第8話 そうだ、俺以外全員化け物だったじゃん

 2000年後に転生してからだいたい1週間が経過。現在、亜人族が訳分からん理由で全滅してたショックで絶賛放心中でぇーす。


「エーデルハルトさん、なんかぼーっとしてるね」


「あまり触れてやるなラセル、兄ちゃんも幾多の冒険と出会いを経てきた勇者だ。死んでいった亜人の民たちに何か思うこともあっただろうさ」


「私がした先の説明が原因でしょうか……」


「お前は少し人の気持ちってモンを考えやがれエド。言い方とタイミングってもんがあるだろうが」


 ガウエンは何だかんだで俺に気を使ってくれているようだな。正直助かるわ、ありがと。

 そんなこんなで森を進むこと小一時間。俺達は森の中で人間達が住む小さな集落を見つけた。


「ここが目的地の村です。村長ー! ただいま到着致しました」


 エドの声に振り返ると、老人は微笑みながらこちらへ頭を下げてきた。


「これはこれは勇者御一行様。遠路はるばるお越しくださりありがとうこざいます」


 とても優しそうな老人だ。この森の木で作られた杖をつき、丸太を切り出したような椅子に彼は腰掛けている。その村長は俺らへ挨拶を終えると、もう夜だというのに村の人たちを呼んで盛大に出迎えてくれた。


 ──そして俺達はこの村で泊めてもらうこととなり、俺らのパーティーは村を上げて歓迎された。まるで何か祝い事をするかのように飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとなる。

 村長は焚き火の傍で温まりながら、向かいに座る俺に話しかけてきた。


「いやはや、まさか伝説の勇者様とこうしてお会いすることが出来るとは夢にも思いませんでしたわ」


「光栄です。こちらこそ、ここまで良くして頂いて、かたじけない」


「とんでもございません。今晩はどうぞ、ごゆっくりなされて下さい」


 出された食事や酒を楽しみ、俺達はまったりとこの時間を過ごしていた。少し勇者口調にしなきゃなんねーけど、アイツらと比べたら村長と話してる方が気が楽だな。


 しかしそんな安息は程なくして身を潜めた。突如、村中に大きな角笛を吹く音が響いたのだ。


「わっ、どうしたんだ? この大きな角笛の音は」


「今夜も祭りのようですな。山から魔物が攻めて来ましたぞ」


「はぁッ!?」


「大丈夫です、ご心配なさらず」


 村長はよっこらせと言ってその場で立ち上がり、村人たちに向けて叫んだ。


「皆の者、今宵も魔物共の殺戮祭りじゃ。存分にこやつらを叩きのめそうぞ!」


 村長が祭りを宣言すると同時に、森の奥から大量の魔物の群れが押し寄せてきていた。何十という単位の魔物共が集落の中へ侵入してくる。しかし村人たちは雄叫びをながら飛び出して魔物達へと向かっていく。

 その姿はかつて俺が記憶していたか弱い民衆の姿ではなかった。老若男女問わず村人達は全員、捕食者の目で彼らを睨み襲いかかっていたのだ。その姿はまさに狂戦士そのもの。


 村は一瞬にして騒がしさと魔物の絶叫に包まれる。そこには村人たちが嬉々として戦闘する異様な光景が広がっていた。魔物が次々に、民間人に駆逐されていく。いとも簡単に魔物達はクラッシュやミンチにされ、村の建物が返り血で赤く染る。

 そして俺が今まで聞いたことの無い異常な会話が飛び交い、それらが次々と耳に入ってきた。


「ねぇーねぇーお父さん、蛇の首もいだ!」


「おお、やるじゃないかルイス。これなら、手刀で首を切り落とせる日もそう遠くないな」


「うん!」



「ママー、手首から肩にかけてパックリ切っちゃった」


「あら〜。じゃあ聖水の井戸で洗ってらっしゃい」



「若い子はやっぱ凄いわねぇ。もうあたしは腰が痛くて空中戦は無理だわ」


「その分、俺らは地上から迎撃だ。そして落ちてきたところを袋叩きにしてやる」


「寝る前に湿布貼っとかないとこれダメかもね」


 村中の雰囲気は一変し、そこには魔物たちの断末魔と笑う村人たちの声で溢れていた。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイあかんあかんあかんあかん!! そうだった、一般人とはいってもこの世界じゃ俺よりみんなレベルが高いんだった!!! 俺のレベルが45だけど、だいたい7歳ぐらいのガキんちょが俺のレベルよりも高いんよな!!!!

 しかも今、確認できただけで俺の最強技『エクススラッシュ』以上の火力出してるやつ17人はいたよ!!? それも発動系の技で絞っただけでもこんなに。


 現代人こええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!


「俺らも肩慣らししない?」


「乗ったぜ、ラセル。先頭は任せな」


「私は討伐した魔物の死体を片付けていますね」


 そう言うと3人はバラバラに走り出して散っていった。この村の謎のノリについていけるコイツらはやっぱり異常者だ。


 魔物とこんな普通に戦うなんて俺の時代じゃ考えられなかったよ?

 ……まさかこのスタイルが現代のスタンダードな訳ねぇよな? 女子供まで魔物をほぼ素手やナマクラだけで全部倒すなんて。


 現代っ子達のヘビーモンスター感に軽くドン引きしていると、いつの間にか隣に座っていた村長が俺に話しかけてきた。


「いやぁ、歳とは取りとうないものですな。若い頃はワシもああやって飛び回れたのですが……ところで勇者様もいかがですか?」


「い、いや俺は遠慮しておこう。少し疲れが溜まっていてね」


 こんなイカれた鏖殺大祭で命落としたかねぇよ! 戦闘に対する価値観が宴の余興感覚の奴らと一緒にしないでくれ。

 そう思いながらバタバタと地へ転がっていく魔物の大量死体を俺はただ呆然と眺めていると、ギョッとした表情で村長が俺へ話しかけてきた。


「ゆっ、勇者様! その腰につけた剣、もしや……」


「えっ、剣が何か?」


「申し訳ございません。少々拝見させては頂けないでしょうか?」


 何のことか分からないが、特に何も考えずに国から支給されたこの剣を渡して見せる。俺から剣を受け取った村長は目を丸く見開き、小刻みに震えながら驚愕した。


「これは、間違いない……魔剣『ダーウィン・スレイヤー』!」

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