第111話 これで六人目
「あいつ本当に俺たちと同じ一年なのか!? どう考えても化け物だろ!」
懸命に逃走しながらノルエは叫んでいた。
F組唯一の出場者である少年。
当初はたった一人だと侮っていたが、もはやそんな考えは完全に消し飛んでいる。
「そういえば、ナインスターズの一人を、一年の誰かが倒したって噂になっていた……っ! あいつに違いない! それに少し前、色んな部活を荒らし回ってる一年の編入生がいるって話! あれもどう考えたって同一人物だろ!」
幸い背後から追いかけてくる気配はない。
残った全員がバラバラな方向に逃げたため、他のメンバーのところに向かったのだろう。
と、そこでノルエはとんでもない光景を目にした。
「こ、これはっ……」
彼が行く方向に、トロルの死体が大量に転がっていたのである。
「何なんだよっ!? どうなってんだ!? いや、適当に走ってきたけど、考えてみたらこの方向、F組のスタート地点の……ってことは……これもあの化け物がっ!?」
そうとしか考えられなかった。
ざっと見渡しただけで、五、六体は転がっている。
一年生が単身でトロルを撃破すること自体、本来はあり得ないことではある。
「間違いない! 最初に現れたときっ……あのトロルも、あいつがヤったんだ……っ! トロルの首を一瞬で刎ね飛ばすとか、もはや人間業じゃない!」
そんな相手とやり合って、勝ち目などあるはずがない。
逃げて正解だったと、先ほどの自分の判断を称賛するノルエ。
「……この討伐数だ。F組がこの競技で一位になるのはほぼ確定……となると、俺たちがどうにかこの競技で二位にならないと、逆転されてしまう……だが四人全員が逃げ延びたとして、再び合流し、トロルを倒していくなんて、さすがにハードルが高すぎ――」
直進ルートには建造物があり、それを迂回しようと右に曲がった瞬間だった。
「これで六人目。全員だね」
「~~~~~~っ!?」
そこに化け物が待ち構えていた。
「い、いつの間に先回りして……しかも、六人目だと……? まさか、俺以外すでに……」
「うん。倒したよ」
「この短期間で、バラバラに逃げた者たちを、全員……は、はははは……」
ノルエはもはや笑うしかなかった。
そして両手を上げながら敗北を宣言するのだった。
「…………降参、だ」
一年生のクラス対抗戦、その最後の競技が始まった直後から、会場は完全に静まり返ってしまっていた。
あのやかましい実況ですら、あんぐりと口を開けて沈黙している。
我に返ったのか、ようやく実況が声を発したのは、エデルとC組のプレイヤーたちが激突したときだった。
「え、F組の、エデルくん、なんと、開始から怒涛の勢いでトロルを次々と瞬殺……あっという間に、フィールドの真反対に到達し……そして今また、目の前にいたトロルの首を、一瞬で刎ね飛ばしてしまいました……」
声を震わせながら、実況の教員が続ける。
「C組の六人と、たった一人で対峙していますが……一人、また一人と、C組のプレイヤーがやられていきます……う、動きが速すぎて、正直、わたくしもほとんど追い切れておりません……恐らく、生徒たちには瞬間移動しているように見えていることでしょう……。あっと、残ったC組のプレイヤーたちが、敵わないとみて逃げ出しました……っ! これは懸命な判断でしょう……っ! わたくしがあの場にいたとしても、確実に同じ判断をしています……っ! し、しかし、エデルくん、逃げた相手に瞬時に追いつき、一撃で意識を刈り取ってしまう……っ! さらに別のプレイヤーを追いかけますがっ……まるで完璧に居場所を把握しているかのように、迷うことなく一直線……っ! 懸命に逃げるC組のプレイヤーたちが、成す術なくやられていきます……っ! こ、これは、もはや見ていてトラウマになるレベルの恐怖シーンではないでしょうか……っ?」
そうしてエデルがC組を全滅させると、これで優勝クラスがほぼ確定した。
すでにエデルは十体を超えるトロルを撃破しており、C組は一体のみ。
A組が二体を倒したため、C組の三位以下が決定したからだ。
もちろんF組の撃破数を上回るクラスが出る可能性はあるが……それはゼロに等しいと誰もが思うのだった。
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