21話
何日か似た生活が続いた。それが今日、終わった。
九条桃良が亡くなった。
タワーマンションの小説家。自宅の浴室で手首を切って自殺したらしい。朝のテレビで見た。
理子ちゃんが学校に来なかった。電話も出てくれないし既読もつかない。いつもはすぐ返信くれるのに。
カランカランと軽快な音を鳴らしバーの扉を開く。
「理子ちゃん」
一人カウンター席に座って項垂れる理子ちゃんに声をかけると一瞬こちらを向いてまた下を向いた。鋭い視線に胃が引き攣る。今日、店長さんいないんだ…。鈴木くんもいない。理子ちゃんの近くに行くとツンと強いお酒の匂いがした。
「昨日から連絡、とれなくて。電話出ないの」
「うん」
動きの甘い舌で話す理子ちゃんに相槌を打つ。
「人は寂しいときにお酒をのむんだよってみきが言ってた」
みき?みきって誰だろう。離れて暮らしてるって言ってたお姉さんのことかな。
「でも、でもね。ずっと寂しくって」
「うん」
「また失うんじゃないかって思ったら怖くて」
「うん」
理子ちゃんの目に涙が滲む。涙を隠すように机に突っ伏したその時ガタン、とグラスが倒れて色のないお酒が流れ出た。
「ひとりに、しないで…っ、はやく帰ってきてよ…」
何度も肩を上げ苦しそうに息をする。
私がいるのに。私が理子ちゃんを一人にしないのに。
どうして鈴木くんだけが居場所なの?なんで彼に執着するの?私はずっとそばにいるよ。貴方でさえも私を透明にするの?
背中をさすっても何も言わない。彼女の泣き声だけが耳を刺す。
鈴木くんがいなくなったって振り向いてくれないじゃない。
こんなにも蔑ろにされるなら、キスのその先を求めてしまえば良かった。触れるだけじゃ嫌だって、独り占めしたいって、手錠かけて閉じ込めてやろうかな。
いっそのこと殺したい。全て壊して、殺して、透明が赤く染まるの。…なんてね。
考えただけで手が震える。私はどうせ見えないままだ。
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