2話
電飾が眩しい通りの入り口でターゲットを待つ。ネオンの海はキャバと居酒屋とラブホが交互に並ぶ如何にもな場所。 この辺りは治安も民度も死んでるから監視カメラなんてないし、いちいち客の顔を覚えてる賢い店員もいない。
ホテルの個室に入りさっさと薬で眠らせる。データか何か持ってたらそれを持ち帰ってくる。ついでに金も貰っとこうかな。手数料。
もし何かあっても後片付けは店長の担当だから押し付ければ良い。
いけるな。さっさと終わらせて帰ろ。 あくびを噛み殺しながらターゲットを待つ。待ち合わせの時間になったのに全然来ない。
二人が制服で行ってやれって言うから着てきたけどここじゃ目立つ。クソ、早く来いよ。
そういえばこの辺り、ここ一年で殺人が増えたって言ってたな。来る途中で殺されたか?
物騒な世の中。
「あのー、」
ぼうっとしてると一人の男に声をかけられた。想像よりうんと若い。20代半ばくらい?
小さなハートのワンポイントが可愛いTシャツ、白のラインが入った黒のジャージ。ゆるゆるとした服でも普段から鍛えてることが伺える体付き。
違う。こいつ今回のターゲットじゃない。
「君、高校生?警察ですが」
そう言ってそいつはポケットから警察手帳を取り出した。警察の制服を着た写真と「警視庁 生活安全部 七瀬大志」の文字。
「わ、警察手帳ってほんとにあるんだ〜!初めて見ました!凄い!」
感嘆の声を出しながら警察手帳を覗き込んだ。目を丸めぽかんと口を開ける。咄嗟に馬鹿なフリをした。
もし補導されて色々調べられたら、ちょっと困るかも。 焦っていると勘づかれないようヘラヘラ笑いながら急いで蒐に連絡を入れる。
とりあえず黙秘か。適当な嘘は苦手だ。このままはぐらかし続けよう。時間稼ぎしてその間に二人が店を…。
こんなことになるなら尚更俺じゃなくて蒐の方が良かった。ターゲットの好みだったらしい自分の顔と性別を恨む。
「今日はもう帰りなさい」
「はい。…ん?えっ、はい?」
でも警察官、七瀬は俺を補導なんかせず帰れとだけ言った。名前も住所も聞いてこない。こちらとしてはありがたいけれど何だか拍子抜け…。
今回見逃す代わりに困ったことがあれば何でもすぐに相談しに来て、と名刺を渡された。
病んでこういう所来てると思ったのかな。お気遣いどうも、全然元気ですけど。
生活安全部 総合相談センター 窓口担当。柔らかく親しみやすい色とフォントの名刺。右下には黄色い花のイラストが小さく添えられていた。七瀬だから菜の花?警察のセンス…。
警察って名刺持ってるんだ。というか相談センターって署内に居る人?なんでプライベートでも警察手帳持ち歩いてんだ?
色々気になることはあったけどとりあえず今は七瀬の言う通り素直にその場を離れた。とにかく今はこいつから離れて仕事はそれから。
あーあ、今日は早く終わると思ってたのに。
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