第7話 リンリン

「え、リンリンじゃん!?ビックリした‥‥」


佐那ちゃんを家に帰したすぐに後ろから声をかけられた。

声をかけてきたのはリンリン、秋喜稟。


「なんでリンリンがここに居るの!?」

「それよりも!なんで佐那があんな悲しそうな顔してるのさ!」


リンリンはいつもとは違って若干怒っているような言い方をしている。

いきなりグイグイ来るものだから驚いてしまった。

その驚きは何故こんなに怒っているか分からなかったから。


「え、えっと‥‥佐那ちゃん、圭祐と喧嘩って言うか、すれ違いと言うか‥‥」

「すれ違い?」

「圭祐は、佐那ちゃんの事思って言ったんだと思うんだけど‥‥佐那ちゃんがそれについて嫌で喧嘩になった感じかな」

「ん‥‥」


リンリンは腕を組んで何かを考えている。

眉間に皺を寄せているリンリンはいつもとは違った。

謎だらけなリンリンだけど、私以上に佐那ちゃんのことを考えているということが良く分かる。


「それって佐那は大丈夫なの?」

「私にはそんなに分からない。佐那ちゃんの為にはなりたいけど今は感情グチャグチャになってるからさ‥‥」

「電車の駅で話したことって何?」

「え?」


リンリンが言った言葉。

『駅で話したこと』に少し違和感を覚えてしまった。

何故ならその場には私と圭祐と佐那ちゃんの三人だけのはずだった。

でもこの二人の状況でそんなことを聞くことは距離感と言うか雰囲気のことで言うことができなかったので言うことをやめた。


「詳しい事話すんだったら圭祐も居た方が良いと思うんだけど‥‥向こうの考えも聞くことができるしさ」

「それが良いんだったらそれでいいけど‥‥」


* * * * *


「父さーん、買って来たからカウンターの下に置いとくよ!」

「ああ、助かる」


駅のことがあって買い物に集中できなかったものの、買わなければいけないものだったのでしっかりと買って来た。


「圭祐」

「圭君」

「あ、二人か‥‥なんだ急に?」


店の中に入ってきた二人。

それは茶髪の恵理と黒髪ロングの秋喜。

恵理が一人で来たならば今日の駅でのことなんだと分かる。

でも秋喜が居るのはなんでなのかさっぱりわからない。


「今日の駅でどんなこと話したか教えてよ」

「は?なんで秋喜が今日の事知ってんだ?居なかっただろ?」


今日の事には全く関係ない人物、そこに居なかった人物。

その秋喜が今回の事を聞いてくるのはどういうことなのか俺にはさっぱり分からない。


「それは‥‥とにかく今回の事聞かせて」

「恵理から聞いたんじゃないのか?」

「私は‥‥圭祐と一緒の方がこの話はいいかと思ったからここに来ただけ」


恵理から話そうと思ったらいくらでも話すことは出来るだろう。

でも恵理はそうしなかった。それには何か恵理に訳があって俺も同席での話になったんじゃないか。


「俺は小松さんと喧嘩した。それだけだ」

「喧嘩した?その内容を私は聞きたいの。佐那があんな顔してるのなかなか見た事ないんだから、圭君は何言ったの?しっかり本人から聞きたいの」


少し怒った様子でグイグイ近寄ってくる秋喜。

こいつは小松さんの事になると態度を変えてくる。初めて会った時だってそうだったし今だってそうだ。

秋喜の獲物を狙うような目は俺に向いている。


「俺は、俺は小松さんが俺みたいな奴と帰るより仲のいい恵理と帰った方が良いと思って言ったんだ。実際のところ俺みたいな奴が小松さんみたいな人と並んで帰るなんてあり得ないことだし」

「圭祐‥‥そこ」

「は?」


さっきまで静かだった恵理は人差し指を突き出して俺の胸に当ててくる。


「その考え方どうにかならないの?」

「その考え方って‥‥」

「圭君、佐那の事を考えて言ったのかも知れないけどさ、もう少し考えて欲しかったな」


全く分からない。

この二人が何を言っているのか、俺からしたら彼氏でもない男子と帰るよりも女子友達と帰った方が楽しいに決まってる。


「俺は、分からない‥‥」

「佐那は!っ佐那は!」

「稟、ここでそれ言うのはダメだよ。絶対に」


恵理がリンリンと呼ばずに稟と呼んだ。

その様子を見ると本当に真剣な話だと改めて認識した。


「ごめん、ちょっと考えさせてくれ。俺が悪いのは分かってる、でも今は時間が欲しい。一人で考えたい、ごめん」

「‥‥一週間、一週間だけ。次に来るから」

「‥‥」


恵理は何も言わずに先に出ていった。

そのあとにも俺の事をジッと睨みつけながら秋喜も店をあとにした。

秋喜が最後に口にした一週間は恐らく答えを出せということだろう。


* * *


「圭祐、今日小松君からのお願いで一時的に休ませてもらうだそうだ。何かあったんだったら俺を頼ってもいいからな」

「‥‥ありがと、父さん」


店の中に居るのは俺だけ。

いつも居心地のいい場所だったはずなのに今は心地が悪い。


「圭祐」


さっき無言で出ていった恵理が再び戻って来た。


「ストーカーの件については私が一緒に居るから、圭祐は気にしなくても良いよ。あと、リンリンの事なんだけど‥‥」

「ああ、駅のことだろ?」

「‥‥うん。ちょっと気になったかな」


やっぱり恵理も秋喜のそのことについては気になったようだった。


「俺もそうなんだよな‥‥まあ小松さんに何かあったらすぐに連絡してくれ」

「分かった、それじゃ」


そのまま恵理は店をあとにしていった。

それにしてもやっぱりあの秋喜の行動が少し引っかかる。


「あいつ、なんかあるよな」














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