9話
カランカランと大きなドアチャイムを鳴らして扉を開ける。ただいま、と言おうとしてやめた。
カウンターに突っ伏して眠る美輝の隣に座って目にかかった前髪をはらった。綺麗な顔。人形みたい。寝息も立てず静かに眠る。この寝顔が嫌い。
「ただいま、私帰って来たよ。起きて」
肩を叩いても美輝は反応しない。自分の腕を枕にして目をつぶったまま。
「起きて。ねぇ、優人」
少し強く揺さぶってみても黙ってる。寝息も聞こえない。なんで起きてくれないの。
「早く起きてよ!なんで寝たフリするの!?人が来たらすぐ起きろって、美輝が言ったんだよ」
「…お前だから大丈夫だと思って」
私が声を荒らげて腕を引っ張るとやっと美輝は目を開いた。微睡んだ目でぼうっと遠くを眺めながら呟く。充血した瞳が泣いてるみたいだった。
「それ、他の人にも言う?」
美輝の視界を遮るように私もカウンターに突っ伏した。美輝の方を向いて目を合わせる。
「蒐だけだよ」
そう言って笑う。その笑顔は初めて見る顔だった。喜び、悲しみ、怒り、どれも違う。秋風に揺れるススキのように痛い。
ふい、と美輝が反対向きに寝返りをうって顔を隠した。
「美輝」
「何」
なんで今そんな顔したの。私も同じだよ。本当はどう思ってる?こっち向いて。手握って。嘘つき。ずっと一緒にいてくれるよね。寂しくなんかない。死なないで。美輝、私ね
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
ぎゅうっと自分の腕を抱き寄せ顔を埋めた。
美輝。本当は私、…。
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