第9話 助っ人の手助け(2)

『はじめはまず突っ込んでみるんです!同じクラスなら話すことくらいは出来ますよね?』


「‥‥そんなこと言ってもなぁ」


7限の授業が終わってやっと放課後に差し掛かったこのタイミング。

美咲ちゃんが言うには同じクラスなのだから声くらいは掛けられる。

声を掛けたら一緒に帰るなり誤って見たりしてみてはどうか。

一つの行動から様々な二パターン目を考えてくれていた。

なので今から少し怖いが小松さんに声を掛ける。


「小松さん、ちょっといいかな?」

「‥‥」


俺の声掛けに反応をする素振りは全く見られなかった。

しかしたまたま聞こえていなかっただけかもしれないと思いもう一度しっかり聞こえるような声で小松さんを読んでみる。


「えっと、小松さん?」

「‥‥」

「あっ‥‥」


俺の言葉には全く聞く耳を持たずそのまま恵理のところへ向かってしまった。

声を掛けても目すらも合わせてくれない。

そんなその場に立ち尽くしていた俺に一人の子が声をかけてきた。


「先輩?そんなところでぼっとして何してるんですか?」


ドアから顔を出していたのは美咲ちゃんだった。

わざわざ一年生の階から急いで降りてきたのだろう。

少しだけ息が荒かった。


「美咲ちゃん!わざわざこっちまで来たのか?」

「先輩のことが心配だったので‥‥」

「わざわざありがとうな、まぁ今失敗したんだけども」

「あちゃ‥‥早速撃沈しちゃいましたか」

「すっごく無視されたんだよな‥‥」

「んー、ちょっと作戦の方向を変えてみるのも策ですかね?早く帰って作戦会議の続きをしましょうか!」

「なんか美咲ちゃん喜んでない?」


心配だと言った時の声のトーンは少し低く本当に心配してくれていたようだった。

でも作戦会議の話の時は少しだけ声のトーンが上がっていたように思えた。


「え、いやーそんなことないですよ~。第一、私先輩のことしっかり考えてるんですから!」

「あ、ああ。すまん、ありがとう」


俺の思い込み過ぎだったのか‥‥

俺のことを思ってくれる美咲ちゃんが居るがやっぱり小松さんに無視されたのは流石に心に響いてきた。


* * *


「‥‥」

「先輩?」

「え、ん?」

「いや、なんか先輩が暗い表情をしていたものですから気になって‥‥」


学校からの帰り道、やっぱり学校のことがあったので全く美咲ちゃんの話が入ってこない。

あの事件がある前までは普通に話していた仲だったのに目すらも合わしてくれないという状況‥‥


「先輩ってやっぱり好きなんですよね‥‥」

「誰のことを?」

「あの小松さんですよ」

「‥‥」


何も言えなかった。

確かに俺はずっと小松さんのことが好きだ。

それには変わりはないが逆に聞かれてしまうと何とも言えない。


「なんでそう思うんだよ」

「女の勘ってやつですかね、先輩の表情とか行動を見て」

「はっ、女の勘で俺の恋心を当てられてたまるもんか」

「でも先輩真剣に落ち込んでましたよね」

「うっ‥‥」


しっかりと人のことを見ている美咲ちゃんには嘘をつけないのか。

何も言う言葉がなかった‥‥


「ねぇ先輩」

「ん?」

「私じゃダメなんですか?」

「え‥‥?」


―時が止まったように思えた。


「だ、だから‥‥小松さんじゃなくて‥‥私じゃ、ダメ、なんですか?」

「‥‥」


真剣な眼差しで見てくる美咲ちゃん。

その目はいつもの目とは少し違い、甘えているようなトロっとした目つきだった。

俺はその言葉、美咲ちゃんの様子を見てすぐには言葉が出なかった。


「‥‥先輩、聞こえてました?これ言うの辛いんですよ‥‥」

「あ、ああ。えっと‥‥」


美咲ちゃんが困ってる。

身長差があるので下から俺の方を覗き込む形で。

しかし‥‥そんなこと言われても何て言い返したらいいのか分からない俺は何も返せずにいた。


「‥‥」

「‥‥」


沈黙が続いている間。

早く答えを言わなければいけないが、美咲ちゃんに適当な返事をすることができない。

かと言ってもこのまま何か流れが出来るまで待つという事もできやしない。


「‥‥美咲ちゃん」

「はい」


本当はこんなことをこのタイミグで言うべきじゃないのかもしれないが、俺の思ったことをありのまま伝える。


「‥‥俺はそれに対して答えを出すことが出来ない」

「‥‥出してくれないんですね。返事」

「ごめん‥‥俺は美咲ちゃんに、美咲ちゃんに中途半端な気持ちで返事は出来ない」

「っふふ」


美咲ちゃんが急にクスっと笑った。


「なんか変なことでも言ったか?」

「変なことって言うか~」

「いや、先輩って結構私のことしっかり考えてくれてるんだなって思ったので」

「‥‥」


予想外の展開に少し戸惑ってしまったが、素直に言ったことが功を奏したのか美咲ちゃんを傷つけることなく言うことが出来た。


「でも、私はあきらめませんよ先輩のこと。小松さんの事を思っている先輩でも失恋した後の先輩でも私は、私はあきらめません。覚悟しておいてくださいよ」

「お、おう」


自分が思っていない方向に事が進んで、少し困った展開になったような気がする。

美咲ちゃんの言ってくれた言葉は男として本当に嬉しくて仕方がないが小松さんの事を考えながら美咲ちゃんとお付き合いをするのは違う。

それは美咲ちゃんに失礼と言うもの。

俺のそんな気持ちをしっかり感じてくれたのか何一つと文句を言わなかった。


「先輩!作戦会議のために急いで帰りますよ!」

「えっあ、ちょっと!?」


美咲ちゃんが急いで家の方向に向かってしまった。


「あ、あと先輩顔赤いですからね!」

「っ!?」


‥‥お前だって耳真っ赤なのに。


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