第54話 所詮は急ごしらえの結界だ

「な、何なの、この人たち……っ?」


 突然現れた謎の集団に、ティナが少し怯えたように後退る。


 十人ほどの武装した大人たちだ。

 なぜか覆面のようなもので顔を隠しており、友好的な感じはまったくない。


「おい、何なんだ、あんたたちは!?」


 問い詰めるランタを余所に、そのうちの一人が他の者たちに注意を促す。


「子供ばかりとはいえ、英雄学校の生徒たちだ。油断するなよ」


 どうやらこちらが英雄学校の生徒と知った上で、こんな森の中までやってきたらしい。


「安心しろ。殺しはしない。……もっとも、あまり抵抗されたら保証はできんがな」


 集団の一人が脅すように告げる。

 そのときブリックが、相手に聞こえないくらいの小さな声で言った。


「……逃げよう。相手は慣れてる感じがする。数も多いし、恐らく戦っても敵わない。ああ言ってるけど、捕まったらどうなるか分からないし。どこかの国に奴隷として売り飛ばされるかも……」

「ど、奴隷……っ! 私もそれがいいと思う……っ!」


 ティナが即座に賛同を示す。

 そこで初めてグリスが口を開いた。


「やめておけ。どうせ逃げ切れねぇから」

「お前っ、じゃあ、このまま大人しく捕まれっていうのかよっ?」

「その通りだ。もっとも、捕まるのはお前たちだけだがな」

「どういうことだ……?」


 訝しむブリックに、次の瞬間、グリスがいきなり切りかかった。


「っ!?」


 咄嗟にそれを剣で受け止めるブリック。

 突然のことにランタもティナも思わず目を見張ったその隙を突いて、集団が一斉に襲いかかってきた。


「「しまっ……」」


 多勢に無勢。

 しかも完全に先手を奪われて狼狽する彼らには、もはや成す術もないと思われた、そのときだった。


「「「がっ!?」」」


 何もない場所で、次々に弾き飛ばされてしまう襲撃者たち。

 まるで見えない壁にでも激突してしまったかのような現象に、誰もが呆然とする中、最初に状況を理解したのは先ほどから仲間に指示を出していた大人だ。


「まさか、結界……っ!? いつの間にっ!?」

「その通りだよ」


 頷いたのはエデルである。

 そのまま彼は、唖然としているグリスに近づくと、


「ほい」

「~~~~っ!?」


 腹に拳を叩き込んだ。


「がはっ……」


 その場に膝を突くグリスに、エデルは言う。


「君もグルだよね? 変だなとは思ってたんだ。あんまり探索に乗り気じゃない割に、ずっと先頭を歩いてたから。たぶん、あらかじめこの辺りで襲撃できるように、僕たちを誘導してたんでしょ」

「い、言われてみたらそうかも! ってか、グルってどういうこと!?」


 ティナが叫ぶ中、立ち上がった襲撃者たちが武器を構えて、


「ちっ、少し面倒なやつがいるみたいだな」

「だが所詮は急ごしらえの結界だ! 破壊してしまえ!」


 一斉に結界を攻撃し始めた。


 だがどんなに斬りつけても叩いても、エデルが展開させた結界はビクともしない。


「っ!? どういうことだ!?」

「こんな強固な結界、見たことないぞ!?」

「お前ら、どけっ! エクスプロージョン!」


 凄まじい爆発が巻き起こる。


「ははっ、これなら一溜りもないだろうっ!」

「おい馬鹿っ、中の連中までやってねぇだろうなっ?」


 やがて舞い上がった砂煙が晴れていったとき、彼らは思わず絶句した。


「なっ……う、嘘だろう……? 今ので、ビクともしてねぇなんて……」

「これが、ガキが急ごしらえで作った結界か……?」

「ぐは……っ!?」


 とそのとき、仲間の一人が突然その場に倒れ込んだ。

 何が起こったのかと慌てて視線を転じた彼らが見たのは、誰も気づかないうちに結界内からそこへと移動していたエデルだった。


「いつの間にっ!?」

「だが自ら結界の外に出るとはなっ!」

「やっちまえ……っ!」


 その瞬間まで彼らは、エデルのことをあくまで結界魔法が得意なだけの子供だと考えていた。

 英雄学校の生徒とはいえ、まだ一年生の子供が、まさか高い戦闘能力まで有しているとは思うはずもない。


 ……しかし彼らが全滅させられるまで、二十秒もかからなかった。

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