第17話 魔王と2000年ぶりに再会
「お前、本当に魔王なのか!?」
土下座して命乞いする魔族の長、魔王。それはかつて俺の手で討ち取った魔王本人だった。思わぬ再会に驚いた俺は魔王に声をかける。顔を上げた魔王は俺と目が合うと、ぶわっと涙を流して飛びついてきた。
「ゆ、勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
子供のようにびゃあっと泣きついてきた魔王。今見ているこの光景を俺は信じられなかった。
「復活した伝説の最強勇者って、お前のことだったのかよぉぉぉぉぉ!」
「いやこっちこそ、まさか魔王ってお前の事だとは聞いてなかった。ていうか……」
なんか自然と話してるけどさ。
「俺ら、こんな感じのノリだったっけ?」
旧友との再会みたいな雰囲気になってっけど、元々は俺たち2000年前に殺し合いしてる間柄だったんだよな。完全に敵対してたし。
「いや、昔のお前は『暴虐の限りを尽くす悪の祖よ、貴様は俺が滅ぼす』とか決め台詞言ってたな。俺も『良かろう。この絶対悪の闇に飲まれるが良い!』とか叫んでたし……」
「ああ、思い出して恥ずかしくなってきた。あの時は……」
「「あれだ、テンションがキマっててカッコつけてたんだ」」
2000年の時を経て知った、互いの意外過ぎる共通点。俺達は案外、似た者同士だったようだ。
「──まあその、なんだ。今はとりあえず殺し合いって雰囲気でもないし、近況報告でもしない?」
「うん、そうしたい……」
ちょっとマジでこんな魔王見たことねぇんだけど。最終決戦の時以外もちょくちょく別のとこでコイツとは戦闘とかしたけどさ、こんなメンタルスライムみたいなやつだったとは思わなんだ。
すっかり丸くなった魔王は鼻水をすすりながら語り始める。
「俺はさ、2000年前こそ最強だったけど、あの時代の中で強かっただけなんだ。ステータスインフレの進んだこの世界じゃ、俺はもう魔族の中でも最弱なんだ」
確かに言われてみれば、この魔王は魔力も俺と同程度しかない。実際はレベル10ぐらいの誤差はあるだろうけど、この世界見てきた後じゃ気にもならんわ。
「だって、おかしいだろ? 魔族は勇者や人間達よりもレベルやスキルの成長率が低い。だから魔王は『権能』を得て強さを獲得出来る仕組みになってる」
あ、ごめん。それ初耳情報でした。
「でもその『権能』が! この時代だと使用期限が切れてたんだよぉ!! なんか知んねぇーけど、時代の変化のせいで権能が使えなくなってたんだ……」
完全に俺のレベルアップの状況と同じじゃねぇーか!! そっちも使用期限とかそういうのあるの!?
「魔族は人間社会の掟よりも自然の摂理に近い考えを持つ。弱滅強残、弱者は淘汰されて当たり前。下克上なんて日常茶飯事」
結構厳しい社会に身を置いてたのか、コイツも。
「今の俺はほとんど魔法も使えない。魔王の座を狙う反逆魔族や、人間なのに単騎特攻する頭おかつよつよ冒険者に何度も殺されかけた。死ぬかと思った」
やべぇやべぇやべぇやべぇ! やっぱいるのか現代でも魔王に挑もうとする勇者以外の冒険者。そりゃ心労で魔王もこんな風にもなるわ!! 俺なんか社会的信用失う程度に対してこいつ命直結じゃんか。
「しかも何だよあの『大破世四天王』! アイツら強いだけじゃなくて、戦略面、魔術面、運営面も優秀過ぎんだよ。俺が支配してた時代の15倍の領域に魔王軍進行してたし!!」
もう魔王の色んなとこボロボロじゃんか! 優秀すぎる部下持つとボスって萎えるのか、へぇ。
……え、逆にそんな魔王軍の駐屯地潰したガウエンやば。
「奴らは俺を最強の魔王と信じて疑わない。でもバレたら1発でぶち殺される。味わったことのない劣等感と死の恐怖に日々苦しめられてるんだ」
涙ながらに語ると魔王はしばらくの間、嗚咽していた。あまりに可哀想で、俺はその背中を摩った。
「すまない、取り乱した。人のお前には分からない話だよな」
「いや、違うぞ魔王。俺は、お前と同じだ」
「……ふぇ?」
「俺もお前と同じく、この世界に置いてかれた。魔物は強過ぎるし、パンピーは素手で魔物ぶっ殺すぐらいイカレてるし、レベルはなんか知らんけど上げられなかった」
伝説の勇者が聞いて呆れるぜ。単純な強さはおろか、俺はメンタルも勇者の器じゃねぇんだからな。この世界でも頑張ろうって気になれなかったのがその証拠だ。
「セーブポイントや教会はお前んとこの奴らに壊され尽くして復活不可能だった」
セーブポイント依存だった俺にとっちゃ致命的だったしな。
「昔嫁さん以外の女にも何人か子供作らしちゃって、今じゃ勇者の末裔の家が何個かあって黒歴史現在進行中だし」
「いやそれはお前が女癖悪いだけだろ」
「あ、そこは正論なのね。ごめんなさい」
やめてくれ魔王、その正論はDNAに直接届く。
「とにかく、俺達2人は同じ辛さを経験した仲だ。同じ気持ちを共有した今なら、互いのことを分かり合えるんじゃないのか?」
「っ……!」
「わだかまりはまだ消えないだろうし、反発もあると思う。でも諦めなきゃ、あるんじゃないのか? 人と魔族が共存できる道が」
むしろこれまでこの道を模索しようとも思えなかった自分は、とても狭窄であったと今では思う。
「そんな事が、本当に出来るのか?」
「出来るさ。だって俺らは、2000年間も伝説になった魔王と勇者だぜ」
「……フフ、お前はやはり勇者だな」
魔王は鼻を擦り、柔らかい笑い声を上げた。
「良かろう。この魔王アルドロス、和平条約を結ぶとここに誓おう」
そう言うと魔王、俺の前に手を差し伸べる。
「共に夢を叶えよう、友よ」
「おう!」
魔族と人間の友好の第一歩。その誓いの握手が交わされたその瞬間だった。魔王の間の扉が爆発し、入口がガラガラと崩れた。
「「うわぁっ!!?」」
俺と魔王が合わせたような悲鳴を上げると、扉があった向こうから四天王と俺のパーティーが走ってくる姿が見えた。
「見ろ、勇者が魔王様とあんなに近いところに! てめぇら、勇者ぶっ殺すぞ!!」
「「おう!!」」
「エーデルハルトさぁん! 助けに来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「安心しなエーデルハルトの兄ちゃん、そのクソ野郎の首をすぐ切り落としてやる」
「貴様、我との神聖なる決闘を放棄するつもりかッ」
「あんたとの戦闘も楽しいけど、魔王とも殺り合いたいんだもの!!」
殺意マックスの四天王と勇者パーティーが迫ってくる恐怖。それを前に最弱コンビな俺と魔王は抱き合って絶叫した。
「「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
完全に終わった。ぶち殺される。そう思った時だった、俺の腰の辺りから黄金色の強い閃光が放たれ出す。
「なっ、ダーウィン・スレイヤーが……」
魔剣ダーウィン・スレイヤーの刀身が黄金へと変貌していく。そして俺の脳裏に魔剣の持つ意思が流れ込んでくる。
『条件、達成。自爆シマス、自爆シマス。魔王コロスコロスコロスコロスコロスコロス』
その言葉が頭の中を駆け巡った瞬間、俺は光と魔法の森で長老から聞いた話を思い出した。
『たしか自爆機能もあるとかないとか……』
こういうことかよ! 魔剣の製作者クソ野郎がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
次の瞬間、魔剣は大量の魔力を放出しながら俺と魔王をまとめて吹き飛ばすほどの大爆発を発生させた。
「「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
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