第3話 久しぶり
「それじゃ圭祐君。一緒に帰ろ」
「ああ、そうだな」
時間は月曜日の放課後。
先週の土曜日に話していた一緒に帰ってストーカーから守るという約束をしたので今日から小松さんと一緒に帰る。
「そういえばお前、指切ったのか?」
小松さんの右手、人差し指と薬指に絆創膏が貼ってあった。
俺が指摘すると小松さんは素早く指を隠した。
「ちょっとね‥‥ヘマしちゃって‥‥あはは」
「まぁ気をつけろよ?指って大事だぞ?」
「ありがと、気を付けるよ」
指で怪我をしたと言うことは十中八九料理なのだろう。
だからといって別に深く聞かなくてもいいか‥‥
「あ、そういえば圭祐君」
「ん?」
「今日そのままバイトについてもいい?」
「ああ、全然構わないけど‥‥どうしたんだ急に」
いつもだったら一度家に荷物を置いてバイトに来る。
「ストーカーの件もあるしちょっと怖いからさ、そのまま行こうかなって」
確かに、ついこないだストーカーらしき人影があったこともあるし心配ということもあるだろう。
「さ~な」
「?」
「稟!?なんで稟が居るの!?」
下校中の俺たちの前に現れたのは小松さんよりも少し背の高い女の子。
髪はロング。
まつ毛が長く美しい。
誰もが美しく思えるであろう美貌。
「久しぶりだね、佐那」
「久しぶり~稟~」
小松さんがその子に嬉しさをむき出しにして抱き合っている。
久しぶりだということは恐らく中学校とかの同級生とかなのだろうか‥‥
「こっちの人は?」
「ああ、紹介するね。大住圭祐君。私のバイト先のバイトの店員とクラスメイト」
「大住圭祐‥‥」
俺の名前を聞いて何故か悩んでいる様子を見せている。
別に俺の名前は有名でもなんでもないはずだから別に何にもないはずだけども‥‥
「稟?どうかした?」
「うんん、何にもない。大住君‥‥」
「なんだ?」
急に俺の名前を呼んでは急に近づいてきた。
俺は少し後ろにづれたが袖を引っ張ってきたので何かと思えば頑張って背伸びをして俺の耳元に小声でささやいてきた。
「佐那に手出してないよね」
「っ!?」
初対面の男子に向かって言う言葉なのだろうか‥‥
どうなのよ、とでも言いたそうな顔をして俺を見つめてくる。
「なんにもしてねぇよ。急に変なこと聞くな!」
「ん?何言ったの今?」
「何にも~?」
「‥‥」
「まぁいっか。それよりも、圭祐君。この子は
‥‥秋喜。
中学からの友達だと思っていたが、幼馴染ということは恐らく小学校は俺と同じだ。
俺はこいつのことを全くもって覚えてはいないが、もしかしたら向こうが俺のことを覚えていて小松さんにそのことを聞いてしまうかもしれない。
俺が小学校が同じだった大住だってバレたくない以上はこいつ、秋喜に聞いておくべきなのかもしれないな‥‥
「ま、まあよろしくな秋喜」
「よろしくお願いします。圭君?」
「っ!?俺の名前は圭祐だぞ?秋喜」
「いいじゃないですか圭君」
「稟ってそんなに遊ぶ系女子だっけ?もっと静かだったじゃん」
「気のせいだよ気のせい。私はいつも通りだよ?」
「‥‥」
何だろうか、凄く嫌な予感がする。
別に殺されるとかそういうわけじゃないんだが明らかに俺の何かを知っている気がする。
変なことを小松さんには言ってほしくないんだけど‥‥
「とりあえず俺は行くけど‥‥小松さん、どうするの?せっかく友達が来たからバイト休んでも良いよ?俺一人でも回るんだし」
「うーん、それじゃあ圭祐君のお言葉に甘えて稟と遊びに行かせてもらおっかな?稟はこれから大丈夫?」
「うん、全然時間はあるし。遊ぶんだったら時間も夕方だし早く行こ!」
「小松さん、くれぐれも気を付けるんだよ?変な人が居たら逃げてね?」
「大丈夫!いざというときは稟に守ってもらうから」
俺がストーカーの件について心配して注意したが小松さんは自信満々に安心してといわんばかりに言い返してきた。
しかもそれは秋喜が守ってくれると言っている。
「守ってくれるって‥‥」
「稟はね、柔道やってて強いんだよ?」
「‥‥少しできるくらいだから」
小松さんいわく秋喜は柔道が出来て強いということらしい。
秋喜は少しできるだけと否定している。
「それじゃあ俺はここで帰るぞ?」
「うん、ありがとう圭祐君」
「ありがと、圭君?」
「お、おお」
やっぱり圭君なんて呼び方は慣れない。
* * * * *
「佐那?圭君ってさ、一緒の小学校だった子?」
「あ、えっと‥‥そうなんだけど」
確かに圭祐君は小学校が同じ。だけど私は圭祐君と元同級生だということは言いたくはない。
圭祐君は私の事を覚えていない。
小学校の頃に好きになってからずっと思って来たけど、そんなことを今さら言ってもめんどくさい女子になっちゃう。
それだったら今の私として好きになってほしい。
だからこそ!私は高校生活でもう一度新しく圭祐君と関わりたいから言いたくない。
「稟、お願いだから圭祐君にはそのこと言わないでね。私の事バレてないから‥‥」
「なんで言わないのさ?」
「‥‥」
「言いたくないんだったら良いよ。私も言わないし」
「‥‥あのさ?私さ、好きだったんだよ圭祐君の事」
横になって歩いていた稟の速度が遅くなった。
「圭祐君さ、引っ越すときにみんなに言わないで一人そっと引っ越したじゃん?私それがショックでさ。久しぶりに会った時に私の事、初対面みたいに話してきたんだ。だからそれだったら初めて会った私のこと好きになってほしいから‥‥」
「なんか佐那って一途だよね。普通そんなに長い事ないよ?」
今までに何度か告白されたことはある。
小学校高学年とか中学とかで。
でもやっぱり私は無理だった。心の奥ではずっと圭祐君が残って離れなかった。
「他の人じゃ‥‥嫌なの」
「ふーん。まぁいいんじゃない?佐那がそう思うんだったら」
背中をトンッと押された。
稟は私よりも速く歩いてこちらを向いた。
「その一途は全然いいと思う。私も応援する。頑張って?」
「ありがと、まぁ多分稟のことも覚えてないから実質初対面だよね‥‥」
「私はどっちでもいいし~。でも私が同じだったって言ったら佐那も一緒だったってわかっちゃうからね?」
「言わないで!」
「言わないって~」
久しぶりに稟と会ったけど楽しそうで良かった。
「佐那?早く行くよ?」
「はーい」
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