第3話 苦手なことでも好きだと思える

「こんな大金もらっちゃったけどもうするの?」


「どうしよっか‥‥」


いきなり大金をもらい途方に暮れていた俺と小松さん。

意味もなく大通りを歩く。

歩いてるときに春の風が袖の隙間から風が全身に回ってくるので

正直言って外は嫌だ。

‥‥インドア派だし。


ふと小松さんの方を見てみると

「どうしよ‥‥」

っと小さな声で呟いていた。

困っている彼女の姿は髪が風によってふらりふらりとなびいていた。

‥‥あと肩が小刻みに震えている。


「ねぇ圭祐くん?どこか店に入らない?」


「あ、そうしますか」


「どこに行こっか‥‥」


「どこでもいいですよ俺は」


「じゃ、じゃぁそこのファミレスにでも入ろっか」


大きくコメロ珈琲と書いている看板を指さしていた。




「それじゃ!気分を変えて詳しく自己紹介としよう!」


喫茶店の窓際。道には様々な色の車が行き交う景色。

店内には落ち着いた洋楽が流れている。

そんな俺のチルい雰囲気の前に居るのは小松さん。

‥‥まぁそんなイケメンが言うことは置いといて。


コメロに入った俺たちはまず最初にカフェオレとミルクコーヒーを頼んだ。

彼女は届くまで外の風景を眺めていたが予想以上に早くミルクコーヒーが

届いたからか少し驚いていた。

そしてお互いのものが届くなり今の状況に至る。


「まず名前からね。小松佐那、漢字はねこう書くの」


「あ、大丈夫。わかるから」


「え?あ、そう?」


彼女がアンケート用紙の裏を使って書こうとしていたが

別に俺は店で知ってるため別にどうでもいい。


「それじゃ圭祐君の番だよー」


「大住圭祐」


「んっふ、知ってる」


「ああ、そうだな」


「それじゃ私の番だねー。

 まずは‥‥最近引っ越してきて明日から転入することになってるの」


「まぁそうだろうな。実際」


「楽しみなんだー。友達たくさん作りたいし」


「がんばれ」


ミルクコーヒーを笑顔でかき混ぜながら話す小松さん。

その顔はだれが見ても可愛い笑顔だろう。

俺から見ても可愛いと思う。


そんな下心はどうでもいいとして

高校ってどこの高校になるのだろうか。

会って二日目では彼女の私服しか見ていないので

わからない。



「圭祐君?」


「ん?あ、はい」


いつの間にかボッとしていた。


「ここら辺はわかる?」


「まぁそりゃ引っ越して来て結構経ってるから分かるっちゃ分かるけど」


「それじゃあ、ここ!

 私方向音痴だから案内してほしいんだよね」


机に彼女は身を乗りだして俺にスマホを見せてくる。

‥‥ちょっと近い。


「ここが転校先なんだけどさ、分かったりする?」


弓ヶ原高校ゆみがはらこうこう”とそこには書いていた。

‥‥それ俺の高校なんだ。

同じ高校?正直言ってめっちゃ嬉しいよ。

嬉しいんだけど、俺なんかが学校でこんな美少女と喋ったら

変な噂立ちそうだし‥‥

黙っておくとする。


「あ、そこね。わかるよ」


「え?本当!?」


「うん」


そりゃ俺の高校ですもん。


「お願い!今から連れてって!」


「んー、まぁいいよ時間なんてこれからたくさんあるし」



* * *



場所は京阪牧野駅のホーム。

もちろん今から向かうのは弓ヶ原高校。

俺は休みなのにわざわざ学校へ行かなきゃ行かない憂鬱さと

美少女好きな人が隣にいる優越感の二つを感じながら

駅のホームで電車が来るのを待つ。


小松さんは慣れない景色だからか周りをきょろきょろと向いている。

以前いた俺たちの町はどちらかというと田舎の方にあったのでこんなに広い

ホームは初めてなのかもしれない。

‥‥俺も小さいときめっちゃ興奮した。


「あ、電車来たよ」


「あれに乗るんです。基本ここに止まるやつに乗ればつけます」


「了解!」



電車の中は空いてるとは言えないが多くもなかったので席に座ることができた。

二人で隣に座るとやっぱり体が近くなるためいい匂いがする。

でもちょっと周りから見られているのは気のせいだろうか。

‥‥これ見られてるというより小松さんを見てるな。

なんてことを考えながらのんびり電車に揺られているとあっという間だ。

小松さんは外の景色を見るのに忙しそうだったので何にも話しかけていない。


「この坂の上です」


「坂にしちゃそんなに急ではないですね」


「あー、はい。えっと‥‥」


「よーし!それじゃ上がっていこう!」


「‥‥はい」


言い忘れていたが奥になるにつれて急になってくるんだよなこの坂。

そして俺たちは長い坂を上り始める。

小松さんがどんだけの体力があるのだろうか。



―数分後―


「はぁ、はぁ、ねぇ圭祐君」


「はい?」


「きつくない?この坂」


上り始めてすぐに息をあげていた。

元気な割には小松さんって体力ないのか‥‥


「そうですかね?僕はそんなに苦じゃないですけど」


「ダメ、ちょっと休憩させて」


「まぁ、いいですよ」


コンビニに入り飲み物を物色する。

小松さんは水をチョイスしていた。

俺からしたら水なんてそこら辺で無料で飲めるのに

買うってちょっとわからない。


「小松さんさ」


「ん?」


「水、好きなの?」


「うん!水ってねそこら辺から取れるじゃんなんて思う人もいるだろうけどね、

 また違うんだよなそれが。水は水でもいろんな水があるんだよ。

 体に悪いものなんてないんだよ?そこら辺の水だったらばい菌だって入ってても

 おかしくないじゃん。でもこの水はばい菌なし。

 ‥‥っあ、ごめん長話しちゃって」


「あ、はい」



水について熱く語っていた小松さんの目はきらきらと輝いていた。

俺の目に向かって顔をあげて熱心に。

そんな小松さんの姿はやっぱりかわいい。

‥‥可愛い可愛いってどっかの変態のおっさんみたいだな。


まぁその語ってくれたおかげで俺のさっきの外道な

考えが改まった気がする。

ごめんなさい世界の水好きの皆様。

そしてありがとう俺に水の良さを伝えてくれた小松さん。


「‥‥そういえばさ」


いきなり真面目な顔をしてこちらを見てくる。

さっきとの雰囲気がガラッと変わっていて少し驚いた。


「はい?」


「圭祐君って女の子苦手な感じ?」


「え、ま、まぁどちらかといえばそうですね。  

 ってか何で急にそんな話に?」


「いや、なんか素っ気ない言い方よくするよなって感じただけ」


まずい。この反応は彼女に嫌われた!?

いきなりでビックリはしたが実際のところそれは事実だと思う。

今までそんなに女子と話をしたことがないから。

‥‥でも頑張ってたつもりなんだけどな。


「あ、そ、それはっ!」


「でもね、私そういうところ嫌いじゃないよ?」


「え?」


小さくつぶやいた言葉。

それは俺が予想していた斜め上の回答だった。


「あ、ほら。なんだかんだいろいろ教えてくれるじゃん?

 そういうのはいいと思うよ!」


「まぁ教えないと明日学校まで迷って逆方向に行きそうですしね」


「そ、そんなことないもん!」


「ま、そうだといいですね」



* * *



「へぇ、ここが‥‥」


小松さんは結局あの後は体力配分を考えたのか

一度も休憩することもなく着くことができた。

‥‥めっちゃ時間かかったけど。


「結構な坂だったね」


「長いよなここの坂」


「私が引っ越してくる前も山道で坂多かったけど基本車で送ってもらってたから

 都会でこんなことするとは思ってなかったよ‥‥」


「ま、人生いろいろだ」


俺もこの坂にはびっくりしたけど、

‥‥ここまで遅くて苦労することはなかったぞ。


時計がもうすぐで12の数字を越そうとしていた。

こんな時間になるとやっぱりおなかが減る。


「ねぇ小松さん」


「どうしたの?」


「もうしっかり道わかりました?」


「バッチシだよ!」


「それならよかったです」


「ありがとね」


「いや、別にいいですよ。あ、あと‥‥」


「ん?」


「どっかに、食べに行きませんか?」


俺のいきなりの誘いだから小松さんは乗ってくれるのだろうか。

逆に乗ってくれないとちょっと気まずいかも。


「いいねそれ!何処にいくの?」


「‥‥ラーメンは好きですか?」


「ラーメン!いいじゃん行こ行こ」


「わかりました」


‥‥よかった。


* * *



高校から少し離れた場所にあるラーメン屋に来た。

四角源という店。大きな国道沿いにある店で大型トラックがビュンビュン通っている道の前。

ラーメンが好きな俺の中でもここのラーメンは美味しい。

あと唐揚げもおいしい。


「ここのラーメン美味しいね」


「はい、ここは俺の中でもピカ一のうまさです」


ズズッ、ズズッと”俺が麺をすする音”が聞こえる。

小松さんは丁寧に、そして上品にラーメンを食べていた。

ラーメンを食べている姿も絵になっていた。


「もうすぐでお会計だからお金準備しとくんだ‥‥あれ?」


「ん?どうしたんですか?」


小松さんがカバンの中をあさっている。

物凄く焦った様子で探しているので俺も何事かとつい勢いよく立ち上がってしまった。


「ないの、ないの。あれ、どこ」


「何をなくしたんですか?」


「‥‥友達からもらった大切なお守り」







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