第6話(前) すれ違い  

「そういえば小松さん、最近俺と帰ってる時はいいとして他でストーカーっぽい人って居なかった?」


学校からの帰り道。

いつも通り俺と小松さんは歩道で肩を並べて駅へと向かう。

最近になって当たり前になってきたため変な緊張感は少なくなった。


「全く見なくなったかな~。まぁ圭祐君が付きっきりだからね~」

「ただ油断は禁物だからな?いつ何処で何されるか分からないんだからさ」


今のところは俺が一緒に居るためストーカーの被害を受けていないらしい。

でもそんな安心感が油断を招いてしまうので気をつけないといけない。


「あ、そうだ。今日店の買い出し行かないとダメなんだけどどうする?一回家まで送ってから行ってもいいし、今から一緒に行ってもいいけど‥‥」

「店の買い出しか~、何買うの?」

「結構あるんだよね、ノリと、プリンターのインクと、A4の画用紙と‥‥」

「そんなにいっぱいあるんだったら人居た方が良いじゃん!このまま買いに行こ!」

「行くか‥‥」


ということで今から買い出しに行くことになった俺たち。

別に一人でも回ることができたが今日は早めに帰らないといけないので人が多いと助かる。


* * * * *


「圭祐さぁ‥‥」

「はい?」


涼しい風が吹き込んでいた駅のホーム。

小松さんと並んで電車を待っているときに来たのは恵理だった。

周りを見てみるといつも通り同じ学校の制服だらけ。

今日はたまたま同じタイミングで恵理が居たのか‥‥?


「いつから一緒に帰るほど仲良くなったの?もしかして付き合ってるとかじゃないよね?」

「恵理?そんなこと言ったら圭祐君が可哀そうでしょ」

「‥‥は?」


俺を挟んで二人で話が進んでいる。

俺には全くもって縁のない冗談だ。


「恵理はまず変なことを聞くな。小松さんも相手しなくていいから」

「あはは‥‥」

「率直に聞いたんだけどなぁ、圭祐が女子と帰ってるって‥‥」

「そういえばお前にあの事言ってなかったよな」


ストーカーの件については恐らく秋喜も知っている。

俺が『小松さん、くれぐれも気を付けるんだよ?変な人が居たら逃げてね?』と言った時だって本当に知らなかったら『え?どういうこと?』となるだろう。

でもあいつはならなかった。

事前に小松さんが教えていたのだろう。

しかし俺からは恵理に伝えていない。

今の状況を分からない辺りは小松さんも恵理には言っていないのだろう。


「小松さんはストーカーの被害にあってるんだよ。だから俺が守るみたいな感じで一緒に居るんだよ」

「え?ストーカー?」


恵理は思っていた以上のこと言われたからなのか唖然としていた。

急に友達がストーカー被害に遇っているなんて言われるなんて思わないのは普通だと思う。


「ストーカーって大丈夫なの!?私そんな話初めてだし‥‥」


恵理が物凄く真剣に考えている。

今まで恵理に言ってこなかったが俺たち二人の身近な人物だったのでもっと早めに言っておけば良かったかもしれない。


「俺と一緒に帰ってからは全く見てないらしいけど‥‥まだ油断はできないけどな」

「だから一緒に帰ってるのか‥‥私に出来ることってある?全力でサポートするけど?」

「サポートか‥‥」


恵理ができるサポート。

それは恐らく小松さんと一緒に帰ってもらうが良いかもしれない。

小松さんが俺と毎日帰ってるなんてもっと周りに知られたら困るのは小松さんだ。

俺の場合は元々周りから嫌われているから問題ないが小松さんの評価が下がっている一方な気がする。


「一緒に小松さんと帰ってほしいかな、俺と帰ったら小松さんの評判悪くなるだけだし」

「‥‥」

「それで良いんだったら手伝うけど‥‥」

「‥‥なんで、なんでそんなこと言うかな‥‥」

「小松さん?だってさ、俺なんかみたいな奴と毎日一緒に帰るなんて小松さんの評判が悪くなるだけなんだよ」

「‥‥」

「ちょっ佐那ちゃん!」


小松さんは駅のホームの階段を駆け上がっていった。

そのあとを恵理が追いかけに行ったので俺だけ。

何もせずに居た俺はただ茫然と階段を眺めるだけしかできなかった。


「‥‥帰るか」


駅の涼しい風が少し肌寒く感じた。











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