第5話 文明発展やべぇ……

 どうも皆さん元気かな? 勇者だよ。2000年前から来た勇者だよ。この時代じゃレベル上げが出来なくなっちゃった最弱勇者だよ。


 はい終わりでーす!!


「はぁ……」


「兄ちゃん、どうしたんだ? んな深刻そうな顔して」


「いや、何でもない」


 この強過ぎて怖いパーティーメンバー達と絶賛冒険中です。何も考えずにいられるあの時の空間に戻りてぇ。

 そんな憂鬱な気持ちで歩いていると、俺の視界にもふもふとした何かが映り込んできた。何かと思って振り返って見ると、そこには大地を駆け抜ける大型の鳥の姿があった。


「あれはもしかして、ダチョバ!」


 俺はそいつを目にした瞬間、懐かしさで涙が出そうになった。


「ダチョバがいるという事は、もうそろそろカーネッシー平原ですね」


「アイツら、生き残ってたのか。何だか嬉しいなぁ……」


 ダチョバ、それはこのカーネッシー平原一帯に生息する大型の鳥類だ。

 白い羽毛で覆われ、人よりも大きな体と長い足を持つ鳥。その脚は馬よりも速く、古来よりこの平原でダチョバは冒険者達の足として大切に扱われてきた。草食で人懐っこく、可愛い奴らなんだ。


 ──ただコイツらには、致命的な欠点もある。それは、この平原でしか生息がほぼ不可能だってことだ。ダチョバは脚は速いが、そのデカい図体ゆえに飛べないため下手な場所へは行けない。ちょっとした段差でさえ飛んでは越えられないのだ。

 オマケに環境適応能力が極端に低い。暑くても寒くても死ぬ。標高が高くても低くてもストレスで死ぬ。強い魔力を発する地域だと死ぬ。転倒した拍子に頭をぶつけて死ぬ。

 だから気候条件が良く、速ければ大抵の天敵から逃げられる平坦なこの平原に生息しているんだ。輸送するにもストレスになって死んじまうから、他の地域じゃ使えねえ。

 ……と、まあこんなデメリットはあるが、平原で使い捨て出来る乗り物と考えれば上等なもんだ。


 それにダチョバの何が良いって、コイツらの肉がめっちゃ美味いってことだ。市場で出回ってる鶏肉よりずっとボリューミーで美味い。乗り終わるとだいたいの冒険者は乗ったダチョバを食う。ダチョバの命に感謝し、この最高の肉を味わうんだ。

 前世の仲間達とも、ダチョバの肉を堪能したものさ。ダチョバのことを考えていたら、段々腹も空いてきた。


「よっしゃ、それじゃあ人数分のダチョバを捕まえて来るか! 久々に乗ろっと」


「あ、エーデルハルト殿。その必要はありません」


「え?」


「もっと良い乗り物があります」


「ダチョバより良い乗り物……?」


「はい、あれです」


 エドが指さした先を見て、俺は仰天した。そこには山のように巨大な鉄の荷車があった。いや、船だろうか? 城のようにも見える。

 馬車のような姿だが、要塞都市のように金属で覆われて何台もの大砲が備え付けやれている。その足は車輪でも馬のようでもなく、長いベルトのようなものが左右に一つづつあるだけ。

 何より驚いたのは、それは生物のように自律して動いていたことだ。かつて見た竜や『クジラ』という化け物を思わせる存在感。その巨大な物体に俺は萎縮した。


「なんっ、だ……このデカい金属の塊は!」


「これは巨大要塞型移送装甲車『ダチョバーダー』でございます」


「えっ、今ってこんな巨大な荷車みたいなのが自分で動いてんの……? えっ、中でドラゴンでも歩いて動かしてんの?」


 なんでこんな超重量が動けるのかが不思議で仕方ない。俺の時代のドワーフのおっさん達は泣くだろうな……こんな化け物みたいな人工物見ちゃったら。おっさん達、ハンドメイドの専門家みたいなもんだもん。


「う〜ん、少し説明しづらいですねぇ」


 エドが首を傾げて俺への説明を考えてくれていると、横からガウエンが代わりにこの馬鹿でかい鉄の塊の詳細を話してきた。


「簡単に言えば、中で大量のダチョバが走ってんのさ」


「ダチョバだけでこれを動かすのか!?」


「それとはちょっと違ぇな。ダチョバは中に設置されたベルトの上で走る。ベルトは回すと電気が発生する仕組みになってて、発生した電気を使って車輪を回してんだ」


 説明に追いつけないながら、俺はガウエンの言葉の中で気になる単語を見つけた。俺は恐る恐るガウエン達に尋ねた。


「すすす、すまないちょっと待ってくれ! ……雷ってでも生み出せるのか?」


 雷、それは空高くに存在する元素の1つ。神や一部の飛竜、もしくは雷魔法を習得した者にしか操ることの出来ない神聖で強大な力。そんなものがからくりの力で生み出すことが出来るなんて、俺には考えられなかった。


「全然出来るよ。そっか、エーデルハルトさんは機械産業が発展する前の時代の人だもんね」


「こんなものまで作れる文明になったのか……」


 文明が発展したことは喜ばしい。だが何だろう、この時代に置いていかれたことへの寂しさは……


「さあ行きましょう。この平原を突っ切れれば、魔王城へかなり近道で行くことができます!」


 俺は放心状態で言われるがままに装甲車なる鉄の塊に乗り込む。

 この世界って俺が理解するまでの時間を与えないらしいね♪ 控えめに言って鬼畜生♡

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