第47話 ご覧あそばせ
「じゃあ今から試しにやってみる?」
「や、やらないっすよ!? 兄貴の魔法なんて喰らったら、オレ死んじまうっす!」
「大丈夫。万一のときは蘇生してあげるから。最初は怖いかもしれないけど、案外、何とかなるものだよ。ほら、僕もこうして生きてるわけだし」
「それはきっと兄貴だから乗り越えられただけっすよ~~~~っ!」
ガイザーが慌てて逃げ出す。
だが周囲を見ていなかったせいか、近くにいた他の生徒にぶつかってしまった。
「きゃっ!?」
大柄なガイザーに激突され、吹き飛ばされたのは女子生徒だ。
「あっ、大丈夫っすか!?」
「……大丈夫よ」
パンパンと服についた土を落としながら立ち上がったのは、赤い髪の少女――アリスだった。
ただ、ちょうど彼女が放とうとしていた魔法が明後日の方へと飛んでいき、別の生徒の近くに着弾していた。
「ちょっと、危ないじゃないですの。一体、どこの誰かしら?」
不快げに睨みつけてきたのは、金色の巻き髪が特徴的な女子生徒だ。
「あら、誰かと思ったら、アリスではありませんの。まともに魔法を前に飛ばすこともできないなんて」
「う、うるさいわね、ディアナ! 今のはこいつがぶつかってきたせいよ!」
反論するアリスに、ディアナと呼ばれた少女は嘲笑するように言った。
「いえいえ、お笑いなのはコントロールだけはありませんわ。だって、子供が放った火の玉かと思いましたもの。ふふふ、だってわたくしの八歳の弟だって、もう少しマシな威力の魔法を使いますわよ?」
「こ、子供よりはできるわよっ!」
「あら本当ですの? でしたら今ここで、見せてもらってもよろしいです?」
「っ……わ、分かったわよ! 見てなさい!」
ディアナに挑発されて、アリスが激昂する。
二人のやり取りを耳にした他の生徒たちが注目する中、アリスは最も初歩的な火属性魔法の詠唱を始めて、
「ふ、ファイアボールっ!」
ぽふっ、という情けない音とともに、せいぜい拳大くらいの火の塊が射出された。
そしてふわふわと宙を漂ったかと思うと、地面に落下して微かに土を燃やした。
「あはははははははははっ!」
大笑いしたのはディアナだ。
「何ですの、今のはっ? ファイアボール? そんなに簡単な魔法もロクに使えないなんて……っ!」
「い、今のはちょっとミスっただけよっ! 今度こそ……っ!」
そう言って再び挑戦するアリスだったが、
「ファイアボール……っ!」
ぼんっ!!
今度は小さな爆発を起こして、周囲に火花が飛び散ってしまう。
「ふ、ファイアボール……っ!」
ひゅるるるるる……ぼふんっ!
次は空高く上がったかと思うと、そこで煙が上がっただけだった。
それから何度やっても、一向に上手くいかない。
ディアナがますます馬鹿にしたように笑い出す。
「あはははっ! いくらやっても一緒のようですわねぇ! そういえば、あなたのおばあさま、英雄と呼ばれているお方なのでしたっけ? こんな出来損ないの孫のこと、なんて思われているのかしら? あははははっ!」
「~~~~っ! お、おばあさまのことは関係ないでしょっ!」
顔を真っ赤にして憤るアリスだが、ディアナの嘲弄は止まらない。
「ご覧あそばせ。ファイアボールというのは、こうやって使うんですわよ?」
自信満々に突き出した彼女の右手から放たれたのは、直径ニ十センチほどの火球だ。
それが猛スピードで宙を貫き、反対側にある人形へと直撃した。
「このくらいのことができなくて、一体どうして英雄学校に合格できるんですの? ああ、なるほど。そこはどうにでもなりますわよね。だって、おばあさまが校長先生なのですもの」
「……っ!」
言い返せないのか、アリスは悔しそうにディアナを睨みつけるだけだ。
「うへぇ、女のイジメはなかなかえげつないっすねぇ」
過去の自分のことを棚に上げるガイザーを余所に、何か思うところがあったのか、「うーん?」と唸るエデル。
首を捻りつつ、彼はアリスに声をかけた。
「ねぇ、何でそんなに力を制限してるの?」
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