第101話 いったん退避だ

「はぁぁぁぁっ!」


 フィンクスが次々と槍を突き出す。

 しかしガイザーはそれを易々と回避しながら、さらに横から飛びかかってきた敵の剣を受け流した。


「ファイアランスっ!」


 そこへ空から迫りくる炎の槍。

 だが直線的に飛んでくるだけの魔法など、避けるのは簡単だ。


 素早く飛び退って躱すと同時、ガイザーはハッと殺気を感じ取った。


「シュッ!」

「っと、危ないっす!」

「っ……今のを、躱すだと……? 馬鹿な、おれの隠密は完ぺきだったはず……っ!」


 背後からナイフを閃かせ、ガイザーを狙ったのは敵のシーフ。

 寸前で接近を察知したガイザーは、ぎりぎりのところでそれを回避してみせたのである。


「ど、どうなってやがる!? 俺たちが四人がかりで、一撃も当てれねぇなんて……っ!」


 顔を真っ赤にしながら怒鳴ったのはフィンクスだ。


 彼は当初、ガイザー一人を仕留めるなど三十秒もあれば十分だと見積もっていた。

 にもかかわらず、先ほどから全力で攻撃を仕掛けているというのに、まるで倒せる気配がない。


 一方のガイザーは、この状況に確信を抱いていた。


「どうやら、本当に強くなりすぎてしまったみたいっすね……。まぁ、あれだけ死線を潜ってきたんすから、当然かもしれないっすけど」


 相手は四人がかりで、しかもそれなりに連携して攻めてきているというのに、動きが止まって見えてしまうのだ。


「じゃあ、そろそろこっちからも攻めてみるっすよ」


 最低限、負けなければ十分だったが、防戦を続ける方がリスクが高いと判断し、ガイザーは攻めに転じると宣言。

 と同時、剣を構えながら闘気を開放した。


「「「~~~~~~~~っ!?」」」


 フィンクスたちが気圧されたように後退る。


「な、な、な……馬鹿な……」

「これほどの闘気……あいつ、本当に一年生なのかっ!?」

「じょ、冗談じゃねぇぞ……」


 彼らの反応に、ガイザーは「あれ?」と首を傾げた。


「何でそんなに驚いてるっすか? まだ全然、本気じゃないっすけど……」


 まるでエデルのようなことを言うガイザーだった。

 さらに彼はその闘気を刀身に纏わせていく。


「まさか、それは……っ!?」

闘気剣オーラブレードっす。兄上が得意としてたやつっすけど、最近ようやくオレも使えるようになったっすよ」

「そ、そんな当たり前のように言うんじゃねぇよ! 一流にしかできねぇ技だぞっ!? 一体どうやって覚えた!?」

「どうやってって……気づいたらできてただけっすけど」

「気づいたらだと……?」


 意識して練習したわけではなく、訓練中の極限状態で、無意識のうちにできるようになっていたのだ。


「て、天才か、お前……?」

「いやいや、全然そんなんじゃないっすよ! むしろめちゃくちゃ追い込まれて頑張ったんすから!」


 むしろ天才というのは、兄貴のような人間を言うのだろうと思うガイザーである。


「(いや、兄貴は兄貴で、魔界での話とか聞いてると、才能だけじゃ片づけられないっすけど……)」


 内心で苦笑しつつ、ガイザーは地面を蹴った。


「は、速っ……」


 ほぼ一足飛びでフィンクスとの距離を詰める。

 彼はガイザーの速度に対応できていない。


「くっ!」


 咄嗟に槍の柄で、斬撃を受け止めようとしたフィンクスだったが。


 ザンッ!!


「……は?」


 その柄ごとガイザーの剣が切断。

 さらに勢いそのままに、フィンクスの身体を斬り割いた。


「があああああっ!?」


 鎧を身に着けていても、どうやら内部の肉体にまで切っ先が届いてしまったらしい。

 地面に血を垂らしながら、ふらふらとよろめくフィンクス。


「くっ……馬鹿、な……槍ごと、斬り割くなんて……あ、あり得ない……」


 がくりと膝をつく。


 そしてダメージが一定量を超えたらしく、それを通知する音が鳴り始めた。

 強制退場だ。


「あれ? もう終わりっすか……」


 あまりの呆気なさに拍子抜けしてしまうガイザー。


 だが相手はフィンクスだけではない。

 まだ他に三人も残っているのだ。


 と思っていると、突然、彼らが踵を返した。


「いったん退避だぁぁぁっ!」

「「異議なしっ!」」


 そのまま全速力で逃げていってしまう。


「ちょっ、ちょっと待つっす! 逃げるとかないっすよ! って、危なっ!? この範囲から出ちゃダメだったっす!?」


 追いかけようとしたガイザーだったが、危うく所定の範囲から出そうになって、慌てて引き返す。


「おーいっ! 戻ってくるっすぅぅぅっ!」


 大声で必死に訴えるガイザーだったが、結局、彼らが戻ってくることはなかった。


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