第6話 観光と書いて遊びと読む
恵理がいきなり言い出した提案。
三人で遊びに行くということになり強制的に連れていかれた俺。
流れに身を任せて電車に乗って着いた。
「なぁ」
「ん、どうしたの圭祐?」
「なんで来たのがここなんだ?」
俺たちがいる場所は京都、伏見稲荷大社。
周りには平日にもかかわらず観光客であふれていた。
「なんでって佐那ちゃんの要望だったんだからさー」
「小松さん選択渋いね‥‥」
「え、大阪の高校生って京都近いから遊びに行くんじゃないの!?」
「ま‥‥まぁ抹茶とか食べに行ったり‥‥?」
小松さんは大阪の高校生は京都の観光を遊びとしていると勘違いしていた。
関西の偏見とか噂なんて聞く機会は少なくないとは言ってもそんな噂は聞いたことがない。
田舎からのイメージってこんな感じなんだと改めて実感することができた。
「佐那ちゃんその考え方‥‥」
「え、違ってました?」
「めっちゃいいじゃん!京都で観光するってあんまり考えたことなかったけど結構楽しそうだわ!だからいきなり伏見稲荷なんて言い出したのか。納得~」
小松さんの間違いをまだ柔らかく訂正することはできたはずなのに恵理がいつも通りの感じでちゃかしながら訂正してしまった。
流石の俺でももっと良い方法で出来たと思う。
「小松さんその間違いどこで聞いたの?」
「中学の頃の友達から聞いたよ?とりあえず遊ぶんだったら京都で観光って言っとけば友達はできるから大丈夫って」
「‥‥」
俺も住んでいた田舎に物凄い偏見があったものだ。
小松さんは俺たちの戸惑いに対して”なんでそんな反応するの?”と、でも言いたそうな顔をしている。
「そんなことより佐那ちゃん!早く行こうよ早く!」
「え、あ、うん!」
そんな小松さんの腕を恵理が引っ張って先へと進む。
会って二日目なのにあの仲良し具合は流石恵理と言ったところだろう。
そのコミュ力の高さを備えているからいろんな人と話せるんだろうなとつくづく思う。
学校では人と話す必要なんてあまり感じられないが、店になると接客をたまにしなければいけないので少しうらやましく感じる。
* * * * *
「うわぁー。やっぱり綺麗だねここ」
「奥までずっと鳥居が続いてるよ!?ねぇ圭祐君!すごいよ?」
「ああ、すごいな」
恵理が一番騒ぐと思っていたのだが一番騒いでいたのは小松さんだった。
やっぱり初めての場所でテンションが上がっている。
その証拠に一人で先先と進んでいってしまった。
観光客もいる中で流石に急いで登ることはできないので俺と恵理は二人でのんびりと上へと進んでいった。
「佐那ちゃんもう先の方まで上がって行っちゃったよ」
「恵理は一緒に行かなくていいのか?」
「んー、しんどいし?佐那ちゃん先先進んで行っちゃうからね‥‥」
「まぁそんなもんだよな。あれには追い付けん‥‥」
「それで?」
「それでとは?」
「佐那ちゃんのことどう思ってるの?」
「は?何急に」
「何でもいいじゃん。答えてよ」
恵理はいきなり変な質問をしてきた。
俺のことをからかってくるのは小さい頃から変わりないので冗談半分ではあるのだと思うが本当に急すぎてびっくりした。
「なんとも思ってねぇよ」
「ほんとにそうなのぉ?佐那ちゃん可愛いしねー。私が男だったらイチコロだよあれは」
「イチコロって‥‥」
「それでどうなのよ?」
「だからさっき言っただろ?なんとも思ってねぇって。第一あいつはただのクラスメイトでバイト仲間だけだから」
「好きになる要素いっぱいあるじゃん」
「まだ来て間もないし俺こないだ会ったんだぞ?」
「そうだよねー。さすがにないかぁー」
女子と今までそんなに関わっていないと分かっているはずなのにそんなことを質問してくる恵理は鬼だ。
小松さんはそんな俺でも『でもね、私そういうところ嫌いじゃないよ?』って昨日言ってくれた。そんな優しい言葉をかけられて若干、ほんとのほんとに若干だけ浮かれていた俺だったがやはり恵理みたいに思ってるけど優しさで言ってくれた情けなのだろうか?
「わざわざ聞いてきて早めに納得するんだよな恵理は」
「え、もっと否定して話したらよかった?圭祐は女子から見たらカッコいいから別にそんなこと思ってても大丈夫だよ!佐那ちゃんは圭祐がゲットすべきだよ!」
「やめろやめろ。いくらお前でも女子にそんなこと言われたら照れるだろ?」
「あれぇ?ちょっと喜んでない?」
「って言うのは冗談でさ。俺がそんな女子に言われても心に響かないんだよ」
「何それー。だってさ?圭祐から”可愛い”とか”好き”とか聞いたことないんだもん。気になるじゃん」
「俺が女子に可愛いなんて言うことなんて本当にないぞ?」
心の中では普通に可愛いとは思っているが口に出さないだけ‥‥
「そういうところ結構意地っ張りだよね圭祐って」
「それが俺の長所でもあったりする!?」
「そんな訳ないでしょ。夢から覚めたらどう?」
「ひどいなー」
二人で会話をしながら登っていると途中休憩場?みたいなところが見えてきた。
そこにある最後の鳥居の横に一人、小松さんが立っていた。
「二人とも遅いよー」
「ごめんねー圭祐がどうしても途中にいたカエルを眺めたいとか言ってさー」
「圭祐君カエル眺めてたの!?鳥居じゃなくて!?」
「眺めてないし見てもない。頼むから恵理は変なことを小松さんに言わないでくれ。小松さん結構人のこと信じるんだからさ?」
恵理の冗談に対して結構本気で信じてしまう小松さんはなぜだろう。
しかもノリに乗って言ったとかの様子じゃなくて普通に信じていた。
「流石に鳥居のことじゃなくてカエルなんて見てたら日が暮れるよ」
「だから見てないって」
「あれ、なんか圭祐佐那ちゃんに普通の当たり方じゃん」
「そうか?」
「圭祐君確かに私に言ってる口調がなんか違うよね」
「気のせいだ」
「まぁ気のせいにしとこうよ佐那ちゃん」
「はーい」
別に俺はそんな言い方を変えたつもりはないが、いつのまにか小松さんにも恵理への喋り方が写っていたのだろうか‥‥
「そういえばさ?一緒にラムネ飲まない?ここにラムネ売ってるんだー」
「ラムネかぁ、圭祐どうする?」
「別に俺はどっちでもいいぞー。飲みたいんだったら飲んだらいいし」
「私は飲みたいから飲む!」
「私も飲もっかな。圭祐がここでおごってくれたりしないのかなー?」
「ない。自分で買え」
「チェーッ」
* * * * *
結局恵理は自分でラムネを買って端っこの方で座って飲んでいた。
そしてその横に小松さんが座っていたので美人ぞろいの席で俺は座りたくない。
なので俺はその横で立っていた。
「ラムネっておいしいよねー。飲んでて生き返るわー」
「圭祐君、このビー玉ってなんのためにあるんだろうね」
「ああ、これな。これについては紀元前まで戻って話さないとダメなんだよ」
「え!?これって紀元前からあるの?」
「無いに決まってるじゃないの。圭祐の嘘に騙されないで」
恵理がラムネの瓶で小松さんの頭をコツンとたたいた。
流石小松さんと言ったところだ、俺の言葉に対してすんなりと受け入れて疑うことを知らない。
「いてててぇ‥‥あとさ二人とも!ここから上に行く道二つあるんだってさ!」
「二つあるんだ!二つって何か変わってるところなんてあるの?」
「どうなんだろうね?私は全く知らない。圭祐君は何かわかることないの?」
「俺は別に知らないな‥‥」
小学生の頃に家族で一度来たことはあるものの、丁度ここの四ツ辻まで上がってから帰ったためここから上に上がることに関しては初めてだ。
あと別にどっちでもいい‥‥
「それじゃあこのボールペンが倒れた方向に行こっか!」
「じゃあそうしよっか」
小松さんはカバンから取り出したボールペンを人込みを避けた場所で立たせた。
やってることは別に悪くはないけどもこの人込みの中でボールペンを地面に置いてまで迷うことなのかと言いかけたが言うのをやめた。
「こっちだってさ。ラムネのゴミ捨てたら行こうよ!」
「本当に佐那ちゃん元気だよね‥‥流石の私でも疲れるわ」
「小松さん張り切ってるもんね」
明るい系女子だとは分かっていたがここまで元気だとは思わなかった。
いつも教室で賑やかにしている恵理でさえこのペースについていけてないのは正直言って驚いた。
そして俺たちはそのボールペンがさした方向に向かって長い階段を登って行った。
鳥居がずらっと並んでいてその中の階段を登っていくのは何というか不思議で楽しかった。
‥‥足に結構な負担はかかっていたが。
「圭祐君すごくないここ!?」
「うぁお。すごいな、私こんなの見たことないや」
「結構いい景色だなここ」
今は一番上の神社の裏にある展望スポット。
今日は天気がとてもいいので京都の街並みがよく見える。
小松さんはさっき以上にテンションが上がっていてしっぽでも振ってそうな感じがした。
「ねぇやっぱりみんなで写真撮らない?」
「写真かー、いいじゃんそれ!撮ろ撮ろ!」
恵理と小松さんは一番景色のいい場所で撮ろうとしていたので俺はそっと離れた。
あの二人と一緒に写真を撮るなんて気が引ける‥‥
例えるならば動物園のパンダの檻の中に生えて邪魔なツタだぞ。
そんなツタはいらない。なので俺は離れた。
離れた俺はそのまますることがなかったので神社を参拝した。
(俺に平和な高校人生がこれから送れますように)
しっかり高校生活のことを願ったから神様よ、頼むから叶えてくれよ。
「あ、圭祐!何してんの!?せっかく一緒に撮ろうと思ったのに!」
「だからここに居るんだよ」
「圭祐君一緒に撮らないの?」
「圭祐‥‥まぁいっか。またいつか撮ればいいし?」
「ああ、助かるよ恵理」
「圭祐君恥ずかしいの?」
「写真が嫌なだけだ」
あまりそんなことは言いたくなかったのが本音。
昔から写真に慣れてなくて変な顔になるので嫌なのだ。
「なんか圭祐君のおもしろい一面を見た気がする」
小松さんは良いものを見たとでも言いそうな笑顔だった。
「勝手に面白がるな」
「いいよー佐那ちゃん。もっと言ったて」
「もう何でも言っとけ」
自分でも周りとも若干ずれていることは分かっているので別に困ることは無い。
* * * * *
「なんかあっという間だったねー」
「確かに、まぁでも楽しかったからいいじゃん?ここの階段がラストだよ」
二人が写真を撮り終わってからのんびりのんびりと階段を降りてきてもうすぐ一番下に着く。
二人は何枚も一緒に写真を撮ったりと歩くのが遅かったため俺が手で届く距離で歩けども前を歩いていた。
結局のところ二人は始めよりも仲良くなったのかもしれない。
俺からしたら友達だろうが他人だろうがどっちでもいいが‥‥
「でもさ、やっぱり来てよかったよ。ありがとう二人とも」
「どういたしまして。佐那ちゃんの元気っぷりには驚かされたけど」
「そんなことないですよ、私はゆっくり登ってましたよ」
「えー?それほんっ」
「小山さん!」
「どうし、ッ!?」
恵理がこちらに倒れてくる。
俺はとっさに倒れ込んでくる恵理に対して身を構えた。
恵理はそのまま俺に向かってきて俺が無事に壁になれた。
‥‥ちょっと、うん。ちょっと当たってますが。
「っちょ恵理!大丈夫か?」
「あはははぁ‥‥ごめんね圭祐。ありがと」
「小山さん大丈夫?」
「うん。へいきだよ。ごめんね心配かけて」
恵理は俺に抱き着いていたのをやめてすぐに離れた。
正直言って俺の頭の中はいっぱいいっぱいだった。
初めて女子に抱き着かれたこと。
女子が思った以上に柔らかったこと。
「圭祐君もよく抑えられたね」
「小松さんの声がなかったら振り向いてなくて一緒に倒れてたけどな」
「‥‥」
「どうしたの小山さん」
「え、あ、何でもない。ちょっと怖かっただけ」
「まぁ、なんだ。ケガしなくてほんとによかった」
「ありがと。ほんとに」
自分が言った臭いセリフに少し後悔で顔を見せられそうになかったのでさっさと進むことにした。
助けたことには変わりないものの、普通に俺が女子と抱き合うなんてなかったものだから変に気まずくなってしまった。
* * * * *
結局はそのまま何事もなくして家に帰った。
俺の方が気まずく感じてしまい、話しかけずに遠くを見ながら帰っていた。
その途中には小松さんが必死にしゃべってくれたので心の中でたくさん感謝をしたので大丈夫だろう。
「あ、一応今日のお礼送った方がいいよな‥‥」
別に今日のことが嫌だったというわけではないので小松さんぐらいにはお礼くらい言っといた方がいいと思う。
‥‥恵理は気まずすぎるし。
「あれ、そういえば俺って小松さんのLoneって持ってないじゃん」
持ってないことを忘れていた。
なのでお礼は言うことができない。
「しなくても、いいか」
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