第18話 エピローグ

 魔剣ダーウィン・スレイヤーの自爆に巻き込まれ、俺はあの後死んだ。近くにいた仲間達と四天王は分からないが、多分隣にいた魔王は即死だったと思う。

 こんな情けない形にはなってしまったが、俺はこうしてまた死後の世界であるこの無の空間にいる。ここは水の中で寝ているような心地良さがあって気分が良い。落ち着いていつまでもいられる。


 元々、俺は遥か昔に死んだ存在。所詮は過去の人間だ。やはり時代を切り開くべき人物というのは、その時代を生きている者だけなんだ。だから俺は元いたこの場所に帰るべきだったんだな、最初から。


 後悔は特にない。だが、強いて言うなら少しだけアイツらが恋しいかな。全盛期の時のパーティーメンバーは幼馴染みや友達と組んで、飽きるほど長い間冒険したから気にも止めてなかった。


 けど今思えば、蘇ったあの世界の仲間達とはもっと楽しい冒険がしたかったな。ラセルとカジノに行ったり、ガウエンに武器術を教えてもらったり、エドとももっと会話して仲を深めれば良かったと少しばかり後悔がある。

 しかし今となっては叶わない夢。そんな事を気にするより、俺は彼らの幸福を願いながらまた眠りに着こうと思う。出来るのかは知らないけど、出来るなら輪廻転生とかしてみたいかもな。今度はまた、ちゃんとレベル上げ出来る世界で。


 ああ、段々と意識が溶けて消えていく。そんな感覚がした。


 ※ ※ ※ ※


 ──次の瞬間、俺の意識は覚醒した。

 目の前が真っ白になるほどの眩しい光が目の中に入ってくる。何事かと思い、俺は手で光を遮りながらゆっくり目を開けた。


「あれ? ここは……」


 デジャブだった。俺が目を覚ました場所は、俺の出身王国の王の間であった。俺はいつの間にか、王の間の床に座り込んでいる。


 そしてその隣には──


「ゆっ、勇者!?」


 魔王が俺と同じく、床に座っていた。


「えっ、魔王!!? なんでここに……」


「よくぞ蘇ってくれました! 我らが王たちよ。私はこのエベル王国の王、貴方達を召喚した者でございます」


 俺達2人は目の前に立っていた若い男に声をかけられる。男は俺の時代とは全く異なるファッションの衣類を身に纏っていた。国王と名乗られたが、衣服のせいで全然入ってこなかった。

 そして俺の前に立っている王の向こうでは、何人もの人々が俺達の方を見ていた。そこに居た民衆は人間や魔族、そしてそのミックスと思われる人々がごちゃ混ぜに集められていた。見たところ彼らは一般人のようだ。


 どういう状況かと混乱していると、その若い王は俺と魔王に語り始めた。


「お二人が再召喚されたあの時代から、4000年の時が経ちました。そして今の世界は新たな敵、『天使』と『悪魔』に侵攻されています」


 えっ? えっ……ええっ!?

 待って待って待って、ストップストップストップストップ、うんこうんこうんこうんこ!!

 どういうこと、えっ、また召喚されたの!!? ていうか、4000年も経ってんのになんで俺達召喚したの!!!!?? 俺達、元の時代も含めると6000年前の人間じゃんかよ!!!!!


「勇者様、魔王様、偉大なる我らの始祖よ。今こそ手を取り合い、我らの敵を討ち滅ぼして下さい!」


 その瞬間、俺の『鑑定スキル』が発動した。そして次々と人々の頭の上にレベルが表示されていく──


 レベル2035、レベル4573、レベル6537、レベル1790、レベル11823、レベル3741、レベル1385、レベル2224、レベル7817、レベル8896、レベル31347、レベル54310、レベル8047、レベル1145、レベル1474……


 悪夢の再臨だった。俺は魔王と一緒に抱き合いながら、心の底からの叫び声を上げた。


「「いっ、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」



 ──こうしてまた、地獄のようなレベルインフレ世界での冒険が幕を開けてしまった。


 これは俺の、エーデルハルトという最弱勇者の情けない地獄の冒険譚。


 これは俺の、弱くてニューゲームだ。

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