第5話 友達なんて居なくても生きれる
そして始まってしまった始業式。
ほとんど何もしなかった春休みだったが終わってしまうとやはり寂しさが襲ってきた。
春休みの寂しさに浸っていると同時に一つ気になったことがある。
校門を過ぎですぐのところに人だかりができていた。
気になったものの人壁のせいで全く見えなかったためやっぱり無視して新しいクラスに向かう。
「あれ?圭祐一緒のクラスじゃんー」
「あ、恵理じゃん。一緒か‥‥」
他のクラスメイトの名前を見ていなかったので気づかなかったが俺のクラスには恵理がいた。
「何その反応?嫌みたいな反応してるじゃん」
「気のせいだよ」
「あ!もしかして‥‥お守り渡すことでどんよりしてるの?」
恵理が俺の頭をツンツンとつついてくる。
恵理はクラスの中でも基本1軍で男子からも人気が高いはず。
人気者で可愛い女子に俺がこんな関わりされてるなんてやばいよな‥‥
まぁそんな優越感を感じたり周りからの目線などを気にする俺がいる。
「ああ、そうだよ。悪いか?」
「だよねー。だって朝からもあんなに人気だったしね佐那ちゃん」
「もしかして校門のあれか?」
「うん。すごいんだよ佐那ちゃん。もう人気者なんだねー」
校門の人だかりの中心にいたのは小松さんだったようだ。
転校初日でしかも校門の時点であんなに人だかり‥‥
すごく行きたくなんだよなアイツのところに。
「行きたくないんだよな‥‥」
「でもしっかり渡すんだよ?」
「そりゃわかってるけどさ‥‥」
「不安?」
誰だって不安にはなるだろ。
転校初日からあんなに人だかりが出来ている女の子に俺みたいなやつが渡すんだからさ、不安としんどさがすごい。
「まぁ不安だな」
「そっちも大変だねー」
何気なく二人で話していると1年の頃に恵理とずっと話していた女子が教室のドアからこちらの方をジッと見ていた。おそらく恵理に用事があるのだろう。
「なぁ恵理?」
「どした?」
「お前の客だぞ?」
「え?」
俺はドアに居た女子に向かって指をさす。
「あ、ありがと圭祐。それじゃまた後で」
「はいよ」
「頑張れ!」
「‥‥おう」
恵理は聞くだけでそのまま何処かへ消えてしまった。
内心”心配だけ”かと思ったがよく考えるとすぐに離れてくれてよかった。
―別に嫌いとかじゃないけども。
恵理が何処かへ消えてほっとした時に廊下が騒がしいことに気づいた。
俺と同じように廊下が騒がしいことに気づいた人たちが一斉に廊下に出て行った。
さっき聞いたことと考えると明らかに小松さん。
俺の高校は小松さんには話していないから別に今から会いに行かなくてもいいだろう。
だがそんな思いも届かなかったのか徐々にこの教室に向かって声が聞こえてきていた。
「あれ、え、え?」
「‥‥」
教室のドアではっきりとこっちを見ていた小松さん。
やっぱり小松さんだった。
彼女は俺がここに居ることに余程驚いたのか目をまん丸にしていた。
でも周りに人だかりが多いので無視することにした。
もう一度小松さんの方を見てみると‥‥居ない?
「圭祐君‥‥」
「‥‥ッ!?」
横に現れたのは先ほど俺のことを見て動揺していた人物、小松さんだった。
一度目を離した瞬間に俺の横まで来ていた。
彼女は怒ったようにこちらを近距離で見つめてくる。
ただその目はいつもよりうるっとしていていた。
「圭祐君‥‥」
「‥‥」
「この学校の生徒だったら早く言ってよ‥‥。私朝から大変だったんだから」
「いつもの元気さは?」
「そんなのどっかに捨ててきた。お守りと一緒に」
てっきり人気者で喜んでいたと思っていたがお守りのことで落ち込んでいたんだ。
俺がもっと早く言っといてあげたらよかったと今更後悔する。
「そういえばさ、あったんだよお守り」
「え?」
「あったんだよ」
「‥‥」
さっきまで暗い顔をしていた小松さんだが今の一言でパァっと明るくなった。
物凄く可愛い笑顔で‥‥
「何処にあったの!?」
「店に落ちてたって父さんが言ってた。これでしょ?」
カバンの中に入れていた小松さんのお守りを渡す。
結局はしっかりとお守りを渡せたので安心した。
「って、え?」
なんと小松さんは息を殺しながら泣いていた。
泣く声は聞こえないものの、肩の震えや鼻のすする音が聞こえてくる。
「え、なに?あいつが泣かしたの?」
「うわぁー。マジありえね」
「あいつらどういう関係?」
「先生呼んできた方がいいのかな?」
「あ‥‥」
さっきまで周りにいた奴らが俺に目線を集めてくる。
傍から見たら俺が小松さん泣かしたみたいになってるし。
「ちょっと小松さん!こっち来て」
「‥‥え?」
俺は小松さんの腕を掴みそのまま屋上に向かった。
屋上なら人はいない。俺たちが走るとその野次馬たちが道を開けていく。
流石にあの状況でずっと教室に居たら何があるかわからない。
そして俺たちは野次馬たちに注目を浴びつつもどうにか屋上についた。
二人で階段と廊下を駆けぬけてきたので二人とも息が上がっていた。
「‥‥」
「‥‥」
何も考えずに屋上に逃げてきたため、沈黙が流れていた。
「小松さん?大丈夫?」
「‥‥大丈夫。ありがと。別に圭祐君のせいで泣いてるわけじゃないのに‥‥」
「いいよ、そんなこと。勘違いされたって困る奴らなんて居ないし」
「でも、私のせいで‥‥」
「いつもの小松さんみたいに元気だしてよ」
「ありがと、圭祐君は優しいんだね」
「‥‥ッ!?」
いきなり女子にやさしいなんて言われてしまった場合ってどうすんの!?
今までこんなシチュエーションで言われたことがないので反応に困る。
「そんなことねぇよ。‥‥ただ周りの奴が、他よりも少ないっていうか‥‥」
「ねぇ圭祐君」
「ん」
「‥‥ぼっちって大変だね」
「‥‥気にしないでください」
小松さんはさっきまでの泣いていた顔とは変わって笑顔が出ていた。
だが目の下は少しだけまだ赤かった。
「そういえばさ圭祐君」
「ん?」
「なんで同じ高校って言ってくれなかったの?」
「前から今日みたいな人だかりできるんだろうなって考えてたから」
「あれね‥‥結構私大変だったんだからね!?」
「うん。外から見たらよくわかる」
外から見てもすごかったのにその中心にいたとなったらもっと凄かったに違いない。
まぁ、こんな人が来たらみんな寄って集って見たくなるのも男子として同情できる。
でもタイミングが悪かったのが今日はお守りのせいで気持ちがどんよりしていたから自分のことを小松さんにアピールしても無理だっただろうに‥‥
「小松さん、周りの男子には優しくしました?」
「さぁー?興味ないし」
「いや結構モブ扱い!?」
「知らなーい」
ちょっと意地悪な人だ。
別にそこが良い部分だと思うんだけど。
「いやー、でも圭祐君がいるだけで心強いわー」
「まぁそう言ってくれるんだったいいけども‥‥」
「だって知ってる人圭祐君だけだもん」
「え?」
知っている人が俺だけってもしかして恵理と会ってないのか?
まぁどうせ自己紹介の時にわかるだろうからいいか。
「なんかあった?」
「うんん。気のせい」
「えー?」
「気のせい!」
「まぁいっか。それじゃそろそろ戻った方がいいだろうし戻ろっか」
「‥‥戻りますか」
あんな後の教室なんて全く帰りたくない。
元々自分の居場所なかったがもっと帰りたくない。
―足が重い。
* * * *
「去年は1年A組だった‥‥です。よろしくお願いします」
「私は去年1年C組だった‥‥です。まぁ何かと宜しくお願いします」
始業式が始まる前の時間になるとみんなが自己紹介を始めていく。
さっきのことは無かったかのようにすんなりと席に着くことができた。
すこし不思議に思ってしまったが何事もない方がいい。
「大住君?」
「あ、はい‥‥」
出席番号からして”お”はすごく早い。
あっ、という間に来る。
「えっと、大住圭祐です。去年は1年C組でした。よろしくお願いします」
「で、結局あいつさっきのは何?」
「さぁ?王子様かって話」
「泣かしてたのにねー」
「‥‥」
やっぱりそんな簡単になかったことなんて出来ていなかった。
俺が席に戻ると周りでヒソヒソ声が聞こえてくる。
「えっと、今年からこの高校に転入しました小松佐那です。まだ初日で学校のことなどが全く分かってないので頑張って覚えたいと思います。よろしくお願いします」
そしてそんなことを考えているといつの間にか小松さんの番になっていた。
泣いていたのに自己紹介では満面の笑みを浮かべていた。
クラスの男子も目を輝かせていたのでもう心をつかんでいた。
しかもその次に恵理だったので余計にすごかった‥‥
小松さんでみんなの気持ちが上がってすぐに恵理だったので更に気が上がっていた。
‥‥その次の人可哀そうだった。
* * * *
「圭祐初日から大変だねー」
「まぁなー」
「ごめんね圭祐君。私が泣いちゃったから‥‥」
「でもね佐那ちゃん、圭祐はもともと周りの評価低いから大丈夫だよ別に」
「間違ってはないけどそんなこと言わないでよ!?人間だよ俺」
「ふふ」
「あ、今小松さん笑っただろ?」
「え?だってさ、圭祐君小山さんと居ると普通の男の子になるのがおかしいからさ」
「あ、確かにそれ言えてる。ほかの人だったら暗いよね圭祐」
「慣れてるだけだよ」
「まぁ付き合い長いしね~私たち」
そういえば言い忘れていたが今はコメロの窓際席。
学校は3限で終わってしまったため俺たち三人でコメロに来ている。
別にそんな予定などはしていなかったがせっかく昨日会ったのだから詳しく話したいという事になって俺も強制的に連れてこられた。
「二人はいいよねー。私もそんな友達ほしいな」
「友達居なくても生活できるぞ?」
「それは圭祐の話でしょ。佐那ちゃんだったら出来るって友達」
「出来たらいいんだけどなー」
「そんなに不安ならそんな友達作りに行く?」
「作るってどうゆう‥‥?」
「これから遊びに行こっか!」
「行く~」
「は?」
いきなり恵理が遊びに行くと提案を出して小松さんも行く気まんまんだった。
でも流石に二人と歩いてたら両手に花というより豚に真珠になる。
「それじゃ楽しんできて。俺は先にかえr‥‥」
「それじゃ行くよ圭祐」
「行くよ圭祐君」
「‥‥はい」
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