第2話 魔王消し飛ばす勢いなんだけど

「いざ参れ、王国の戦士達よ!」


 開かれた扉から3人の男達が歩いてくる。空気が歪んで見えるほど、その者らからは巨龍や大魔獣にも似た猛々しい気配が溢れ出ていた。


 待ってコイツら、明らかに生命としての格が違うんだけど。ステータス見なくても肌で分かるぐらい強ぇんだけど!


「おっほぉ、その人が伝説の勇者? すっげぇ〜。ねぇねぇ、あんた名前は?」


「見るからに優男ってツラだな。あんた前世でちゃんと食ってたのか?」


「貴様ら、王の御前で粗相をするな」


 明らかに発言からも強キャラ感あって怖いんだがどうしてくれる。


 緊張に打ち勝てるようになる『鋼の精神』のスキル獲得してなかったら、今頃足の骨折れてたよ。震えでな。


「エーデルハルト、こやつらが我が国最強の戦士じゃ」


 王は参上した彼らを自慢げに見た後、戦士達の代わりに俺へ紹介を始めた。


「王国随一の自由人。『天命の遊人』ラセル」


「よっすよっす! 勇者さん、カジノ好きっすか?」


「闘技場無敗の漢。『武鉄獅子』ガウエン」


「またの名を武芸百般のガウエンだ。お手柔らかに頼むぜ、兄ちゃん」


「そして『狂酔する暴風』エドじゃ」


「エド・クリスタリアです。どうぞよろしく」


 え〜っと言われた順にいくと……なんか落ち着き無くてずっと笑ってる年下のやべぇやつ。オレンジの髪で格闘好きそうな筋肉ゴリラ。名門貴族っぽいけど異名が一番ヤバそうな細男。


 で、レベルが146と189に207か……バカじゃねぇの!? 

 レベルのインフレどうなってんだよ!! 教会! 後で絶対問い詰めに行くからな。そしてお告げ通じて一言神に文句言わせやがれ。2000年前の魔王だったらコイツらの誰か1人だけで消し飛ばせたぞ。


 というかコイツらを制御出来る実力も裁量も俺にはねぇよ。幼馴染みの男友達同士で俺は前世のパーティー組んでたんだ。同じぐらいのレベルから一緒に鍛えて絆深めたんだ。

 リーダーとしての気質が本来は皆無なのに、何が悲しくていかにもヤバそうなメンツと魔王退治に行かにゃならないんだふざけんな。


「俺はエーデルハルトだ。みんな、よろしくな」


 ちくしょぉぉぉぉぉぉこの呪われた勇者体質めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


「よ、ろ、し、くっ!」


「おうよ。世話になるぜ」


「共に世界の平和を取り戻そう」


 絶対バレる。俺が圧倒的に弱いこと、絶対すぐバレる。もう嫌だ、前世に戻って宿屋の姉ちゃん達と遊んでたい。

 ただこの場所でうだうだ言ってても仕方がねぇ。とりあえずこのままじゃ埒が明かないし、少し前向きに行くとするか。


「そういえばあんたら、回復魔法使えるやつかポーションあるやついる? ないならそれでも良い、教会に取りに行くからな」


 俺がその言葉を発した瞬間、場が異様なまでに静まり返った。


 え、どうしたの? なんか俺、変なこと言っちゃった?


「え、エーデルハルト殿。そのだな……」


 エドとかいう細男は気まずそうな表情で俺の方へ話しかけた。



「何百年前にもう教会は滅んだ」


「……うぇ?」


 はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 あまりの衝撃に驚愕していると、国王が補足説明を入れる。


「回復や死者蘇生、勇者らを呼び戻せる教会を脅威と感じた魔王軍に徹底的に壊されていったんじゃ」

 

「そそっ、そんな! 再建はされなかったのですか?」


「もうこれ以上は赤字がのぉ……それに今どきみんな教会なんていかないし、神の教え無視してるし」


 それ大丈夫なの!? 俺の時代、教会って政府機関の一部になってたぐらいだったのに!

 てかこの時代の人間って神の教え無視してるん!? 死の恐怖から逃れるために神に縋るために教会ってあったのに?


「また同様の理由でセーブポイントも破壊され尽くした」


 ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇマジでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?


 セーブポイントって、あの万能のセーブポイントのこと? 

 パーティー全員が行動不能になった時に強制リターン出来たり、蘇生した死者に記憶継承させたり、体力回復できるあのセーブポイントが!?


「慣れぬ内は苦労するかもしれんが、かの伝説の勇者とあろう者であればどうってことないじゃろう」


 終わった……何回俺がセーブポイント使ったと思ってんだ。


「そ、そうですよ! それに私も下半身か腕の蘇生程度なら可能です」


 ここまで来たら流石に驚かねぇよ。ただその嬉しいニュースが直前の絶望にかき消されてるから、テンションだだ下がりだわ。


 つまり俺は、最弱の状態でありながら絶対に死んだらいけないインフレ世界に放り出されました。

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