7話
美輝のクラスに気になる子がいる。
水島透華。あだ名は透明ちゃん。気弱で声が小さい。
国本まり菜って女とその取り巻きにいじめられてる。国本が東高の男と繋がってるから皆逆らえないらしい。東高…。確かにヤクザとか薬物とか良くない噂が多いけど、私は正義のヒーローだからね〜。
「ごめーん、気付かなかったぁ」
「てかいたんだ?」
皆が帰った放課後、ケラケラと笑い声が聞こえる教室を覗く。いたいた。ちょうど国本達が水島を殴ってた。
私ってばナイスタイミング!…というか、わざわざ残ってまでいじめ?ないわ…。水島の何にそんな執着してるの。
「やめなよ、嫌がってるじゃん」
水島の頭上でゴミ箱をひっくり返そうとしてた国本の腕を掴む。振り払おうとするのをぐっと制止する。えっ、力弱…。
「離せよ。いい子アピしてんのか偽善者が」
「やだこわぁい」
キッと睨みつけてくる国本にヘラヘラ笑いながら手を離した。瞬間横で見てただけの取り巻きに突き飛ばされた。ガタガタ音を立てて机にぶつかる。
クソ…さっきまで傍観者だったくせに。ちょっとは頭使って生きてんのね。
「いったぁ〜〜…」
「鈴木さんっ!大丈夫?怪我…」
わざとらしくぶつけた腕をさするとすぐ水島が駆け寄ってきた。眉を困らせ心の底から心配そうに私を見る。
え、何…。私たち今日初めて喋ったよね…?その純粋さがありがたくも気持ち悪いと思った。
「ありがと。私は大丈夫だから」
ぐっと体を起こして水島の頬に手を添えた。触れたところが少しずつ熱くなる。水島の目が揺れる。
どう?嬉しい?鈴木理子があんたの惨めな人生に舞い降りた天使に見えてくるでしょう?だから利用されるんだよ。
「さ、こんなのほっといて早く帰
「鈴木さんっ!!」
水島の声で後ろを振り向くと顔の前まで国本の足が伸びてきてた。ハァ!?何こいつ!なんでこの一瞬で女の子の顔蹴ろうなんて思いつくわけ!?
私の顔が汚れたらどうしてくれるの!蹴られる直前国本の足首を掴む。そのままガっとこっちに引っ張ればよろけた国本が床に尻もちついた。起き上がられるより先に馬乗りになって胸ぐらを掴む。
「お前、一人じゃ何もできないんだな」
「…絶対痛い目見せてやる」
「できるといいね」
掴み返して来ようとした国本の手を足で思いっきり上から踏みつける。最大の嘲りを込めて笑いかけると国本の顔が歪んだ。
面白い顔。こういう顔を見たくていじめやってたなら次からは是非誘って欲しいな。
「帰ろう。透華ちゃん」
「え、っと…」
「?ほら行くよ」
くるりと振り返って水島に手を差し伸べる。なかなか掴もうとしない手をこちらから握って引っ張り上げた。周りの制止する声を無視してズカズカと教室を出た。
「あの、鈴木さん」
「理子」
「えっ…あ、理子、ちゃん」
強く手を引いて歩き続ける私を水島が呼び止める。呼び名に訂正を入れると水島は困ったように口ごもりながら言い直した。
「どうして私の名前知ってるの…?」
ぴたりと足を止めて目を見る。繋いでいた手を両手できゅっと包む。目を細め口を柔らかく開いてにへと笑う。美輝曰く馬鹿な犬みたいな顔。私がこれをしたら皆喜ぶんだって。
「透華ちゃんは透華ちゃんだもん」
本当は名前さえ呼べば落とせると思ったからだけど。
水島は私の顔にぼうっと見惚れ、3秒後ハッと俯いた。顔を真っ赤にしながらずっと浮かせてた指をきゅっと折りたたむ。
なんだ、可愛いところあるじゃん。
.
「おはよう透華ちゃん」
「あ、理子ちゃん。おはよう」
下駄箱で出会った透華ちゃんに声をかける。すぐ美輝の腕から手を離し透華ちゃんの腕に抱きついた。美輝は横目で私たちを見て小さく鼻で笑った。
あれ以降これでもかと透華ちゃんに構って、透華ちゃんは毎度律儀に喜んでくれる。周りから見れば異様な光景でしかないと思う。
異様でも何でも水島透華の中で鈴木理子の存在を大きくできるなら手段は選ばない。
美輝は透華ちゃんを気持ち悪いって言う。私に依存しすぎてる、あんなの異常だろって。
バカだな。異常なくらいがちょうどいいんじゃん。気持ち悪い奴が一番役に立つんだから。
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