第3話 二千年の間に飛んでもねぇことになってた件

 2000年後に召喚され、世界のレベルインフレ具合に絶望し、災害級の強さの奴らとパーティー組まされ、何やかんやあって数日が過ぎた。

 国から装備や道具を渡してもらって、最低限の身支度を整えさせられて出発することになった。


 そして今は王都を上げて凱旋パレードみたいなのの真っ最中です。

 パレードでここまで泣き喚きたいと思ったことねぇよ。デザイア山脈でエンペラードラゴンに殺されかけた時の方がまだ生きるモチベあったわ。


「勇者様ー! がんばって〜」


「我がルインハッド国の光よ」


「ご武運をお祈り申し上げます」


 貴族も平民も関係なく俺達の凱旋に歓声を上げている。隣にいる仲間たちも手を振って喜んでいた。

 貴族と平民は時代が経って、過去のような劣悪な関係性ではなくなった様子を見て俺は少し喜ばしく思った。だが同時に、どんな奴であっても俺をぶち殺せると考えたら腰が抜けそうだ。


「勇者とその一行よ、必ずや魔王を打ち倒してくれ!!」


 知ったことかバーカという言葉を必死に飲み込み、俺は剣を掲げて王と民衆に向かって微笑みながら王都の門を潜る。


 ……待ってキツい、この剣おっも!? 何これ、オリハルコンより重いんだけど!


 あわわ、常に笑顔のヤバそうな人ラセルにぶつかるゥ!!


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 王都の大門さえ見えなくなった頃、俺達は草原の上に敷かれた舗装路を歩いていた。少しは便利な時代になったものだ。

 4人パーティーで出発したが、俺らは二手に固まっていた。真面目そうなエドと荒々しいガウエンは羊皮紙を睨みながら2人でブツブツと話している。


 一方俺は、いかにも有力貴族っぽいレベル207エドと普通に怖いレベル189ガウエンから離れたくて、鼻歌を歌ってるレベル146ラセルの後ろを歩いてる。

 ラセルは明らかに常人じゃない完全にイッちゃってる目はしているものの、陽気で気さくな奴だ。消去法でこっち側に来た。


 遊び人、万歳。でも結局、全員怖いけどね。


 万が一俺がこの世界じゃポンコツなよわよわ勇者って事がバレたら、エドは社会的に俺を殺しそうだし、ガウエンは切れて俺殴りそうだし、ラセルは普通にエグい拷問してきそうだし。

 ひっそりコツコツとレベル上げながら、戦闘はコイツらに任せてやり過ごさないと。俺ホントに弱いから死んじゃうわ。


「エーデルハルトさんって、それ名前なの? 苗字なの?」


 物理的にも距離が近かったラセルは、これといった前置きもなく俺に声をかけてきた。


「ああ、エーデルハルトというのは俺の名だ。俺は元々平民の出身でな、故郷が小さな村だったこともあり、姓はない」


「へぇー、じゃあ昔の王様はエーデルハルトさんの名前を使ったのかぁ」


「えっ、使ったとは?」


「今の王家って苗字がエーデルハルトなんすよ。なんたってエーデルハルトさんの子孫ですから」


 はああああああああああああああああああああああ!!? え、あのオッサン俺の子孫だったの!?

 うっそぉ、あんな今の俺より年上のおっさんが子孫なの? 嫌だ、なんか嫌だ! 複雑!!


 てかそれって──


「な、なぁラセル。その、俺と1番近い子孫、つまり俺の子というのは、誰が母親かとか分かっているか?」


 恐る恐る尋ねると、ラセルは首を傾げて上を見ながら返答する。


「なんかエーデルハルトさんの子孫とか家系だけ、なんか記録が曖昧なんだよ。勇者の子供って人が複数人いたらしいけど、真相不明で」


 ラセルに続いて、隣にいたエドとガウエンが語り出した。


「ですが元勇者のパーティーメンバーと名乗った女性は証拠が多く、結果的にその方の子が我が国の王となったらしいです」


「他の3人ぐらいは、地方の有力貴族として今も残ってるぜ。あんたにとっちゃ、名を利用されて不愉快かもしれねぇがな」


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! やっちまったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!


 そいつら多分、全員俺の子だわ。間違いなく。


 元勇者のパーティーメンバーって、それロザリアだわ。俺の幼馴染みで、冒険の前半まで一緒に旅してた魔法使い。

 昔から好きだったから、途中で付き合いだしてハッスルしちゃいました。そして安全のためにロザリアには王都で待っててもらってたんだわ。必ず帰るって約束して。

 まあ結局約束は果たせなかったけどな。


 そして他3人だけど……ごめんなさい、思いっきり不貞行為しちゃってました。

 確証はなかったんだけど、何回か酒の勢いでやらかしたかもと思ったことはあったんだ。抱いた記憶はないんだけど、匂わせてきた女が何人かいたな。


 えっと確か牙獣族の最強女戦士、魔王城に1番近い村の宿屋の娘、偶然助けた異国の王女……ヤバ、俺クズじゃん。ロザリアさんマジでごめんなさいすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!


 そして俺の子供たち、ごめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁ!! 父ちゃんこんなクズでごめん!!!


「おうお前ら。話もそこそこにして、旅の進路をまず決めようぜ」


 ガウエン、ありがとう。お前が話を変えてくれたお陰でメンタル少しは保てた。


 ガウエンが広げた地図を覗き込むと、知らない地名が結構増えていた。2000年も経ったし当然か。


「国や村はともかく、俺の時代になかった山とか湖結構あるものだな」


「度々戦争で禁忌魔法が使われたり、魔物や自然災害のせいで変わっちゃったんすよ。地脈関係のとこは特にね」


 しばらく地図を見ていると、見覚えのある名前が目に止まった。


「ん? ガリレウスの寝床……これってまさか、老竜ガリレウスのことか?」


「エーデルハルトさん、ガリレウスを知ってるんすか!?」


「当然だ。ガリレウスはかつての盟友で、遠くまで飛んで行く時は世話になったものだ」


 ガリレウスとの出会いは、確か7つ虹の秘境を越えた頃だったな。


 魔王討伐の為に協力してくれたし、海とか空とか移動する時は途中から背中乗せてくれたし、アイツ魔物嫌いだったから魔物の生息地帯を空から焼き払ってくれたんだよな。ちょ〜優しいやつだった。


 竜の寿命ってかなり長いし、アイツは竜の中でも貴重で強い古龍種だ。まだまだガリレウスも現役だろ。そういえば前世でもしばらくの間は奴と会っていなかったっけ。久しぶりに会って昔のことを語り合いてぇな。


「あー、エーデルハルトさん。言いづらいんすが、ガリレウスさんはもう死んじゃってますよ」


 盟友マブダチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?


 えっ、アイツ死んだの? 魔王軍でさえ討伐諦めたガリレウスが!? 


「ガリレウスが死んだなんて、何故だ!? アイツはそこらの人間や魔物に倒されるようなドラゴンじゃなかったぞ」


「ガリレウスの死因は、心臓発作っす。流石に寿命だったらいしんで」


 普通に寿命だったァァァァァァァ!! あの竜が寿命で死んだの超ショックなんだけど!


 いやでも、ショックだけど寿命で逝ったんならまだ良かったかもしれねぇな。殺されて死ぬよりは安らかだし。


「ただ悲劇はこれだけではなく……」


「ひっ、悲劇って?」


 狼狽えている俺の横でエドは心苦しいそうな顔を浮かべていた。何か嫌な予感がする。


「彼の心臓発作は飛行中に起きたらしく、空中で死んでしまったガリレウスは勇者様の村へと墜落してしまったのです」


 故郷ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!?


「ガリレウスは歴史上でも稀に見る巨龍。その巨体ゆえに、勇者様の村は一瞬にして押し潰されてしまいました」


 ピンポイントで落ちちゃったのかよ……


「そそそっ、それ、いつぐらいの話?」


「ごっ、500年ほど前の話です! ですので少なくとも勇者様のご友人や近しい親戚の方は犠牲になっていません」


「そうだけど、そうだけど……」


 一夜の過ち×3が2000年経った今でも影響してドえらい家系になってるわ、懐かしの故郷とダチは消えてるわ。昨日から感情が追い付かねぇよ。

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