第2話 定休日でも彼女はやってくる

日曜日の朝。

雲一つもない快晴で気分も快晴。

昨日来た小松さんとの久しぶりの再会?

あっちは全くもって俺のことは覚えていなかったが

この嬉しさは別に彼女へ送るのではなく心の奥にしまっておく。


日曜日だからと言ってどこかへ遊びに行くというわけではない。

俺に友達が居ないというわけでじゃないから。

純粋にお金がない。

もちろん実家が店ということもあってアルバイトをしない。

ちょっとそれはネックだがまぁいいさ。

ここで働いてて祝福が俺の目の前で微笑んでくれたのだから。


というわけで別に意味はないが店は開けずに店の中で一人

カウンターでのんびりと本を読む。

シャッターが閉まっているがその隙間から小さな光が

ぽつぽつと差し込む。

そのためほんの少し暖かくてほんの少し明るい。

そんな俺の心をそこから癒してくれる場所。

小さい頃から変わらない。

もうすぐで8年が経つのだろうか、開店してそれくらいだ。

俺が4年生の頃から今まで付き合ってきた場所だ。


「おはようございまーす」


「!?」


前言撤回する。

”店”は変わっていないが”人”は変わっている。

静かだった店内に玄関から聞こえる元気な声。

その声は大きな声にも関わらず透き通っていて

鼓膜が優しく揺らされた感じがする。


「あれ?小松さんどうしたの?」


玄関で待っている小松さんのところへ向かう。

足裏が少し軽く感じた。


「あ、圭祐君。おっはー」


「え、あ、おっは~」


「それよりも!

 この時間から開いてるんじゃないの?」


「今日定休日‥‥」


「‥‥」


父さん絶対この子に定休日のこと伝え忘れてただろ。

何秒ほどだろうか、小松さんの顔が

鳩が豆鉄砲を食らったように固まっていたのは。


「今日定休日なんだ。私初耳なんだけど!」


「え、あ、ごめん!多分父さんが伝え忘れてたんだと思う」


透き通った声で声を張っても綺麗なものは綺麗なのだ。

また俺の鼓膜を気持ちよく揺らしてきた。

‥‥変態みたいな言い方だな。


「どうしよ‥‥」


「ん?」


俺はてっきり『あ、そうなんだ。それじゃまた今度ね』

そんな感じで終わると思っていたのに困った様子で考え込んでいる。


「ねぇ圭祐君」


「は、はい」


なんでか知らないが俺は自然とその時に唾を飲み込んだ。

それは別に重大な発表とまではいかないが

変に緊張してしまい手に汗を握る。


「‥‥私行く場所ないんだけどどうすればいいかな?」


「‥‥はい?」


予想の斜め上を行く、いや斜め上以上かもしれない。

”行く場所がない”ってどういうことだ?

俺は少し戸惑ってしまい次の言葉を発するのに数秒を用いた。

まさかこの子は家出少女だったのか?

それとも家で虐待でも受けて俺にSOSを出しているのか?

変な考えがその数秒で頭をよぎる。


「あのさ?言ってなかったけど私一昨日引っ越してこっちに来たんだよ。

 今日に大きな荷物、例えば冷蔵庫とか?が届くからさ

 家に帰っても邪魔なんだよね。

 バイトだと思って財布も持ってきてないし」


「‥‥」


「圭祐君?」


「え、あ、はい!」


フル回転していた俺の頭に長い言葉が入ってきても

耳から筒抜けになっていて全く聞いていなかった。


「ごめん小松さん、もっかい言ってもらってもいい?」


「要するに大きい荷物が家に届くから家に帰れないの」


「あ、そういうことか」


「だからどうしよってこと」


「そうですね‥‥」


「あ、今のうちに本の場所とか勉強させてよ」


「いいですよ?そうしてくれた方が今後も助かりますし」


ということで彼女を書店まで連れていくことになった。

大きな家というわけではないが書店を入れての家なので

並みの家よりは大きいかもしれない。

なので一応トイレの場所や休憩などの場所を説明しておく。


「とりあえずさ。トイレとかサラッと説明させてもらうね」


「よろしくおねがいしまーす」


「とりあえず仕事中にトイレ行きたくなったらここ使って。

 今までの人もここ使ってたから」


「今までって私以外にもバイトっていたんだ」


「まぁといってもおばさんとかお姉さんだけどね」


「ふーん」


そこからはもしお客さんの忘れ物があったらここに‥‥


とりあえず一通りは教えることができた。


「それじゃ書店の方に行くとするか」


「行く~~」


* * *


場所は変わってさっきの書店。

心地良い場所にいい香りのする可愛い女の子が

入ってきただけ。

‥‥だけでまとめていいのだろうか。


「うわぁー。シャッターの閉まってる時ってこんな感じなんだ。

 なんか神秘的というか綺麗というか」


わかってる。

小松さんは俺と同じでこの少しふるびたシャッターの

良さがわかる人なんだ。


彼女はまじまじと本を見て回る。

昨日は挨拶に来たということですぐに帰ったため

見学タイムだろう。


「そういえば小松さんさ」


「ん?」


「本って読んだりするの?」


「えっとね、そんなに読まないかなー」


「そうなんだ。てっきり結構読んでるから

 ここのバイト来たのかと思ったよ」


「そう見える?」


「見えるよ」


俺が微笑むと彼女も微笑む。

でも俺はその微笑みの後ろに少し疑問を隠していた。

なぜなら彼女は小学生の間休み時間もよく小説を読んでいたはずだ。

俺が見たのは3年生までだが少なくとも1年生から

『あの子ずっと本読んでるな』と疑問に思ったことがあるので

覚えていた。

でも彼女はあまり読まないと否定した。

そこで『昔よく読んでなかった?』

なんて聞いてしまうと俺が小さい頃助けられた

情けない奴とばれるので何にも聞かないことにした。


「あれ?小松君なんで居るの?」


奥から声の低い大きな体をした男。

父さんが声をかけてきた。


「父さんさ、小松さんに定休日のこと話してないでしょ」


「あ、やっべ忘れてた。すまんすまん」


「遅いわ!」


顔の前に手を合わせて小松さんに謝る。

小松さんは


「いいですよ別に。大丈夫です」


と小松さんは逆に店長に謝ってもらったからなのか

申し訳ないですみたいな顔をしていた。


「えっとそれで今は二人で何やってるや?」


ドスの聞いた関西弁で急に話す。

父さんの悪い癖だ。

いきなり関西弁で話すので相手を怖がらしてしまう。

別に関西弁が怖いというわけではなくて

ドスの聞いた声で言ってくるのがやばい。


「あ、えっと見学です。

 ‥‥することが、ないので」


やっぱり小松さんは少し猫背になっていた。

それは怖いから目を合わせたくないのだろう。


「あ、それは申し訳ないな。

 別に今日は休みだから二人で遊んで来いよ。

 俺からこれあげるからさ」


父さんはそういうと俺たちに15000円を渡してきた。

小松さんは「大丈夫です」と返そうとしたが

父さんが無理やり手の中に押し込んで渡していた。


「それじゃ行ってらっしゃい」


‥‥俺と小松さんは父さんによって放り出された。

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