来ない、出来なければ笑われる。

そんな事が嫌で嫌で仕方なかった。


「‥‥」

「また黙ったよ、相変わらずだなぁ」

「‥‥っ‥‥っづ」

「圭祐泣いてんじゃん!ヤバいって!」


俺が泣くといじめっ子たちはすぐに逃げていく。いつもの事だった。

周りも関わりたくないのか何も言ってはくれず無視をする。

そんな日々を送っていたある日に俺は助けられたんだ。


―彼女に。


* * * * *


「大丈夫?立てる?」


いつものように虐められて泣いていた時だった。

周りの奴は知らんぷりをしたり冷たい言葉ばっかで‥‥

誰一人も助けてくれない冷えた教室だった。

しかし温かい言葉を掛けてくれた女の子が居たんだ。


「‥‥っつ」


手を差し伸べてくれた女の子は小松佐那だった。

涙のせいで周りがボヤっとしていたが彼女の顔だけは近かったのでよく見えた。

嫌がっている表情でもなく心配している様な優しい表情。


「大丈夫なの?圭祐君」

「うん、何もない。大丈夫」


佐那ちゃんはクラスの中でも人気ポジションの人間で、良くモテていた。

そんな彼女が助けてくれたのだ。

呆気に取られていた俺。


「‥‥圭祐君。一回ついてきて」

「っつ!?」


急に腕を掴まれて引っ張られた。

彼女に身を任せてついていく。

その背中を見て弱虫だった俺はとても彼女が強く見えた。


「っと、ここ。圭祐君に見せたかったの」


連れてこられた場所は学校にあった小さな池。

放課後だったので校庭には誰一人としていない。

池の中を覗くとカエルやザリガニなどいろんな生き物がいた。


「佐那ちゃん」

「ん?どうしたの?」

「どうして、こんな僕を助けるの?」


内心はどうしてここなのかはわからなかったがそれ以上にこんな自分を助けてくれる人が居たという事に驚いていた。


「んー、なんとなくかな。圭祐君はいつも虐められて、気にしてたもん」


小学生の頃はやっぱり女の子の方が精神年齢が高い。

特に佐那ちゃんはクラスの中でも本を読んで大人しい女の子で、でも掛け算も出来て逆上がりも出来る優等生で‥‥


「僕の事なんて気にしなかったら良かったのに」

「気にしないなんて出来ないよ」

「‥‥」


気にしてくれて嬉しいと思っていた所と女の子に助けられたという情けない自分を思う二つの気持ちがあった。


「でも僕なんかを助けたら佐那ちゃんの、周りからの評価が下がっちゃうじゃん」

「そんなの気にしないから私。だから気持ちがスッキリするまでここに居たらいいと思うよ。私も居るから」

「‥‥ありがと」


彼女の優しさは本物だ。


* * * * *


「圭、ちょっと急な事なんだけどいいか」


小学校から帰ってきた俺に深刻な表情をした父さんが声を掛けてきた。


「すまん圭。急な事だが引っ越さないといけなくなった」


本当に急な事で‥‥少しの間何も話さなかった。

俺が落ち着いた時に父さんは詳しく話してくれた。

今よりももっと良い場所がある、そこで店を開くと。

引っ越す先は今と違ってだいぶ都会なところだと。

小さい頃はそこまで店のことが分かっていなかったが恐らく田舎の書店じゃ儲からなかったのだろう。

しかも引っ越すという事は小学校も変わってしまう。



「小学校が変わっちゃうけど圭は大丈夫か?」

「うん!仕方ないことだよね。いいよ僕は、迷惑かけたくないし」

「ありがとう‥‥」


小さな俺はどちらかと言うと嬉しかった。

やっとあんな奴らと離れられる。

そのことを考えているとふと頭に一人の顔がよぎったのだった。


―佐那ちゃんだ。


もう一度二人で話したい。

もっともっと彼女にお礼を言いたい。

そのことを考えることになった。


「それでなんだが、荷物は段ボールに入れること。多分やけど日曜ぐらいには俺の荷物を送るから圭の荷物も早めに準備しとけよ」

「わかったよ」


* * *


そして学校にはもちろん俺が引っ越すことを伝えていたのでお別れ会というものが開かれた。


「ありがとうございました」

「‥‥」


みんなで書いてくれた寄せ書きをもらった。

でも俺が引っ越しても何も変わらないというかどうでもいいのだろうか。

寄せ書きには一言二言で終わっていた。


「圭祐君、この間の場所に来て。ゆっくり話そ」


佐那ちゃんを除いて。



そのメッセージを信じて池の方へ向かうと一人の人影が見えた。

その影は佐那ちゃんだった。


「圭祐君、引っ越しちゃうんだ‥‥」

「うん。親の都合でちょっと都会の方に行くんだ!こことは違うからまた楽しみ!」

「圭祐君が楽しみにしてるんだったら大丈夫そうだね」

「うん、学校が変わっても次のところで頑張るよ!」

「本当に、本当に頑張ってね」


佐那ちゃんが俺の手を掴んだ。

その手は小刻みに震えていていた。


「向こうに、向こうに行っても忘れないでね」

「大丈夫!佐那ちゃんの事忘れるわけないじゃん!」


悲しんでいるところを見せたくなかった俺は楽しみで元気なフリをして強がっていた。

素直にあの時はありがうって言いたかったのに。


「またね‥‥ありがとう、圭祐君」

「ん?僕何か佐那ちゃんにしてたっけ?」

「‥‥またねっ」


急に何処かへ走って去ってしまった佐那ちゃん。

強がっていてお礼すら言わなかった、言えなかった。


草原が濁って見えた。



=あとがき=

どうもこんにちは!ななだです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

いやぁー最近書くタイミングやらモチベやらがなくて書いてなかったんですがね、書けてよかった。

ついに圭祐の過去について書きましたねぇ。こっから大きく話を進めるつもりなので是非これからも見てください、お願いします。

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バイトとして来た女の子は初恋の女の子。 ななだ @nanada

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