第4話 俺は物にも追い越された
えー、2000年前から復活した勇者の魔王討伐旅1日目にご報告です。死です。
ふざけんなああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
草原も景色が少し変わり、土が混じり出して荒野が近付いてきたかと思っていた矢先に魔物が現れた。しかしそれは生易しいそこらの雑魚ではない。
突然真っ暗になったかと思ったら、巨大な怪物の俺達の体をすっぽりと覆っていたのだ。
屈強な翼で風を操り、立ちはだかったのは巨竜。寝転がるだけで街の一つなど消し飛んでしまうほどの巨躯が姿を現す。青い鱗を纏うそのドラゴンは、老竜ガリレウスに次ぐデカさだ。
「おいおいエドぉ、どうすんだよこれぇ」
「レベル220……少し手厳しいですが、連携を取れば問題はないでしょう」
「旅の最終目的は魔王討伐なんだ。気ィ引き締めるにゃ丁度だろう」
人の形をした化け物共にはちょっと黙っててもろて、俺は即刻とんずらする。あれだよ、ことわざの『命大事に』ってやつだ。
「ふっ、造作もない」
また虚勢張っちまったあああああああああああああごめんなさい逃げさせて謝るからおねがぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!
「エーデルハルトの兄ちゃんに見せてやろうぜ。この時代の底力をよぉ!」
丁重にお断りさせて頂きます。
と、そんな事を言う勇気なんて俺にある筈もなく、化け物3人組は戦闘態勢に入る。ちなみに俺は気配を殺す準備だけは整った。
「先に攻撃させてもらうぜ」
先に仕掛けたのはガウエンだった。奴は何の躊躇いもなく飛び出すと、ベルトで背負った無数の武器の中から槍を引き抜いて構える。
竜が俺達へ向け炎のブレスを吐こうとしたその刹那。ガウエンは槍を地面に叩きつけて飛び上がり、一気に間合いを詰めた。
「プロトキア流槍法──」
ガウエンは槍ごと馬車の車輪が如く回転し、竜の腹から喉にかけて駆け上がった。高速回転する槍の刃先は硬い鱗の奥深くの肉まで斬り裂き、ブレスになりかけた炎を纏って熱を帯びる。
「緋影車輪ッ!」
竜は仰け反るように大きく体勢を崩した。筋骨隆々の肉体からは想像出来ない速さと身のこなしでガウエンは容赦なく追撃する。
「古武闘法『門抜骨』」
ガウエンはS字に仰け反る竜の背後を目にも止まらぬ速さで取っていた。彼は関節部を甲冑で武装している。恐ろしく硬いであろう奴の肘がドラゴンの脊椎へと叩き込まれ、竜は聞くに絶えない苦悶の叫びを上げた。
まっじかよ……こんだけデカい竜がもう地面に降りて倒れかかってるぞ。てか多分、今ので下半身もう死んだだろ。脊髄やっちゃってるよ。
これヤバい、明らかにヤバい、絶対ヤバい。こんなの規格外過ぎるって。速攻じゃんか。
2000年前では有り得ないレベルの戦闘に度肝を抜かれていると、ガウエンはこちらへ竜の状態を報告する。
「動きは封じたぜ、後は体力を削るだけだ」
「あはは〜、俺も俺も〜!」
そう言うとラセルは満面の笑みを浮かべて竜に突っ込んでいった。武器や武術の構えも何もないまま走っていくのは、自殺行為に等しいことだ。普通の神経じゃない。
咄嗟に俺が止めに行こうとした次の瞬間には、竜が鞭のように前脚をしならせてラセルへ拳を振る。
「スロット『9ナイン』」
ドラゴンの腕が飛んでくるコンマ1秒前、ラセルは右腕を縦に構えてぼそりと呟く。
「
人の大きさに匹敵する竜の鋭い漆黒の爪が凄まじい速度に達して彼に直撃した。軍の大砲などとは比較にならないほどの威力が人体へ衝突する。
だがそれをラセルは片腕だけで凌いだ。
人の膂力を遥かに上回る竜の拳を受けても、ラセルはビクともしなかった。攻撃で生じた衝撃波だけが彼の体を突き抜けるようにして流される。殴りの反動で隙が生じるとすかさず、ラセルは竜の懐に飛び込んで右の拳を叩き込んだ。
「『
拳は硬い竜の鱗の深くまで到達するほどめり込み、金属の城門を破壊したような音が響き渡る。笑みを浮かべた小さな怪物は拳を振り抜いて宙を舞った。
「ハハッ、
ラセルが着地する頃には竜は体勢を崩し、吐血して弱ってすらいた。そこへ再びガウエンが熟練の武術による追撃で追い込みをかけ、本格的に竜の命を奪いにかかる。
「これは、私の出番はなさそうですね」
「そそっ、そうだな……良かった良か──」
「ですのでエーデルハルト殿、トドメは貴方様に」
「おっ、俺か!?」
エドは興奮気味に俺へ戦闘を要求してくる。
「是非とも! 2000年の時を経て蘇りしその御業を、どうか拝見させて頂きたい」
「そっ、そうか。では披露しようか」
ここで出来ないとか言ったら絶対終わるぅ……断れねぇ。
でも大丈夫、以前に使ってた技は使えるはずだ。数々の強敵を葬ってきた我が剣技で、その巨躯を沈めてくれよう!
「食らえい飛竜! エクススラッシュ──」
渾身の一太刀を放ったと思ったその時だった。突然、手の中から重量が消えた。その感覚に違和感を抱いていると、俺の目に宙を舞う剣の姿が飛び込んできた。
「あっ」
しまったああああああああああああすっぽ抜けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
うううううそだろ!? ありえない!! 勇者の力は剣技を司る。まともに握れないなんてことは──あ、あった。1個だけ例外が。
上等な武器って適正レベルを超えないと確か上手く握れないんだ。
この剣、俺のレベルじゃ扱えないやつだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
剣は完全に制御を失い、己の重量だけを頼りに空中を動いていた。そして刃先は竜の眉間へ──
「あっ、刺さった」
と、ラセルが声を漏らした。
竜は眉間の奥深くまで剣が刺さり、一瞬ぴくんと反応した後にあっさりと事切れる。超重量の体躯が地面に倒れ、眉間を貫いた剣はスッと抜けて転がるように俺の足元まで戻ってきた。
「エーデルハルトさんすっげぇ! 弱ってたとはいえ一撃で竜倒しちまったよ」
「剣を投擲する技は一応習得したが、俺でもあんなに綺麗にいくことはねぇぜ。流石だな、兄ちゃん」
「お見事でしたエーデルハルト殿。伝説の勇者に相応しき一撃でした」
目を輝かせて仲間たちは俺の事を見つめて来たが、俺は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「あ、ありがとうな。ハハ……」
違うんだ、今のは俺じゃない。滑ったとはいえ、確かに投げたのは俺だ。ただ今の攻撃は予測した訳でも、たまたま当たった訳でもない。剣が自ら飛んでいったんだ。その挙動の不審さと握った時の魔力の感覚で俺は察しが付いていた。
これ、多分魔剣なんだわ。剣の中に自我が芽生えてるタイプの上等な武器なんだわ。
しかも今の性能と斬れ味、おそらくこのメンツと同等レベルの力を持ってやがる。俺はこの時代でついに、物にまでレベルを追い越されちまったよ……
「ん? なんかステータス画面に──」
俺の鑑定スキルは自身のレベルや状態異常を俺にしか見えない『蒼の窓』に表示することも出来る。
その『蒼の窓』が俺の目の前で突然展開された。嫌な予感がして俺は恐る恐る窓に記された記述を読む。
『レベルを上げられません。現バージョンのシステムではこちらに対応していません』
ここに来て更なる絶望。この時代じゃ俺、レベルが上げられないようです。
「フゥッ……!!」
ふざけんじゃねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
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