第4話 始業式は嫌な日になる
「お守りを落とした?」
「‥‥うん」
ラーメンの支払いをしようかと席を立った時に発覚したこと。
小松さん曰く、お守りはカバンに付けていたのがいつの間にかなくなっていたという事らしい。
しかもそのお守りは引っ越す前の友達からもらった大切なやつだとのこと。
詳しい話を聞いていた時に小松さんは目に大きな涙を浮かべていた。
いきなり目の前で可愛い女の子に泣かれたので物凄く困っている状態。
「どこで落としたんだ?」
「わかんない。わ、私もわかってたら、こんなに焦ってない!」
「あ、ああ。ごもっとも」
明るかった彼女の声が泣いているせいで少し過呼吸になりながら声を荒げてきた。
周りの客にも痛い目線を向けられてしまった。傍から見たら女の子を泣かせた性格の悪い男という感じなのだろうか。
「とりあえず探さなきゃ」
「でも探すってどこを‥‥」
「‥‥」
そんなの俺にもわからない。
でもさすがの俺でもそんなことは言わない。
‥‥ごめん小松さん。
「あれ圭祐じゃん。こんなところで‥‥あ、ごめん」
「ちょっと待って!」
ちょうどいいタイミングに来てくれた。
俺が超が何個付くかわからないほど困っている時に。
一度俺たちの様子を見た瞬間に帰ろうとしていたが流石に引き留めた。
―
数少ない俺の女子友達。
小学校の頃から俺にやさしくしてくれる珍しい女子。
* * *
「それで‥‥なんで私がここに居るわけ?面倒ごとは嫌なんだけど?」
「ごめんって」
というわけで席に新しく加わったのは恵理。
なんだかんだ言ってもしっかりと席に座って話を聞いてくれるという。
俺と小松さんが隣に座り、向かい側に恵理が座った。
「えっとまずさ、こっちから聞いてもいい?」
「ああ、いいよ」
「‥‥お隣の子ってどういう関係なわけ?」
「バイトの子。うちの店の」
「あー、そっちは理解した。そんで泣いてた訳は?まさか泣かせたなんて‥‥」
「してない!それ誤解だから!小松さんも何か言ってよ!」
「ちょっと、ちょっと待ってね‥‥」
小松さんは涙でいっぱいだった顔を腕の袖で拭いていた。
「はじめまして。小松佐那です」
「はじめまして、まぁ聞こえてただろうけど恵理です。小山恵理」
「そんでなんで泣いてた訳?」
「えっとそれは‥‥」
小松さんが恵理に一つ一つ丁寧に説明をしていた。
こっちに引っ越してきた際に友達からくれたもの。
どっかで無くしたことなどを。
「引っ越して来てそうそう大変だねー。どこの方に家あんの?」
「ちょっと待ってくれ。場所変えようぜ」
「確かに‥‥そうしよっか」
目を赤くしていた小松さんも周りのことをしっかりと見ていたようで俺の意見に同じてくれた。
「私何も食べてないー」
そんな中でも駄々をこねている高校生。
―付き合ってもらってるのはこっちだけど。
「おごってあげるからさ」
「マジ!?圭祐最高!」
流石にラーメン店で世間話などをするのは場違いな気がしたので落としてないかの確認も兼ねてコメロに来た。
お昼時間を少し過ぎた2時半ほどだったので人はそれほど多いというわけではなかった。この時間帯最高。
「それじゃ私は‥‥ハムサンド!」
「はいはい」
店の席に座って早々に注文をする。
いくら父さんからお金をもらったとは言ってもこういうのは自分の財布からお金を出す。おそらく今日だけのせいで財布が軽くなりそうだ。
「それで?そんなに大切なお守りなんだから探せばいいじゃん?」
「そのつもりで一応ここに来たんだよ」
「え?二人でここに来てたの?」
「ああ、何か悪いか?」
「いやぁ~、圭祐って私以外の女子に避けられてたじゃん?だから違和感しかなくてさ」
「その話はやめてくれ!頼むからぁ」
小松さんの前でそんな女子から避けられてたなんて言われたら絶対に悪印象に‥‥
―全く聞いてなさそうだった。
お守りが心配だからかずっと外を眺めていた。
「えっと、佐那ちゃん?」
「え、あ、はい?」
「別に探すんだったら今からでも行けばいいじゃん?なんでそんなに落ち込んでんの?」
「だって‥‥」
まぁ無理もないだろう。
小松さんだっていきなりこっちに引っ越して来てそっから大切なものまで無くしてしまったんだから落ち込んで当然だよな。
「ねぇ圭祐」
「ん?」
「今から探しに行こうよ。あ、私も早く食べるから」
「俺はそのつもりだ」
「ありがとう、二人とも」
「だからさ、佐那ちゃんも元気出して!探す気力だそうよ」
「‥‥そうですよね。やっぱり私がくよくよしてても見つかるわけないですし」
「ああ、諦めないで行こうよ」
小松さんが元気になっていく。もう小松さんの目には涙はない。それどころか赤かったのもなくなっていて心底安心した。
それは俺がどうにかしたんじゃなくてやっぱり恵理の影響がでかいよなぁ‥‥
たまたまラーメン店であったけども本当に良かった。
そこから駅や道、休憩した場所などを三人で探し回った。
電車賃などは流石に恵理に使わすのも気が引けるのでみんなの分を父さんのお金から使わせてもらった。
―今までの分は自腹だからね!?
探している時にしっかりと近くの交番や駅員さんに聞いたりしてみたがお守りの落とし物はどこにも確認できなかった。
風などで道路の脇などに落ちてないか、誰かが見つけてブロック塀の上、
自販機の下などに落ちてないか細かいところまで必死に探した。
夕日が暮れるまで俺たち三人は必死に探したが結局は見つからなかった。
春はすぐに夕方になってしまうため思った以上にダメだった。
「また明日に探したらいいじゃん?圭祐も手伝ってくれるって」
「うん。俺も手伝うから」
「今日はありがとう二人とも。私も明日頑張るから。圭祐、迷惑かけるけど明日もお願い」
「そんなの気にすんな」
「あと小山さんもありがと」
「いいってことよー」
* * * *
「ただいま父さん」
「ああ、お帰り」
時間はもう6時を過ぎていた。
コメロで解散した俺たちは
‥‥にしても今日はなんか一日中大変な感じだった。
朝から父さんの言い忘れから始まって学校紹介に落とし物探し。
結局のところ今日はお守りを見つけることができなかったもののまた明日に探せばいい。にしても‥‥
―朝は小松さんが来て少し色づいていたこの家がなんだか薄く見える。
「あ、そういえば圭、これ店の中で落ちてたけどお前のものか?」
「え?」
父さんが右手に持っていたものは緑色で”えんむすび”と書いていた。
俺はそんなお守りを見たことがなかったので一瞬で小松さんのものだと分かった。
「あ、こんなとこに落ちてたのか‥‥父さんありがと」
「そりゃ別にええ。そんな大切なやつ無くしたりすんなよ?」
「はい、すいませんでしたー」
「あ、あと小松さんに月曜は休みって言っといてー。学校一緒だから大丈夫だろ」
「え、ま、まぁわかった」
まさかの家で見つかったお守り。
明日は始業式で二年生が始まるがおそらくそのタイミングで小松さんが入ってくる。
だから学校で渡そうと思えば渡すことはできるのだが‥‥
俺みたいなやつが学校で小松さんと話していいわけがない。
明日になったらわかるだろうが”女子の転校生”というだけでも盛り上がるのにそれにあの美貌を持った人だ。周りに人だかりができて俺が話すタイミングもないだろう。
なので俺はこういう時に恵理を頼る。
いきなり電話をするのも迷惑だと思うのでLoneで相談をする。
『なぁ恵理』
『どした?』
『あった』
部屋で小松さんのお守りの写真を撮って恵理に送った。
『どこに!?』
『家で落ちてたって父さんが』
『ちょっと待って、今から夜ご飯作るから電話でいい?』
『OK』
数秒後に恵理から電話がかかってきた。
通話をオンにした瞬間から明らかに料理をしている音が聞こえてきた。
『ねぇ圭祐?』
『はい?』
『あんたそれいつ渡すの?』
『‥‥』
『渡すよな?』
『‥‥うん。あいつ明日俺たちの高校に入ってくるからさその時かなぁーって思ったんだけど、さすがにあんなに可愛かったら周り人だらけになるから無理かな』
『‥‥』
『聞いてるかー?恵理?』
『まさかの同級生?』
『え、そこから?』
少し間が空いていたのは同じ高校だったからとかじゃなくて同級生かどうかからの話だった。
『まぁ頑張れ。それじゃこっちは忙しいから切るぞ~』
『え、ちょ、まっ‥‥』
切られた。
代わりに渡してもらう作戦は失敗。
かと言っても他にやり方あるかって言われてもな‥‥
バイトで渡すってのもあるけど明日は休みって‥‥
できる限り早く言ってあげたいのが俺の本音だ。
あんな悲しそうな小松さんはできればなってほしくない。
まぁ明日のことは明日で良いか‥‥
よさそうだったら渡す。うん、これで行こうそうしよう。
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