第100話 全然ピンチじゃないっすね
「すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」
実況の謝罪の声が響く中、ガイザーの戦いを見ながら、シャルティアはひとまず安堵の息を吐き出していた。
「やはり、私の目に狂いはなかったようです。大将の彼一人を残すというのは、確かに大きな賭けではありましたが……きっと今の彼ならば不可能ではないと思っていました。この短期間で、彼は信じられないほど成長していましたから」
噂によれば、編入生のエデルに弟子入りし、猛特訓をしているという。
きっとその成果だろう。
残りの八人の方も順調だった。
すでにF組の大将とその護衛二人と交戦中だが、人数の有利もあって圧倒している。
「C組の大将は、B組とD組、両方に攻め込まれて苦戦しているようですし、このまま一気に差を詰めるチャンスです」
だがシャルティアが好機と判断する一方で、ラーナは余裕の笑みを浮かべていた。
「ふふっ、あなたのことだから、ここで賭けに出てくることは分かっていたわぁ、シャルティア」
三つ目の競技が始まるとき、F組が九人ものプレイヤーを投入してきたことから、ラーナは自分たちの勝利を確信していた。
この種目の勝利ではない。
対抗戦そのものの勝利だ。
「対抗戦であたしのクラスに勝とうと思ったら、この種目は絶対に落とせないわよねぇ? でも、そうはさせないわぁ」
ここでポイント獲得を阻止してしまえば、三種目が終わってゼロポイント。
残る九人で二種目を戦うこととなるため、もはやF組に勝ち目はない。
それが分かっているラーナは、この競技に自分のクラスの精鋭をつぎ込んで、一気にF組を叩く作戦を立てていたのだ。
「おっと! A組の三人を倒したガイザーくんのもとに、すぐさま新たな敵がっ! こ、これは……なんと、C組ですっ! もっともF組とは距離があるC組が、こんなところまでっ! しかも人数は四人っ! これはここで確実にF組を潰そうという、強い意図が感じられる動きですっ!」
実況の驚きの声が響く。
「しかもB組とD組、両方から攻め込まれているC組の大将は、護衛一人ながら、まだ粘っています! いや、むしろ優位に立ち回ってすらいるっ!? この大将、凄まじい俊敏さで、先ほどから猛攻を躱して躱して躱しまくっているのだぁぁぁっ! 護衛は防御力に秀でた盾役ですし、これはなかなかしぶとく生き残りそうですっ! C組、頑張れっ! ラーナ先生のために……っ!」
計画通りの展開に、ラーナは大声で笑った。
「あははははっ! どうやらF組の大将の方が先にくたばりそうねぇっ!」
「まさか、本当に来たっすか。C組は一番遠い場所っすよ?」
「はっ、言っただろうがよ。お前らF組をぶっ潰すように言われてるってな」
フィールドの方では、三人の仲間を引き連れて姿を見せたフィンクスに、ガイザーが驚いていた。
「にしても、お前一人だけとはなァ。運良くまだどこにも狙われてねぇようでよかったぜ。俺たちの作戦が無駄になっちまうところだった」
もちろんフィンクスは、ガイザーがすでにA組の刺客を返り討ちにしたことを知らない。
「本当ならじっくりボコボコしてやりてぇところだが、こっちも大将がいつやられるか分からねぇからな。とっとと片付けさせてもらうぜ!」
槍を構え、先陣を切って襲い掛かってくるフィンクス。
仲間たちがすぐそれに続く。
「(フィンクスは槍使い。後の三人はそれぞれ、剣士に魔法使いにシーフってとこっすか)」
厄介なのはやはりフィンクスだろうと、ガイザーは考える。
槍の名手であるこの男は、そう簡単にこちらを、剣で攻撃できる範囲まで飛び込ませはしない。
しかし手間取っていては、魔法使いの攻撃魔法が飛んでくるだろうし、背後からシーフに狙われてしまう。
「(といっても、あのダンジョンでの訓練に比べたら、全然ピンチじゃないっすね)」
エデルが強化させたことで、恐ろしい難易度と化したコボルトのダンジョン。
人間のように多彩な攻撃を仕掛けてくるようになった無数のコボルトが、次々と襲いかかってきたあの訓練のことを考えると、たった四人を相手取ることなど、どうということはないなと思ってしまうガイザーだった。
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