第57話 報告した方がよさそうですわね

「あ、アリスさん、今の何なんですかっ!? というか、魔法、使えないんじゃなかったんですか……っ!?」


 コレットが詰め寄ってきた。


「……スパルタ訓練を受けたから。まぁ、まだとても魔法とは呼べない代物だけど」


 エデルの厳しい指導により、当初と比べれば、かなりコントロールができるようになったのである。


「にしても、こいつら何だったのかしらね?」


 炎で覆面が焼かれて、何人か顔が露わになっていた。

 野盗めいた人相の男たちで、もちろん誰一人として面識などない。


「……とにかく、一度ベースキャンプに戻って、報告した方がよさそうですわね」


 と提案したのはディアナだ。

 今日初めてまともに喋ったなと思うアリスだったが、彼女の言う通りなので、すぐに来た道を引き返すことに。


「こいつらはどうする?」

「放置していくしかないだろ。運ぶのは大変だし。もし魔物に喰われても俺たちの知ったことじゃない」

「一応、武器だけ回収しておくか」


 そうして彼女たちはベースキャンプへと向かった。

 幸い道中で魔物に遭遇することもなく、すんなりと森を抜けることができた。


 だがそこで異変に気が付く。


「ん? 何だ? ひ、人が倒れているぞ!?」

「おい、大丈夫か……っ!」


 倒れていたのは他の生徒だった。

 慌てて近くに駆け寄ると、まだ辛うじて意識があるようで、うぅ、と呻き声を上げる。


「何があった!?」

「き、気を、付けろ……ハイ、ゼ……」

「えっ、何だって?」

「は、ハイ、ゼン……に、やら、れ、た……」

「ハイゼン……?」


 そのときだ。


「ちょうどいいタイミングで戻ってきたようだな」


 英雄学校の教師であるハイゼンが、剣を手にこちらへ歩いてくる。

 その背後には、他のチームの生徒たちを抱えた覆面の集団がいた。


 ハイゼンが合図すると、生徒たちを抱えたままどこかへ去っていく。


「しかしこれで三チーム目か。子供相手に全滅させられるとはな。まぁ所詮は野党どもか。コスパを考えれば十分だろう」


 平然と呟くハイゼンに、コレットが叫んだ。


「ハイゼン先生……っ? ど、どういうことですかっ!?」

「どうもこうも、あの連中とグルだったってことでしょ」

「そ、そんなっ……」

「あんた、一体何が目的よ! こんなことしてタダで済むと思っているのっ!?」


 アリスが問い詰めると、ハイゼンは詰まらなさそうに鼻を鳴らして、


「ふん、元より今の立場など惜しくはない。むしろ清々しているくらいだ。今後はもう、二度と貴様らのような卑しい平民どもと毎日顔を合わせて、授業をしなくても済むと考えたらな」

「っ!」


 その物言いに、アリスは絶句する。


「何が目的と言ったな? の目指すは、英雄学校を貴族中心の学校へと作り替えることだ。平民と貴族を対等に扱うなどという、あまりにも愚かな方針は早急に終わらせねばならん。そのためには英雄マリベル……校長を排除することが絶対条件だ」

「じゃあ、これはっ……」

「生徒を人質にし、誘き寄せる。そして奴を亡き者にするのだ。そのためにも、マリベルの孫娘であるお前は必ず捕えておかねばならぬだろう」


 だから彼らは、今回の授業を狙ったのだろう。

 しかも一年生であれば与しやすい。


「しゃ、シャルティアはどうしたのよっ?」

「邪魔だったから眠ってもらっている。彼女も貴族の出であるはずだが、我々の考えに賛同してもらえなかったのでな」

「……」


 シャルティアがグルではなかったと知って、アリスは少し安堵する。

 もっとも、英雄マリベルに心酔し、この学校の教師となったシャルティアが、裏切るようなことをするとは思えなかったが。


「た、戦うしかないみたいだな……っ!」

「むしろ日頃のうっ憤を晴らしてやろうじゃねぇか!」


 チームの男子たちが武器を構える。

 だがそれをアリスが制した。


「あんたたちは下がってなさい……っ! 危ないから……っ!」


 アリスの怒りに呼応するように、ゴウッ、と再びその身から炎が噴き上がる。


「お、おう」

「じゃあ、お言葉に甘えて……けど、油断するなよ! あいつは腐っても教師だからな……っ!」


 先ほどその威力を知った男子たちが頬を引き攣らせ、この場はいったんアリスに任せるため後退した。

 一方のハイゼンは、情報にはなかったアリスの力に目を剥いて、


「何だ、この魔力は……? こんな力、聞いていないぞ?」

「これでもっ……喰らいなさい……っ!」


 炎の大蛇が、ハイゼン目がけて躍りかかった。

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