第5話 約束は脅しでもある
『今日圭君の仕事休みですよね?会って話したいことがあるんです』
水曜日の放課後。
小松さんと一緒に帰る前にスマホを覗くとそこには送信者秋喜と書かれたLone。
店の定休日は日曜日と月曜日。
しかし俺と小松さんの二人は父さんに水曜日の休みをもらっている。
でもそれを知っているということはそれも小松さんに聞いたのか。
俺のLoneを持っているということも小松さんなどにもらったのだろうか‥‥
「小松さん、秋喜に俺のLoneあげたりした?」
「うん、なんか欲しいって言ってたからあげたけどダメだった?」
やっぱり予想通りで小松さんが秋喜に渡していた。
「いや、全然構わないけど。いきなりLone来てたからさ」
「ああ、そういうことね!」
小松さんと俺はそのまま教室を後にして駅の方へ向かった。
秋喜には『分かった』とだけ返しておいた。
何処で何時に会うのかわからないけどめんどくさかったので一言だけにした。
「そういえば秋喜ってどんな奴かわからないんだけど教えてくんない?」
秋喜のことで知っていることと言ったら柔道経験者と小松さんの幼馴染。
少しでも話す相手の情報を知っておいて損はないだろう。
「稟の事?え、なんだろ。変態少女って言うべきなのかな‥‥」
「は?」
小松さんが小さな声でボソッと呟いた言葉、変態少女。
俺は本当にびっくりしてつい声に出してしまった。
変態少女ってどういうことだ?
「あ!ちょっと今のは忘れて!なしなし!」
小松さんが自分が言った言葉を全力で訂正する。
その様子を表すなら”アタフタしている”がピッタリだ。
予想以上に焦っているので小松さんも本気で間違えたのだろう。
少し気になるがそこまで忘れてほしいのだったら忘れてあげる。
「忘れた忘れた~。俺は何も聞いてませぇ~ん」
「その言い方忘れてないでしょ!?忘れてぇ~」
「忘れたから~大丈夫。忘れた~」
「忘れてくれたんだったら良いけど‥‥」
少し適当に、冗談交じりで言ったがすぐに人の話を鵜吞みにする小松さんだからか普通に信じてくれたようだった。
何か申し訳なく思ってしまったためもうその話をするのはやめることにした。
「それで?どんな人なの?」
「ん~、説明しにくいなー、強いて言うと不思議ちゃんってだけかな」
小松さんがまだあるのかと首を傾げている。
長い間一緒に居た人で不思議ちゃん。
あいつは俺の何かを知っている気がして凄く怖い。
せっかくこっちに来てそんなことは無く穏便に生活出来たのに昔にあったことなんて話されたらたまったもんじゃない。
「不思議ちゃんかぁ‥‥」
「一緒に話したら楽しいし圭祐君も仲良くしてあげてね?」
「そりゃ全然いいさ、最近女子にでも普通に話せるようになってきたし」
「はじめ私に変な言い方だったしねぇ~」
「昔のこと昔のこと」
と言ってもそんなに初めて会ってから時間が経ってる感じはしないが‥‥
でも小松さんのおかげで普通に女子にも話せるようになったのは事実なので感謝している。
前の俺だったら秋喜相手にキョドってまともに話せなかったと思う。
* * * * *
「それじゃ圭祐君、また明日ね」
「ああ、それじゃ」
いつも通り小松さんを家まで送った。
小松さんには言っていないが今から秋喜と会う。
‥‥何処で?
「秋喜のやつ‥‥場所言ってないのはダメだろ。ったく」
俺はスマホを取り出し秋喜にLoneをする。
『どこで待ってたらいいか分からないから一回家に帰ってから行く。また連絡してくれ』
家に帰ると父さんが一人で店を回していた。
品だしから接客までを一人でこなすのがあの人だ。
今日は忙しそうになかったので助けとしてバイトすることはない。
「ん?」
お尻のポケットに入れていたスマホがブゥゥゥ、ブゥゥゥと鳴っていた。
秋喜からの電話だった。
『あ、でたでた。圭君?今家の前に居るから玄関開けてくれない?』
『は?』
秋喜は今俺の家の玄関前に居るとのこと‥‥
俺はついさっき帰ってきたのに今いる、タイミングが悪い。
電話で秋喜が玄関に居るということなので玄関を開けた。
「どうも~」
「集合場所言わねぇと思ったらここか‥‥」
「だってあんまり外で言わない方が良い内容だと思っただけなんだけどなぁ~。別に圭君が外でも良いんだったら外で話すけど?」
「‥‥中で話すか」
秋喜の言い方は俺に関して悪い事を言いに来たという感じだった。
そんな話を外でするわけにもいかない為仕方なく家にあげた。
「お邪魔しまーす」
「こっち」
俺はどこに秋喜を呼んだらいいか分からなかった。しかし店の方へは連れていけない為仕方なく俺の部屋に居てもらうことにした。
「それでなんだ?」
「‥‥」
「おい」
秋喜は俺の部屋をグルっと見渡していた。
別に見られて困るものなんて一つもないため問題はないが‥‥
「‥‥何にもないね。圭君の部屋」
「そんなのはどうでもいい。早く話の本題に入れ」
「えっと、率直に言うと~。圭君って小学校の頃イジメられてた?」
「‥‥やっぱりお前俺の事知ってたんだな」
嫌な予感が当たった。
やっぱりこの秋喜稟は俺の過去を知っている。
俺が学校でイジメられていたこと。そして泣き虫だったこと。
今では耳の痛い話だ。
「圭君やっぱりそうだったんだ~」
「それで?それがどうかしたか」
「佐那、小松佐那の事って始めから分かってたんじゃないの?さっきやっぱりって言ってたし」
「‥‥ッ」
物凄い観察力だ。
俺は小松さんについて全く話していなかったのにそこまで話がつながった。
全部の言っていることが図星過ぎて少し恐怖を感じる。
「そのこと小松さんには言ったのか?」
「言ってないけど?逆になんで言わないのさ、久しぶりに再会できてうれしい場面でしょ」
「‥‥嫌なんだよ」
「何が?」
「昔の俺を知ってる人と会うのは‥‥」
小松さんと会うのは嫌じゃない。
なんなら彼女と居て嫌だったことはない。
でも今の俺は一緒に話せるが昔の俺を知られて軽蔑されるのが怖い。
だから俺は知ってる奴には近づきたくない。
「そんなに昔の自分を知られたくないの?」
「‥‥俺のあの時は情けなかった。無駄に正義感が強かったりイジメられて泣いてるところを女子に守ってもらったり。それを知られて軽蔑されるのが嫌だから黙ってるんだ。小松さんは俺のことを覚えていないので言わない」
「ふーん」
さっきまで軽い顔で話していた秋喜だが急に顔色を変えた。
「私は知ってるけど?いつでも佐那に言えるよ?」
「‥‥」
「ま、私は言わないけど。佐那に手を出さないって約束してくれるんだったら」
「‥‥」
手を出さないということはもちろん暴力などはしない。
でもそれは告白とかも出来ないということ‥‥
「どうしたの?」
「‥‥できない。その約束は難しい」
「なんで難しいの?」
「‥‥」
「はぁ。なんとなく分かるから言わなくていいよ」
秋喜は持ち前の洞察力で俺の思っていることを読み取ったらしい。
「佐那から告白してきたりするんだったら良いけど圭君からはダメ。それは約束ね」
「‥‥ありがとう秋喜」
「破ったら言うからね?」
「はい‥‥」
秋喜は俺のために提案をしてくれたのかただ単に俺を脅すためにこの話を持ち掛けてきたのか、それがどっちなのか分からない。なので味方なのか敵なのかわからない。
「今日言いたいのはこれだけ。安心して?約束守るんだったら何も言わないから」
「分かった。ありがとうな」
俺の部屋で行われた話し合いは物凄く濃かった。
しかし俺にとって良い話し合いではなく一方的に無効に主導権を持たれた話し合いだった。
大変なことになったが少しでも言われるという不安がなくなったので気持ちが楽になった。
‥‥秋喜稟。
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