第15話  四天王を前に俺、チビる

 この時代において魔王に次ぐ最強クラスの魔族4人、四天王。その存在は俺なんかが相対して良いものじゃなかった。彼らのレベルを『鑑定』したところ、彼らは全員がレベル1000以上。特に骸骨面の魔族に至ってはレベル2215。

 そんなやつが今、物干し竿並の刀身を誇る長剣を構えて俺の首を物理的に狙ってきている。


「伝説の勇者、我が王の威光を妨げし王国の徒よ。灰燼となりて主君の前に召すが良い」


 音を、空気を、空間を斬り裂く音がした。刀と骸骨の腕は消えるように加速して振られる一瞬だけ俺は目にする。

 ダメだ死ぬ、これ死んだ。討ち死にした時と違って普通に怖い! やだやだ死にたく──


「ひゅうっ……!!」


「間に、あったァァァ!」


 何が起きているのか理解するのに、時間がかかった。俺の体は気が付いたら倒れていて、四天王達から遠い場所まで移動していた。もちろん、首は繋がっている。

 頭が追い付かないまま顔を上げると、俺を突き飛ばして攻撃を回避させてくれたラセルの姿が目に飛び込んで来た。


「ら、ラセルぅぅぅぅぅ!」


「ぶっ飛んで来たぜ、エーデルハルトさん。外でエドが暴れてるから逃げてきたけど、タイミングバッチリ」


 サンキューサンキュー! マジで感謝感激永遠に!! ラセルの兄貴一生付いていきます。


「にしても強いね〜この人達。ま、でも俺……ラッキーだから良いや」


 その時、不意に俺の『鑑定スキル』が発動された。そしてラセルのステータスが顕になる。ラセルの現在のレベル1241。そして彼の幸運値が『鑑定スキル』で解禁され、8888と表記された数値を目の当たりにした。


「エドが大量に魔物ぶっ倒してくれたから、その時にユニークスキル使ったんだよ。そしたら運が良くてさ、経験値を2倍3倍でゲットしちゃったんだ〜」


 その刹那、骸骨面以外の四天王3人が飛び出し、ラセルに襲いかかった。


「阿呆がッ!」


 リザードマンは火炎を纏わせた鎧で、黒翼の包帯野郎は素手で殴りかかる。少年の姿をした剣士は刀を振りかざす。彼らは俺の目では捉えられない速度で絶え間なく攻撃をラセルに浴びせ続けた。激しい衝突音が辺りに響く。


 しかしラセルは両腕を構えて全ての攻撃をガードする。


「あの猛攻撃を受け切るか! で、でも……」


 様子がおかしい。ラセルは防戦一方で、反撃をしようとしない。いや、出来ないように見えた。


「ガハッ……」


「ラセル!!」


 ラセルは血反吐を吐き、出血を伴いながら壁へ叩きつけられた。ユニークスキルの限界なのか、ラセルは強者たちの攻撃を全て受け止め切れずに吹き飛ばされる。負傷し息を切らすラセルの姿を四天王達は嘲笑う。


「傲ったな、小僧。反撃もなしに対峙しようとは」


「いンや旦那、それは無理な話でしょ? 俺らの中の一人だけでも厳しいのに、3人とか」


「むしろよく原型を保てたものです。感心しました」


 100パーセントを基準とした確率がインフレを起こそうとも、実力が上の敵に対しては絶対ではないのか。それともスキルの弱点を突かれたのか。いずれにしても、この場で頼れるのがラセルしかいない今、絶体絶命なことに変わりはない。


「へへへ、お前たち大馬鹿だぜ」


 ラセルは、笑っていた。吐血して壁に背もたれているこの状況下で、ラセルの目には光があった。


「『フルスロット・ギャンブリング』は、俺の行動を確率化して、成功時に俺に都合の良い結果を引き当てるユニークスキル……」


 彼の息は途切れ途切れで、一刻を争うような怪我をしていた。しかし諦めている様子は微塵もない。


「防御と回避みたいに、2つの行動に対して同時にスキルは使えない。それに格上相手じゃ1発でも当たれば致命傷だから、回避捨てて会心防御を出しまくるしかない……」


 ラセルは怪我を負いながらも、再び立ち上がる。彼の顔はまるで、勝利を確信した時のようだった。


「でもさ、俺は運が良い。敵を倒さなくても、戦ってる間に経験値を貰えれば成長できちまう」


 瞬間、ラセルの魔力は膨張する。そして彼の頭の上に浮かぶレベルを表す数字が、一気に1600を超えた。


「『フルスロット・ギャンブリング』のスキルのその先、『突き付けられた不幸インターンの見返りザ・アンラック』……俺に降り注いだ不幸を、幸運で帳消しにするッ!」


 ユニークスキルの不幸の帳消しが発動されたその時、魔王城内に大きな破壊音が響いた。音のする方へ振り向くと、城の壁に巨大な風穴が空いているのを俺たちは確認する。

 その風穴からは砂煙と共に、禍々しく膨大な魔力を放つエドが姿を現した。


「──いたなぁ。いたよ、いたね、いたいた、いたんだ。大破世四天王……ボクが壊しても良い、壊れにくい最高の遊び相手♡」


「え、エドッ!!」


 あれだけサイコパスと心の中で罵ってごめん、今のお前最っ高に輝いてるぜヒーロー!! 外から差し込んだ光が、後光のように俺は見えていた。


「カシラぁ、あれって『狂酔する暴風』とか言われてたやべぇやつじゃない?」


「俗世に生きる者の噂など──いや待て、彼奴は……」


 エドの顔を見るや間もなく、骸骨面は何かに気が付いたようだった。そして骸骨は語り出す。


「耳にしたことがある。200年前、天界より降り立った暴風を司る神を殺した者がいると」


 え、何の話……?


「暴風の神は魔術を極め人の身から神へとなった一人の魔導師であった。しかし、その神は200年前に1人の魔術師に召喚され……魔術によってねじ伏せられ殺されたと」


 えっ、それってまさか。


「神を殺し、叡智を奪い、自らを魔法の極地へ至らしめるため天界と契約した魔術の狂人がいたと言う。その者の名は、エドワード・クリストファー」


 エド、お前マジかよ。情報量多過ぎてもう訳わかんねぇんだけどお前!! 神殺しとか、200歳以上とか、魔術の狂人とか、バケモノ過ぎてもうなんて言っていいんだよ。


 四天王の中の首領格であろう骸骨は、狂人エド・クリスタリアと対峙する。両者は空間が歪むほどの強烈な魔力を放出しながら、それぞれ武器を構えた。


「賞賛しよう、魔道に身を焦がした狂戦士。神殺しを成し遂げ得たその異名、我が受け継ぐとしよう」


「寝言は墓の下で言えよ、白骨」

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