最後の配信
ゆいかは休みのツウィートをしてから、そのツウィートに付いている動画を見てみた。
それは、ゆいかと誰かが映っている写真とゆいかと誰かが喋っている音声だった。ゆいか以外は音声も変えられてるし、スタンプで顔が消されている。
(これって…委員長と撮ったやつだ。だ、騙されたー)
次の日から、ゆいかは学校も配信も休み始めた。
だが、誰もゆいかとの連絡手段がないわけではないので、ずっとゆいかのスマホにはメッセージが届き続けている。クラスメイトからの媚びを売ってくるようなメッセージや、悠や幸からの、心配のメッセージ。ゆいかはスマホを開くたびにそのメッセージには答えず、委員長へメッセージを送っていた。
“なんでこんなことしたわけ?”“こんな事する人だとは思わなかった”…これ以外にもたくさん送っているが、全部既読無視されている。
「はぁ。こんなことしてるのが馬鹿みたい」とゆいかは呟いた。
ある日、ゆいかがいつものようにやることがなさすぎてゴロゴロしていたら、
ピコン!
と通知の音が鳴った。ゆいかは何にも考えずに画面を見て
「うぉ!」と声を上げた。委員長からの返信が来ていたのだ。
“好きだけどみんな知らない”と意味不明なメッセージが。
委員長から返信が来た次の日、ゆいかは緊張しながら学校へ行った。
ガラガラ
ゆいかが教室に入った途端、今まで騒がしかった教室が静かになった。ゆいかが席に着くと何事もなかったようにまた、みんなは喋り出した。
(え?誰も話しかけてこない。いや、逆にそっちの方がいいのかも)
などと、ゆいかが考えていると、誰かが声をかけてきた。
「ちょっといい?」
「委員長…」
二人は教室から出て、誰もいない場所で話始めた。先に口を開いたのはゆいかだった。
「昨日のメッセージは何に?」と聞くと、委員長は、
「だって、だって、…」というだけで話そうとしなかった。しばらく沈黙が続き…
「だって、大ファンだから」と意味のわからない事を言ってきた。
「どういうこと?」とゆいかは聞き返す、
「私、ゆいちゃんの大ファンなの!知ってる?私の事。毎配信、欠かさず見てるし、“クマさん野郎”って名前でコメント打ってるし…」
「ちょっと待って…」まだ喋り続けようとした委員長の話をゆいかは止め、
「“クマさん野郎“さんって私のアンチだと思ってた。」と言った。
話を聞くと委員長はゆいかの大ファンだが、口下手なので褒めコメントがアンチコメントに見えてしまうのだ。
「じゃあ、写真は何で載せたりなんてしたの?」とゆいかは疑問に思い、聞いた。
「現実のゆいちゃんも可愛いことをみんなにも知って欲しかったの」と言ったら、“ごめんなさい”しか言わなくなってしまった。
委員長は“迷惑なファン”なのか、現実のゆいかも可愛いと言ってくれる“超良いファン”なのか…ゆいかは混乱してしまった。
(だけど、話を聞いてたら別に悪意があったわけじゃ無さそうだから…別にいっか)と思い
「いいよ…許すよ、委員長。」と、委員長を許した。
配信を休んでから1ヶ月が経ったある日、ゆいかは幸と悠と作戦会議をしていた。
配信を再開することにしたのだ。
「どうしようか」と悠が聞いてきた。
「こんなに休んだのは初めてだからなぁ〜。何をやればいいのかわかんない」とゆいかは悩んだ。
「コラボ…だと、なんかなぁ〜」と幸も考える。
顔バレをしてしまった以上、学校の人にも見られていることを踏まえた配信をしたい。
「うーん。最後の配信決めた!どんな配信するか!」とゆいかが言った。
「えっ?最後の配信?」悠が聞き返した。
「やめちゃうの?」と幸も聞いてきた。
「ちょうど良い機会だしね。」ちょうど良い機会というのはあと、1週間ほどでゆいか達は卒業なのだ。
そして、卒業式が終わった1週間後…
「やっほーみんな!今日も僕の配信を見てくれてありがと〜。突然ですが、今日をもちましてわたくし、ゆいかは配信者を引退したいと思います。」
今までゆいかが帰ってきたことに喜んでいたコメント欄は、急な引退発言に驚きのコメントで埋め尽くされた。
「なので、最後に顔出し配信をやりたいと思います。みんなもう出回ってる写真で顔知ってると思うけど、」
コメント欄は、“配信見にきてよかった”とコメントが多くなった。顔バレによって配信の視聴人数は大幅に減ってしまっていた。
「それじゃあ3、2、1…じゃーん!」ゆいかは配信で初めて顔を出した。
コメント欄はまだ引退を悲しんでる人で多かったが、顔が出た途端“かわいい!”で埋め尽くされた。
「そんなに!?僕、嬉しい!」ゆいかは少し雑談をして配信を終わることにした。
「今まで僕のことを応援してくれてありがとう!みんなのおかげで僕、とっても楽しかったよ。バイバイみんな。さようなら」と言ってゆいかの「初、顔出し&引退配信」は幕を閉じた。
ちなみに、このゆいかの最後の配信はのちに、再スタートの時に引退をするということで、“伝説の配信”と呼ばれるようになり、配信者だったら誰でも知っているものになったそうだ。
ネットの世界では完璧でも現実では少し抜けてる配信者のお話 橋本 愛佳 @kota_suka
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