第13話 魔族だ!逃亡だ!カチコミだァ!!
魂と尊厳を半妖の風俗嬢に引っこ抜かれてからまだ時間が経たない内、俺は魔都ヴァルキュールベリーの大通りを呆然と歩いた。そして俺を横で老人を支えるようにラセルが着いてきていた。
「まあまあ、そんなに落ち込むなよエーデルハルトさん。何があったかは知らねぇけどさぁ」
ガンギマリでギャンブル狂だけど、ラセルは人の心があったんだなぁ。子供が励ましてくれてるみたいな感じで少しは心が楽になる。
……あれ?
「そういえばラセル、お前歳はいくつだっけ?」
「俺まだ16だよ〜」
「えっ、今って16歳でもカジノ入れるの?」
「入れるよ〜。用心棒と支配人に多めのチップ渡さないとだけど」
この不良少年め、大人の汚ぇ処世術を知りやがって! けしからん!! だけどもうここまで来たら気になんない。うん、感覚麻痺してんな俺。混乱魔法いつ食らったっけ?
と、この世界のヤバさに侵食されかけてる自分に笑いが込み上げてきてる時だった。通りの向こうからエドが走ってくるのが見えた。
「お2人ともぉぉぉぉぉ」
エドに手を振ろうとしたその瞬間だった。エドの後ろを追いかけてくる魔王軍を見て俺は顔が青ざめた。
「見つかってしまいましたぁぁぁぁぁぁ」
何してくれとんじゃてめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「いたぞ、仲間はあっちだ!」
「あれが2000年前から蘇ったという噂の勇者か……!」
「現代の魔王軍から逃げられっと思うなよビチグソがァァ!!」
ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?? 殺意沸騰してらっしゃるゥ!!!???
俺はエドが戻ってくると急いで回れ右で方向転換し、脇目も振らず走り出した。
「認識阻害の魔法かけてたんじゃなかったかエドぉ!」
「魔法の効果を剥がす『背筋が凍る波動』でバレてしまいました」
「こんな街中でそんなハイレベルな魔法使ってくんの魔族!?」
「まさか魔王軍がここまで用意周到とは……街の人々から魔王軍の情報を聞こうと片っ端から声掛けをしていた時に」
100パーそれがバレた原因じゃボケえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇアアアアアァァァァァァァ!!
「不味いですね。こんな街中じゃあ魔法を存分に使えない」
人間も巻き込んで大量虐殺ジェノサイドルートしかお前の戦術はねぇのか!! あの規模の攻撃やられたらガウエンいねぇし防げねぇよ。てか、ガウエンどこ!?
たすけて、ガウえも……
「──待たせたな、てめぇら!」
求めたその声が、俺達の上から聞こえてきた。
「「がっ、がうえぇん!!」」
「よくぞご無事で!」
見上げると街の建物の上に、これまでになく大量の武器を揃えたガウエンが立っていた。
「武器屋にいたら急に外が騒がしくなったからな。なんとなく状況察して先回りさせてもらったぜ」
ガウエンと合流出来たことで気が緩んでいた間に、魔族達が追い付いてしまった。だが程なくして、彼らの足が止まった。
「なっ、隊長……あれは!」
「間違いない、ヤツだ」
え、なになに?
「『武鉄獅子』のガウエン! かつて、獣人族唯一の生き残りだった『武芸百般のヴィル』と共に人間界の魔王軍駐屯地を全て壊滅させた最悪の戦士ッ!」
武芸百般って、ガウエンの異名じゃ……いやいや、それよりヤバくね!!?
魔王軍の駐屯地を2人で壊滅させたって、英雄レベルじゃねぇかよ! ていうか何そのかっこいい感じで敵に印象定着してんのよ。しょうじきぃ……羨ましいッ。
「あん時はどーも。師匠に代わってリベンジマッチしに来たぜ」
橙の髪をかき上げ、ガウエンは牙を見せながら笑った。その面を見て、明らかに敵兵たちは萎縮している。
「兄ちゃんら、先へ行け。俺はコイツらを倒してから後を追う! これ使って魔王城へ向かえ」
直後、周囲が真っ暗になった。同時に恐ろしい気配が頭上から近寄ってくるのが分かった。俺はゆっくり顔を上げると、そこには蛇がいた。黒い鱗で覆われた、あまりに巨大な蛇が街の上に。
「ヨルムンガンド、さっき呼び起こしてきた。あの師匠おやじが生涯かけて生み出した、世界を渡る古代の大蛇」
山という言葉では表現し切れない大蛇は舌なめずりをする。その時の音は谷の風を聞くような恐ろしさがあった。だけど今は、それよりも興奮があった。男としての、純粋な憧れに近い興奮が。
ガウエン、お前完全に主人公じゃねぇかよ! 最後までカッコイイじゃねぇかてめぇ……!!
「……ちゃんと、戻ってこいよ」
「おうよ、エーデルハルトの兄ちゃん。ここで死んじゃあ、師匠に馬鹿にされるからな」
ガウエンとはそれだけ会話を交わし、別れを告げる。俺達は涙をぐっと堪え、大地を駆け抜けるヨルムンガンドにしがみついて街を後にした。背負った武器を抜いてガウエンは敵の中へと飛び込んでいく。
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