第98話 さすがに博打すぎる気が

「よぉ、ガイザー。久しぶりじゃねぇか」


 三つ目の競技に向けて準備していたガイザーのもとに、とある生徒が近づいてきた。


「おお、フィンクスじゃないっすか。久しぶりっすね」


 話しかけてきたのは、ガイザーと初等学校の頃からの友人だった。


 ガイザーの実家が剣の名門なら、フィンクスの実家は槍の名門。

 互いの境遇や性格も似ており、そのため馬が合ったのだ。


 英雄学校に入学してからはクラスが違うこともあって、あまり会う機会がなくなった。

 だがフィンクスが槍技部に入り、活躍しているという話はガイザーも聞いていた。


「ちっ、何だ、その話し方は? 噂は本当だったみてぇだな。編入生に惨敗して、舎弟になっちまったってのはよ」

「舎弟というか、弟子っすね! 兄貴に出会って、オレは目が覚めたっすよ!」

「……気持ち悪ぃ」


 吐き捨てるフィンクス。

 どうやら彼は、まったく別人のようになってしまったガイザーが気に喰わないらしい。


「あの頃はよく喧嘩もしたが、俺はお前のことを認めていた。だが、なんだ、今のお前は? がっかりだぜ」

「そうっすか。まぁ、誰に何と言われようと、オレは今のオレを気に入ってるっすけど!」

「はっ、そうかい。なら、俺が後悔させてやるよ。次の競技には俺も出る。牙を抜かれ、腑抜けちまったお前を、俺が完膚なきまでに叩き潰してやるから覚悟しておけ。幸いお前らF組を狙うように言われてるからな」

「別に腑抜けてなんかいないっすよ。そっちこそ、返り討ちにしてやるから覚悟してるっす」


 そうしてお互い火花を散らしてから、それぞれフィールドへと向かう。


「さあ、いよいよ中盤戦です! この種目では、各クラスに大将が設定され、事前に全クラスに通知されています! そして制限時間三十分以内に、どれだけこの大将を撃破したかで競ってもらいます! 仮にプレイヤーが全滅したとしても、より多くの大将を倒していれば勝ちとなります! ただし、自分たちの大将がやられたら、そこでそのクラスは競技終了! 大将を守らなければいけないが、守りに入ってしまっては絶対に勝てない! なんとも悩ましいところ! 各クラス、一体どのような作戦で挑むのでしょうか!?」


 なお、この競技では、大将がスタート位置から一定の距離以内に居続ける必要がある。

 大将の守護にどれだけの人数を割くのかは、各クラスの作戦次第だ。


「んんっ!? こ、これはどういうことだぁぁぁっ!? F組の出場者が、六、七、八、九……きゅ、九人いますっ! なんと、残る十八人のうち、半数を一気に放出してきました! こ、これは、残る二種目を捨てて、せめて一種目でいいからポイントを獲得しようという作戦かぁぁぁっ!?」


 実況が驚きながら叫ぶ。


「いや、これはあくまで優勝するための作戦っす! それに、驚くのはまだ早いっすよ!」


 フィールド内のスタート地点に入りながら、ガイザーは不敵な笑みを浮かべていた。

 実況が聞こえなくなると、クラスメイトたちが緊張の面持ちで競技開始を待つ。


「ほ、本当に大丈夫なのかな……」

「さすがに博打すぎる気が」

「せめて一人くらいは残した方が……」


 不安そうにしている彼らに、ガイザーは胸を張って告げる。


「心配要らないっす! 兄貴からそれはもう死ぬほど厳しく鍛えられたっすから!」


 そうこうしているうちに、開始のブザーが鳴り響く。

 その直後、ガイザーを除く八人が、一斉にすぐ隣にあるE組のスタート地点に向かって走り始めた。


 フィールドプレイヤーたちには聞こえていないが、この動きに実況が驚きの声を上げる。


「これは!? なんと、F組の九人のプレイヤーのうち、なんと八人が速攻に出ましたぁぁぁっ!? 残されたのは大将、ただ一人! こ、これは何という博打作戦だっ!? 九人を投入していながら、こんなめちゃくちゃな賭けに出るなんて、どう考えても正気ではないぞおおおおっ!」

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