第56話 剣も使えるんですね

「はっ!」

「グギェッ!?」


 アリスが繰り出した斬撃が、ゴブリンの首を刎ね飛ばした。


「……ふう。これで最後の一体ね」


 息を吐く彼女の周囲には、ゴブリンの死体があちこちに転がっている。

 襲いかかってきた十数体の群れを、チームで全滅させたのだ。


 彼女のチームは、男子二人女子三人からなる計五人。

 そのうちの一人は色々と因縁のあるディアナだったが、先日の一件以降、アリスに突っかかってくることはなくなっていた。


「……」


 この日も、いつもの取り巻きたちがいないこともあってか、ずっとアリスとは距離を取っている。

 同じクラスなのは二人だけだったが、もちろんアリスの方から話しかけたりはしない。


「幾らゴブリンとはいえ、さすがにこの数を相手取るのは大変だったわね」

「でもこれでかなり点数を稼げましたよ」


 アリスの言葉に頷いてくれたのは、ディアナとは別の女子生徒だ。

 コレットという名の彼女とは、別のクラスということもあって、ほとんど初対面である。


「……敬語とか要らないんだけど」

「いえいえっ、あの英雄マリベル様のお孫さんに、そんな、タメ口なんてっ……恐れ多いと言いますかっ……」


 アリスが指摘すると、コレットは慌てて首を振った。

 その反応に内心で嘆息しつつ、アリスは鞘に剣を収める。


「だ、だけど、アリスさんって、剣も使えるんですね?」

「剣? 剣の間違いじゃないの?」

「ええと、その……」


 思わず言葉に詰まるコレット。


 英雄マリベルの孫娘が、魔法を苦手としていることは、すでに同級生の中では知らない者などいないはずだった。

 それで、つい意地悪なことを言ってしまったのである。


「す、すいませんっ」

「……魔法がダメなら、せめて剣だけでもって頑張ったから。まぁ才能なんてないから、これ以上は望めないと思うわ」

「そそそ、そんなことないですよっ! アリスさんの剣、あたしは凄いと思いましたっ!」

「そうかしら?」


 お世辞を言っている、という感じではなかった。

 英雄マリベルの孫娘と知って、おべっかを使ってくる人間が多く、彼女もその類かと思っていたのだが……意地悪なことを言わなければよかったなと少し反省するアリスだった。


「……でも、私はやっぱり魔法の方をもっと頑張ることにするわ」

「?」


 誰にも聞こえないくらいの小さな声でアリスが呟いた、そのときである。


 ガサゴソと周囲の草木が揺れたかと思うと、複数の人影が姿を現していた。

 しかも武装し、顔を隠している。


「っ……何よ、こいつらっ?」


 身構えるアリスたちへ、一斉に躍りかかってきた。


「何か知らねぇが、上等じゃねぇか!」

「はっ、返り討ちにしてやるよっ!」


 多勢に無勢だったが、そこは英雄学校の生徒たちだ。

 威勢よく叫ぶと、すぐさま応戦する。


「がっ!?」

「くそっ、こいつらガキのくせに結構できるぞ……っ!?」


 実力者が集まっていたこともあってか、奇襲を受けたにもかかわらず、戦いは生徒側に優勢に進んでいた。

 だがそのときだった。


「どけ! フリージング!」


 襲撃者の一人が放った魔法が、アリスたちに襲いかかった。

 押し寄せる猛烈な冷気によって、全身があっという間に凍り付いていく。


「ま、マズい……っ!」

「このままじゃ……」


 次の瞬間、凄まじい炎が立ち昇り、冷気を完全に吹き飛ばした。


「あ、アリスさん……っ!?」

「できるだけ離れておきなさい……っ! まだコントロールが怪しいから、巻き込んじゃうかもしれないから……っ!」


 炎はアリスの身体から巻き起こっていた。

 しかも大蛇のごとき渦を形成し、暴れ狂っている。


「ば、馬鹿なっ!? なんという魔力だ……っ!?」

「ていうか、こんな魔法、見たことねぇぞ……っ!? どうなってやがる……っ?」


 襲撃者たちが驚愕する中、アリスは辛うじて自らの炎を制御し、


「死んでも文句、言うんじゃないわよ……っ!」


 炎の大蛇が、襲撃者たちへ躍りかかる。


「ひっ……あ、アイスシールドおおおおおおおっ!」


 咄嗟に築き上げられた氷の壁だったが、一瞬で熔解。

 炎が襲撃者たちを呑み込んだ。


「「「ぎゃあああああああっ!?」」」


 彼らの絶叫が轟く中、周囲の木々への引火を避けるため、すぐにアリスは魔力の供給を断ち、暴れ回る炎の大蛇を消した。


「……どうにか、倒せたみたいね」

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