15話
この家の冷蔵庫にはいつも美味しそうな料理が入ってる。タッパーに詰められ、蓋には日付と簡単な料理名がご丁寧にラベリングしてある。
「いただきます」
その中から1つ、一番前に置かれた“鶏肉 夏野菜 煮込み”を温めて食べる。
店長のとは違った家庭的な味。嫌でも懐かしさを感じて昔を思い出してしまう。美味いけど好きじゃないな。
桃良さんが何も言わず、コトンと隣に皿を置いて座った。二人分入ったタッパーから自分の分を取り分ける。
「これいつも誰が作ってんの?」
「昨日来てた茶髪の女性だよ」
何となく気になっていたことを聞いてみた。最初は一人分だったけど俺が来て2日後には量が倍になってた。
桃良さんはまた名前じゃなくて大雑把な特徴で紹介を済ませようとする。お前茶髪の女何人連れ込んでんだよ。
「どれ?」
「白永社の栗田さん」
興味なさそうに目を伏せながら即答された。覚えてはいるのか…。
「どう?美味しい?」
じっと俺の横顔を見つめて桃良さんが言った。俺が何か食べてると決まってこの質問をしてくる。
自分が作った訳でもない。同じ物を食べてるから味は聞かなくても分かる。でも俺に聞く。やっぱ変な奴。
「うん。桃良さんと食べたら何でも美味しいよ」
何でもないようにさら〜っと返事した。実際この言葉に特別な意味なんてない。ただ、いつもからかってくるからたまには仕返ししてやろうって思っただけ。
笑ってかわされるかな。ここぞとばかりに悪ノリしてキスしてくるかも。それかまた難しい言葉使って返してくるか。
反応を何パターンか予想してみたけどどれも来ない。しんと静かな時間が流れた。
「え"っ!!?いや…そんな、え?」
不思議に思って隣を見ると湯気が出そうなくらい真っ赤になった桃良さんがいた。ガッチガチに体固まったまま。
俺が声をかけるとゆっくり箸を置いたけど、力のない手のせいで皿にぶつけてカタカタと音を立てた。
「信じても、良いのかな」
「…ご自由にどうぞ」
桃良さんが皿を見つめながらそう言った。顔と同じように赤く潤んだ目が強く記憶に残る。
なんか、思ってたのと違った…。毎日色んな女と愛を謳い合ってるくせに。何その顔。こっちまでバクバクするじゃん。
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