第99話 大将だけを残すなんて

「さあ、誰でもかかって来るがいいっす!」


 観客席も大いにざわつく中、一人その場に残されたガイザーは、不敵な笑みを浮かべていた。

 大将に選ばれた彼は、決められた範囲から出ることはできないのだ。


 大将を撃破するのがこの競技の目的で、他のクラスがいつ彼を狙って襲い掛かってくるか分からない。

 しかも一定以上のダメージを受けてしまうと、強制退場となり、その時点でクラスもこの競技で敗退となってしまう。


「めちゃくちゃ重要っすね!」


 残る八人は、敵の大将撃破には、人数の大きなアドバンテージがある。

 ガイザーが倒されさえしなければ、この競技で一位になれる可能性は高い。


 つまり、勝敗は彼にかかっていると言っても過言ではなかった。


 事前の作戦会議で、大将を任されることにはなっていた。

 だがこんな形を言い渡されたのは、つい先ほどのことである。


「っ! いたぞ、F組の大将だ!」

「一人だけ……?」

「ぎゃはははっ、馬鹿なクラスだな! 護衛もつけずに、大将だけを残すなんて!」


 早速、敵のクラスが姿を現した。

 隣り合うE組の方には、こちらの攻撃陣が向かったこともあり、逆隣のA組のプレイヤーたちだ。


「三人っすか。大将の方に護衛を二人、残してきたみたいっすね」


 ガイザーは剣を抜いて構える。

 その様子に、A組の三人は一瞬、気圧されたように後ずさった。


「な、なんだ……? いま一瞬、身体が……」

「気をつけろ。あの男、剣の腕は確からしいぞ。人数で上回っているからと言って油断するな」

「はっ! だからって、無駄な時間を使ってる暇なんてねぇよ! 行くぜっ!」


 三人が一斉に躍りかかってくる。


「(一人は剣士で、一人は魔法使い、もう一人は鞭使いっすか。近距離、中距離、遠距離とそろってて、なかなか対処が難しそうっすね。速攻で先頭の剣士を倒してしまえれば、一気に有利に運べそうっす。……あれ? というか、まだこっちまで来ない? なんていうか、随分ノロノロと向かってくるっすね?)」


 思わず首を傾げるガイザー。


「(それとも……遅く見えているだけ……?)」


 直後、先頭の剣士が繰り出してきた斬撃を受け流すと、ガイザーは即座にカウンターの一撃を叩き込んだ。


「なっ……がはっ!?」

「(いきなり全力で斬り込んでくるとか、アホっすね。せっかく後ろに仲間が二人もいるんすから、できるだけ間合いを取って牽制するくらいにしておけばいいのに)」


 盾役に徹された方が困ったのにとガイザーは呆れる。

 手痛い反撃をまともに喰らい、地面に思い切り倒れ込むその剣士を余所に、ガイザーはすかさず中衛の鞭使いに迫った。


「えっ?」


 まさかこんなにあっさり仲間がやられるとは思っていなかったのか、まだロクに構えてすらいない。

 慌てて体勢を整えようとするが、ガイザーからすればあまりにも遅すぎた。


 一気に間合いを詰めて、一閃。


「う、嘘、だろ……」


 呻き声を残して倒れる鞭使い。


「く、くそっ! ウィンドカッターっ!」

「そんな破れかぶれの攻撃魔法、当たらないっすよ」


 仲間二人が立て続けに倒されたことで焦った魔法使いが、慌てて風の攻撃魔法を放ってきたが、ガイザーはそれを見切って躱す。


「がはぁっ!?」


 そして三人目も撃破。

 三人そろってダメージ量が規定値を超えたため、フィールド外から教員が飛んできて、彼らを回収していった。


「よし、この調子っすね! ただ、今のはあまり強くない連中だったみたいっすから、油断はできないっす!」


 あまりにも簡単に倒せてしまったので、きっと弱い三人組だったのだろうと推測するガイザー。

 しかしふと、別の可能性に思い至る。


「……それとも。もしかして、オレが強くなり過ぎたっす……?」







 ガイザーがたった一人で三人を撃破したことで、フィールドの外は大いに盛り上がっていた。


「な、なんと、大将のガイザーくん、たった一人でA組の三人を返り討ちにしてしまったぁぁぁぁぁぁっ!? しかも一方的な瞬殺っ! 大将を一人残すなんて、正気ではないと言ったわたくしの先ほど発言! 謝罪させていただきますっ! すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


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