第53話 ライバルが増えちゃう
エデルたちのチームは森の中を進んでいた。
だが似たような樹木が延々と続いており、現在地が非常に分かりにくい。
一歩間違えば簡単に遭難してしまう環境のため、常にコンパスで方角を確認し、さらには木の幹に目印を付けながらの探索だった。
「木が動いたりしないからできる進み方だね」
「……? トレントみたいに魔物が化けてない限り、木は動かないと思うけど……?」
エデルの呟きに、ティナが首を傾げる。
魔界の木は動くし、何なら森ごと移動してしまうのだ。
ついでに普通のコンパスも使えない。
「あ、それトレントだよ」
「っ!?」
近くの木に目印を付けようとしたチームメンバーが、エデルの指摘で慌てて距離を取った。
すると今まで静かに佇んでいるだけだったその木の幹が、ぐねぐねと動き出す。
「オアアアアアアアアッ!!」
幹にぱっくりと大きな口が開き、そこから不気味な声が響き渡る。
「トレントだっ!」
「擬態が上手くて分からなかったのに……っ!」
慌てて武器を構えるメンバーたち。
「(もしかして目視で見極めようとしてるのかな? 魔力を感知すれば簡単に分かるのに……)」
そんなことを思いつつ、エデルは彼らが戦うのを傍観していた。
さすがに全員で戦うような魔物ではないだろうとの判断だ。
「ふぅ、なんとか倒せたな」
「トレントは五点だったよな。これは大きいぜ」
やや苦戦はしたものの、ほとんど二人のメンバーだけで討伐することができた。
エデルとは違うクラスのその二人が、気さくに話しかけてくる。
最初に軽く自己紹介されたが、ランタとブリックという名の男子生徒たちだ。
「ええと、エデルくん」
「エデルでいいよ」
「よくトレントがいるって分かったね? 俺には全然分からなかったのに」
「魔力で見極めたら簡単だよ。普通の木とは違うから」
「それはそうなんだけど、これだけたくさんの木があるとなかなか難しいよね? それにばかり意識を向けてるわけにもいかないし……」
「そう?」
魔力を感知するには集中力が必要だという彼らに対して、あまりピンと来ていない様子のエデル。
「魔力も樹木に擬態するようなトレントだったら、確かにちょっと判別が大変だけど」
「魔力も擬態……? そんなトレント、聞いたことないんだけど……?」
もちろんエデルが言うのは、魔界に棲息しているトレント種である。
「なんていうか、さすがだね。君のこと、うちのクラスでも噂になってるよ?」
「噂?」
「うん。とんでもない編入生が入ってきたって。あのガイザーを屈服させちゃったとか、部活を荒らし回ってるとか」
それを横で聞いていたティナがなぜか不機嫌そうに言った。
「エデルくんのファンも増えてるって話だよ! ううっ、ライバルが増えちゃう!」
そんなこんなで、初対面の二人とは仲良くやれそうな雰囲気だったが、残る一人、グリスだけはずっと仏頂面で、森に入ってからは一言も会話をしていない。
魔物が現れても連携を取ろうという素振りすらなく、自分に近づいてきた魔物を一人で斬り捨てるだけだ。
「クラスでもそうだけど、あいつ、俺たち平民のこと見下してんだよ。同じ人間だとすら思ってないかもしれない」
と、小さな声で不快感を露わにするランタ。
ブリックもそれに呼応するように、
「シャルティア先生は、平民だからって差別とかしないんだろう? 同じ貴族でも、うちの担任、おれたちに平民にはマジでクソみたいに厳しいからな」
担任のハイゼンは伯爵家の出だという。
「まぁ、あいつは誰にでも厳しいけどな。貴族のやつらも宿題忘れると容赦なく叱られてるし」
「けど、おれたちはゴミでも見るような目で見てくるだろ?」
そんなふうに彼らが愚痴を言い合っているときだった。
複数の生き物がこちらに近づいてきていることをエデルが感知する。
「何かこっちに来るよ。十体くらい」
「魔物かな? その数ならゴブリンの群れかも?」
「いや……この感じは……多分、人だね」
「え? そんなことまでよく分かるね? どれくらいで来るかも分かる?」
「あと五分くらいかな。距離で言うと一キロくらい」
「結構離れてた!?」
「ちゃんと索敵したら、百キロくらい先まで感知できるよ」
「どんだけ!?」
それからちょうど五分後のことだった。
十人ほどの武装した集団が、彼らの元へと現れたのは。
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