第四章、七瀬大志
22話
──全てを知りたい。けれど、人には言えぬ秘密がある。
▽
静かな夜にインターホンが鳴った。こんな時間に誰だと半ばイラつきながらドアホンの画面を覗く。画面には誰も映ってない。イタズラか。
部屋に引き返そうとドアホンに背を向けると、またインターホンが鳴った。しかも連打。煩いし近所迷惑。しばらく無視してもやまない。……しつこい!最高潮まで溜まった苛立ちを右手に込めて勢い良くドアを開けた。
「こんな時間に誰…です、か…」
ドアを開けて犯人の顔を見て目を見開いた。俺、今寝ぼけてるのかな。
「優人…?」
「えへへ来ちゃったぁ、嬉しい?」
優人、多分本名じゃないけどそう呼ぶしかない彼は頬から耳まで赤らめとろんと溶けた目でふにゃふにゃ笑った。寒いから入れてと勝手に家に上がってくる。
来ちゃったって何それ可愛すぎる...。てか家覚えてたんだ。緩む口角と伸びる鼻の下を必死に手で覆い隠した。
彼が靴を脱ぎながらコンビニのレジ袋を差し出してくる。中身は酒とツマミ。部屋へと向かう足取りもフラフラと覚束無い。彼自身ちょっと酒臭い。
「今日はぁ〜、10本のんだ!えらい?」
「…えらい飲むね」
「あはは!ちょっと酔ったかも〜」
彼はズルズルと壁にもたれかかりその場に座り込んだ。そのままぺたんと横たわって、まだ飲むと何もない方向に手を伸ばした。意外と面倒臭い酔い方するタイプか。可愛いな。
誰と飲んだのかここまでどうやって来たのか気になるところだけど、今日は彼の可愛さに免じて目を瞑ってやろう。
「未成年飲酒。逮捕されに来たの?」
「えー?すごいねぇ?」
「褒めてないよ」
彼の元に座り顔を覗き込んだ。頬を人差し指で軽くつつくと彼は猫のように目を細めた。
チャンスすぎる。思わず天を仰いだ。
「とりあえず今日はもう寝た方がいいよ、立てる?」
1の優しさと99の下心で彼の手を取る。好きな子が家まで来たんだ。鴨が葱を背負って来てご馳走を思わない奴はいないだろう。火傷しそうなくらい熱い体がもたれかかってこっちまで熱くなった。
彼をベッドまで運んで寝かせる。その時屈めた体勢でピタリと止まった。
やっぱり綺麗な顔。赤く潤んだ目はこれまで見た中で一番濃艷で唾を飲んだ。
「…はやく手出してよ。なんで来てやったか、言わなきゃ分かんない?」
ぎゅっと服を掴まれる。うるうると上目遣いでねだる姿はいじらしく心臓に悪い。目も頬も耳も唇も全部真っ赤。睫毛が長い。
「いいの?本気にするよ」
「べつに。俺抱くくらい、お前でもできるんでしょ」
果実のように赤く熟れた唇にキスを落とす。彼の手が首に回る。酒に浮かされた体温が高くて彼の触れたところから皮膚が爛れるように熱い。
まさか向こうから誘われるなんて。こんな幸せな味のキス初めてだな。酒臭い彼に舌なめずりした。
「では遠慮なく」
後から文句言わないでね。俺は倫理観とか常識とか持ち合わせてないから。
ペラペラの羽織物をベッドの下に捨て、制服のボタンに手をかける。
はらりと制服を脱がせると白くて陶器のように滑らかな肌が露になる。真っ赤な耳との対比が余計に官能的でドキドキした。
この時を夢見ていた。ずっと、君が欲しかった。
鎖骨から胸元にかけてすうっと指を滑らせる。いつもの低い声とは違う甘い吐息に優越感が煽られる。
「これ誰の?理子?」
彼の繊細な白い肌に似合わない赤紫のキスマークと歯型。深く歯を突き立てた跡が残って痛々しい出血痕が小さな斑点になっていた。随分執念深い奴と寝たんだな。
「理子とはしない」
「じゃあ誰?」
「ひ、あっ おまえに関係ない…っ」
胸元についたキスマークに舌を這わせ、反対の胸の飾りに指をひっかけた。体を跳ねさせぎゅっとしがみつくのが可愛くて指で強く押すと声が大きくなった。
反応の良さも、指を入れた時に感じた柔らかさも、フェラしてる時こちらを伺う上目遣いも全部最高に可愛くて興奮材料になった。
それと同時に誰かに抱かれたことのある体だと分かってしまい嫉妬で狂いそうになった。
あの日もラブホ街で男待ってたし、そういう仕事してんのかな。薄汚い男に買われて体を差し出して…ムカつく。繋がった野郎全員殺したいくらい。
「あっ、んん… まって 、ゃ ああ…っ」
ちょっと解しただけで十分準備できた後ろにゆっくりと押し当てる。予想通りそこはしっかり俺のモノを飲み込んだ。でも予想してたよりもキツくて、入れる時も余裕がなかった。
最初に宣言した通り遠慮なくガツガツ奥を突くと背中に手と足を絡ませナカを締め付けた。背中をガリガリ引っ掻かれる。俺を求める必死な姿が可愛くて可愛くて余計に動きを早めた。
「は、ぁっ、うえっ…ヤバ、は 吐きそ」
「エッ!?待って今!?ちょっ、えっえっ」
彼が急に口元に手を当て苦しそうに目を細める。10本も飲んでベロベロに酔ってたのを思い出し血の気が引いた。
潔癖ではないけど好きな人とは言えセックス中ベッドにゲロは…。慌てて彼の体を起こし顔の下に手で受け皿を作った。
心配の目で見つめてると一瞬固まった後きゅっと目尻を上げた。口元を押さえてた手をヒラヒラさせいたずらっぽく舌を出し俺をからかう。
「うそだよん〜、びっくりした?」
「うんビックリした。可愛すぎて」
勢いよく押し倒すとキャーっと楽しそうな歓声が上がる。また酔いが回ってきたのか子供みたいな無邪気さに戻った。 キスをしようと顔を近づけるとふいっと横を向いて避けられた。完全に遊ばれてる。
「優人。こっち向いて」
「優人なんていませーん」
「じゃあ誰ですか?」
首をぐっと傾げ顔を覗き込むとすぐ反対方向を向かれた。柔い頬を両手で挟み正面を向かせ教えろとせがむ。彼の目が揺れた。
「……み、き」
「どうやって書くの?」
「えっ。…。美しい、に輝く。で、美輝」
美輝。美しい輝き。
偽名とは裏腹に中性的で彼に良く似合う名前だと思った。
美輝。…美輝、か。嬉しくて浮かれてどうしようもなくてすぐ口に出した。
「美輝」
「あ、嘘だよ。優人が本名で合ってる」
名前を呼ぶと美輝は焦ったように早口で拒んだ。でも無視して繰り返し呼んだ。照れてるだけだと思った。
「美輝」
「やだ、やめて」
「美輝」
「…っ、やめてってば…」
「…美輝?」
「おねがい、やめて、思いだしちゃう」
彼は震える声で訴え、腕で顔を隠した。鼻をすする音と喘ぎに似た泣き声が部屋に響く。
「何を… 誰を思い出したの?」
「だからっ、忘れさせてほしくて来たのに…。おれ悪くない、」
顔を隠しながら泣き続ける美輝に舌打ちをする。誰のこと思って泣いてんだよ。俺は誰の代わりなんだよ。
「分かったよ。忘れさせてあげる。俺以外全部」
吐くほど抱いて壊して全部忘れさせてやるよ。教えてくれないなら全部消せばいい。全部知りたいから。知らないことなんていらない。
「ひうっ、あっ… ぐ、ぅ、」
乱暴に背中を引きずり腰をこちらに近づけまた奥まで入れる。
長くて掴みやすい首に手をかけギリギリと力を込める。ずっと顔を隠してた手が俺の手首を掴んで爪を立てた。
「…カ、はっ、ゔぅ…ッ 、」
目を眇め苦しそうに歯を食いしばる。口角から流れる唾液が艶めかしさを演出した。目の光が遠のく。あぁ、ヤバい。最高だ。
首を絞めれば絞めるほどナカもぎゅうぎゅうと締め付けられる。掴まれた手首が折れそうなくらい痛いのを紛らわすように首を絞める力と腰を打ち付ける速度を強めた。
「あ"ぅ…、ハッ、は ぁ、あっ あ、あ」
手を離すと同時に白濁を吐き出しながら体を波打たせた。ヒューヒューと空気を肺に取り入れる音とうわ言のような喘ぎ声が可愛い。
俺好きな子には優しくしたいタイプなんだけどな。
上を向いて焦点の合わなかった目が少しずつ必死に光を取り戻すのを見て嗜虐心が煽られた。
美輝の呼吸が落ち着くのを待ってから、さっきまでのがっついた激しさとうって変わりゆっくりゆるゆるとナカを穿つ。わざと奥には届かないように。 美輝がむず痒そうに口元を押さえたり首をしきりに寝返る。
「ぅ、んっ やさしく、しないでっ、もっと…」
足りないと自ら押し当ててくる。無意識的に小さく腰振ってるのも可愛い。俺を求める姿にきゅうっと心臓を掴まれた。
要望に答えるように動きを強め、前も触ってあげる。体液を塗りつけるように先をグリグリと撫でて。
「それ、やば いっ…イくっ」
美輝は快感から逃げるように背中を反らし腰を浮かせた。
先を撫でていた手を下ろし根元をぎゅっと掴む。美輝はすぐに呻き声を出し俺の肩を殴った。相変わらず瞬発的に出る力が強い。美輝を抱く男は大変だな。まぁこれからは絶対そんなこと許さないけど。
あ〜、それにしてもなんでこんな意地悪したくなるんだろう。
「なん、でっ やぁ…ッ ほんっとに…!」
弱々しく俺の手を剥がそうとする手を軽く叩いて払い除ける。
「“大志さん、お願いします”」
「…ぇ、?」
「続きは自分で分かるよね?言って?」
「な、ふざ… あ"ぁ〜〜〜…っ!おまっ、え 」
根元を掴む力を強めると美輝は後ろ手にシーツを掻きむしった。ギロりとこちらを睨みつけるからまた指に力を入れると絶叫にも近い喘ぎ声を出した。
ヤバい。これはこれでなんか目覚めそう。
「も、ゆるしてくださっ、たいしさ…おねがい、しま…ッ、ゔ〜〜〜〜…… なんでも!するからぁっ!も…イかせて…っ」
そう言って美輝は下唇をぐっと噛んだ。顔をぐしゃぐしゃに顰めた。大粒の涙が綺麗な目から溢れ出す。椿の花の露みたいだ。顔を濡らしてるのは涙か汗か唾液か鼻水か、それとも全部か分からないくらい濡れていた。
「よくできました」
根元から指を離し髪を撫でた。 赤く濡れた寂しそうな口にキスをして舌を絡める。掠れ気味の情慾的な声が直接響いて俺まで浮遊感を覚えた。
「ふ、ぅ…んん〜〜っ、んっ、あ、〜〜〜ッ!!あ"っ……」
美輝の体の奥がビクンと大きく跳ね、俺の首にしがみついた手が爪を立てた。ぐっと肉に食い込む痛みを感じる。
唇を離し体を少し起こすと美輝の腕がぱたんとベッドに落ちた。
…え?とんだ?頬を叩いても本名で呼びかけても反応がない。
マジか。どうせなら意識ある時に中出したかった…。相手が美輝だから身勝手なところも可愛いと思えるけど、これはちょっと萎える。
渋々引き抜いて涎が出たまま半開きの口内に押し込む。後頭部を押さえつけ喉彦目掛けて腰を振ると苦しそうな呻き声を漏らした。
「は、っ 美輝…っ」
「ゔぅっ、おぇ"……っあ"ぁ…ぅっ、」
美輝の口をオナホ代わりにして勝手に抜き差しを行った。
︎︎できるだけ奥で出し勢いよく引き抜くと美輝は俺の精液と胃の中身を吐き出した。 これでもかというほどビチャビチャと吐き続けるから救急車呼ぶレベルかちょっと迷った。
「ごめっなさ…悪い子でっ、ごめんなさい許してください…もう、もうしない、怒らないで…っ」
吐いてる途中で意識が戻った美輝が声を震わせた。ガサツに目をこすりグズグズと鼻水を啜る。また子供みたい。酔うと子供返りするのか。可愛い。
肩で息をする体を起こし背中をさすると力なく体重を預けられた。ゲロ臭い。
「大丈夫だよ、替えあるし。今日は下に布団ひこっか。歩ける?早くシャワー浴びよう」
「ごめんなさい…」
美輝はシャワーを浴びてる時もまた吐いたし立ってるのも辛そうにした。何度も謝る姿は虐待を受ける子供のようで痛々しかった。
風呂から出るとすぐに、最中とは反対の真っ青な顔で布団に倒れ込んだ。
「ずっとここにいようね。俺が守ってあげる」
今度こそ本当に眠った美輝の髪を撫でる。もうゲロ臭くない。いつも俺が使ってるシャンプーの香り。 これが美輝の香りになればいい。
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