第14話 復活から1ヶ月未満で魔王城到達
俺達はガウエンに街の魔王軍の相手を任せ、現地から離脱に成功した。そして現在は彼が託してくれた大蛇、ヨルムンガンドに乗って移動している。
「ヨルムンガンドはっえぇ!」
魔界はヴァルキュールベリー以外の大都市や地形の大きな変化はない。だだっ広い荒野が続いている。そのお陰もあって、ヨルムンガンドの移動速度は凄まじいものだった。
街を出てから数分経過した今、地平線の向こうに魔王城らしき建物を確認した。
「この後はどうすれば良い? もう隠れるのは難しそうだぞ」
「このまま進めば魔王城に到達します。まだ情報が回っていない今奇襲をかければこちらが優勢。このまま突撃します!」
もう覚悟を決めるしかない。怖いし逃げたいしひきこもりたいし女遊びしたい。
ただここで行かない選択肢もうねぇんだよなぁ。ラスボス戦の前はセーブポイント使って過去に行った街へ戻ったり、別の強いダンジョンでレベリングしたりする定番が使えねぇんだよなぁ。
と、泣き言を心の中でぶち垂れ流しているとヨルムンガンドの乗り心地に変化が起きた。異変に気付いて大蛇を観察してみると、なんとヨルムンガンドの鱗がボロボロと腐るように崩れ始めていたのだ。
「なっ、なんだこれ!?」
「これは……召喚限界! おそらくヨルムンガンドは太古の魔獣。ゆえに長い間の召喚が困難なのかもしれません」
肉体が崩壊し切るのも時間の問題だ。そしてそこに追い打ちをかけるように、前方から魔王軍の本陣が向かってきているのが見えた。
数やっっっっっっっば。辺り一面魔物と魔族しかいねぇんだけど。しかもなんか大砲とか戦車もあんじゃん。魔王軍がそれ使うの反則だろうがァァァァァァ!!!
「もうここまで来れば民間人を巻き込むリスクはありません」
「ちょちょちょ、待てエドここは」
「ご安心を、暴れるのは魔王城内まで待ちます。なので今は、敵軍の殲滅をこの者らに任せます」
な〜んかいつも通り嫌な予感がするよ。絶対頭おかしい攻撃だ。
「蹂躙なさい、百腕のヘカトン巨人達ケイルズ」
エドの命令に従うように、地面から無数のゴーレムが生まれた。ゴーレムは敵の巨人達と同等の体格。更にその肩や脇、背中から何本もの巨腕が飛び出していた。
土から生み出された『ヘカトンケイル』という巨人は敵の中へ突っ込むと、そのバカみたいにデカい腕で敵戦力を潰しにかかっていく。
加えてボディプレスや分裂しての攻撃なんかもあって、かなりエグい。
「さあ、さあさあさあさあ! この断末魔と魔族を供物とし、目覚めよ炎神」
すっかり狂人モードに入ったエドは調子に乗って、宙に炎のクソデカ魔法陣を生成しやがった。
あーあーあーあー、魔法陣からは隕石並の火球やらヘカトンケイル達の倍ぐらいのデカさの炎の巨人を召喚してるわ。敵が来る前にやられてくからもう緊張もクソもないね。
「アッハッハッハッハッハァァァァァァァァァ最高だぜクソ供ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ダメだこりゃ、完全にキメちゃってる。
もう心境ぐっちゃぐちゃになって逆に冷静にすらなっている時だった。俺は腰の辺りがどこかへ引っ張られる感覚を覚えた。
「ん? あれ、ななな何これ!?」
「え、エーデルハルトさん!?」
見てみると、俺の腰に差した魔剣ダーウィン・スレイヤーがカタカタ音を鳴らして震えている。試しに剣に触れようとした次の瞬間、魔剣は明後日の方向へ吹き飛んでいった。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
咄嗟に俺は十字型になっている魔剣の横の柄を両手で掴んだ。持ち手の部分は俺のレベル不足で握れない。だから必死になって俺はそこを掴んだ。
気付けば俺は敵軍の上を飛んでいた。剣が何かへ引き寄せられるかのように、勝手に空を飛んでいるのだ。
「まさかこれ、ダーウィン・スレイヤーが……」
剣から魔力として、意識のようなものが流れ込んでくる。勇者の血を介し、魔剣に宿った意思が俺の脳へと侵入してくる。するとこの魔剣、ダーウィン・スレイヤーの声が俺の頭の中で響いた。
『コッチ、魔王ノ気配……ブチコロスブチコロスブチコロスブチコロスブチコロス』
「そうだお前人格あったんだった! タイムタイム、一旦止まってくれぇぇぇぇ!」
剣のヘイトはかなり高く、止まる気配は一向になかった。
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
飛ぶ剣の軌道上にいた何体かの魔物は斬られて落ちていく。その度に魔力を得て、魔剣の速度が上がっていった。
そして加速した剣は魔王城の壁面を突き破り、俺は一番乗りで城の中へと乗り込んでしまった。
※ ※ ※
飛ぶ魔剣に掴まり続け、俺は無理矢理魔王城の中へ侵入させられた。最悪の気分だったが、ひとまず命が助かって良かった。
「いてて、無茶なことさせやがっ──て?」
刹那、背筋が凍りついた。倒れた俺の目に今映っているのは、大理石か何かで作られた豪華な魔王城の床。そして激流の如き魔力を放出する、4人の魔族の足元だった。
「運良くここまで辿り着けたな、勇者よ」
ゆっくり顔を上げた先に、魔族達の顔が見えた。
全身を鎧で武装し蒼炎を吹くスケルトン、不気味な表情でこちらを覗くリザードマンの魔導師、恍惚した顔で手持つ刀を見つめる男児、黒翼を生やして包帯を顔面に巻いた長身の人物。
あかん、雰囲気違い過ぎるやろ。ファッションセンスは少し中二びょ……いや、それどころじゃねぇ。魔力もヤバいしそもそもの威圧感ハンパない。
俺がブルっているとその中の一人、骸骨面の魔族が煙を吐きながら声を発した。
「我ら、偉大なる魔王様に遣えし4人の将軍。『大破世四天王』である」
声どころか心の中で叫び倒す余裕もなかった。この時の俺のパンツは濡れていたかもしれない。だってこの時代の歴代最強クラスの四天王の前に1人、放り出されたんだもの。
ラセル、エド、はよ来て!!
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