第6話 人の心はあるんか?

「おお、おおぉ! 今の乗り物はこんなに速いのか!! 竜の背に乗ってた時みたいだ」


 巨大要塞型移送装甲車『ダチョバーダー』。大地を疾駆する船のような乗り物に揺られ、俺は平原を移動していた。風の心地良さに甲板から身を乗り出して満喫していたが、車内にはずっと気になるものがあった。


「あんなに走らせて大丈夫なの?」


 この巨大な荷車は、大型鳥類の『ダチョバ』が走ることでベルトが回り、動力になっているらしい。そのため、車内のエンジンルームなる場所では大量のダチョバ達が動く床の上でひたすら走っていた。


「交代制ですし、一頭辺りが走る時の負荷は地面を走るのと同じ程度しかありません」


 機械技術というものは不思議なものだ。我ながらじじい臭い考えだなと自分の感覚の古さに落ち込んでいた。


「船長、光と魔法の森まで頼むぜ」


「任せときな! ぶっ飛ばせば数日で着くからそれまでくつろいでくれ」


 ガウエンはどうやらこの装甲車の船長とは旧知の仲のようだ。最もこの乗り物を操縦する者が「船長」という名称で良いのかは定かではないが。

 快適な移動でリラックスしていたが、その矢先だった。船員が急いで俺達の元へやって来る。


「船長、大変です! 車体左方向より一体、巨大な魔物が迫ってきます」


 ぎぃええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??


 船員が報告に来たと同時に俺の目にそれは入ってきた。竜より何倍もデカい地を這う怪物がこちらへ向かってきている。獅子の頭を持ち山のような肉壁の胴を持つ怪物は、何本も生えた異様に長い腕でこの装甲車へ迫っていた。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ終わったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!


 内心焦り散らかす俺は迫り来る脅威を前に何も出来なかった。しかし数々の修羅場を潜ってきた者は違う。船長は冷静さを失うことなく、迅速に仲間たちへ指示を出した。


「ダチョバーダー号恒例、迎撃兵器『サクリファイスミサイル』を射出しろォ!!」


「みっ、ミサイルだとッ!?」


 その名は生前聞いたことがある。大砲の何十倍もの威力を誇る『ミサイル』という発射型の爆弾兵器があると。ドワーフや工業のプロフェッショナルが集結してようやく1本作れるか作れないかの必殺兵器。

 まさかこの時代にはもう一般に運用されるまで完成していたのか。流石だ、2000年の時間の流れ。


 感心していると次の瞬間、装甲車の脇から何かが飛び出した。そしてそれは、大砲などの飛び道具の類ではなかった。


「……えっ?」


『クワァ〜!!』


 飛び出したのは10頭ほどのダチョバだった。

 ダチョバは装甲車から飛び出るや、すぐさま目標に向かって走り出していた。彼らの上に乗っている人間はいない。何やら背中にチョッキのようなものを着てはいるが、丸腰同然の普通のダチョバだ。


「あれって、チョッキ着ただけのダチョバじゃね?」


「見ていて下さい。景気良いのが上がりますよ」


 その一言で、俺はとてつもなく嫌な予感がした。


「まっ、まさか──」


 悪寒が走ったその刹那、怪物目掛けて飛び込んで行ったダチョバ達が大爆発した。

 怪物へ一直線に突っ込んで体当たりした時、背中に積んでいた爆薬が一気に爆ぜたのだ。巨大な魔物が断末魔を上げながら爆発に飲まれていく。


 ダチョバ達がしたのは、特攻だったのだ。


 ダチョバぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


「よっしゃあ! 大当たりじゃん!!」


 ラセルや他の船員達は喜び、エドは爆発したその様子を見ておお〜っと声を漏らす。爆風により砂埃が収まると、平原のど真ん中で焼死体となった怪物がそこにはあった。


 お前ら人の心はあるんか!!!!!?????


「いつ見ても爽快だなぁ船長」


「ハッハッハ、もう1発ぶっぱなすかい?」


 砂粒の欠片もねぇじゃねぇか!!!! 笑ってるね? その顔面笑ってるね!!!?


 彼らの異常さに驚愕していたのも束の間、俺は四方八方から今の爆発に引き寄せられた魔物たちが集まってくる光景を目にした。


「おっ、おい! 大量の魔物がこっちに来るぞ!!」


「大丈夫です。彼らは……」


 再び魔物に目を向けると、彼らはこちらへ向かってきてはいなかった。魔物共は爆発で息絶えた怪物の死骸へと群がっていく。


「今倒した魔物とダチョバが爆発したお陰で、肉の焼けた良い匂いが風で流されています。なので彼らの死肉が囮になってくれるのです」


 お前ら人道という言葉はご存知?


 倫理観が圧倒的に欠如したメンツの中、俺は今見た光景に絶句していた。

 だが奇しくもその『道徳心ポイ捨て攻撃』のおかげで、俺達は平原を安全に移動することが適った。この全ては犠牲の上で成り立っている。


 だから俺はお前らのことを忘れないぜ、ダチョバ──



 ……ってか腹減って来たな。何か食べ物を──えっ? ガウエンがダチョバの焼き鳥作ってんの? 食う食う、ちょうだーい。あ、俺の分は少し胡椒多めで。

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