第46話 下手したら死ぬっすよね

「さて、前回までの授業で、自分が得意とする魔法の属性が何か、大よそ把握できたかと思います」


 魔法実践の授業。

 担任であるシャルティアが、訓練場に集まった生徒たちを見回しながら言う。


 そこで初めてこの授業を受ける生徒がいたことに気づいた彼女は、念のため軽く復習することにしたらしく、


「……忘れている方もいるかもしれませんので、おさらいしておきましょう。まずは基本とされる四つの属性の魔法、火、水、風、土について、自身が得意とする属性を見極めることが肝要だと言いましたね。魔法というのは、一朝一夕には身に付きません。多様な魔法を習得するのも悪いことではありませんが、多くの場合、器用貧乏となってしまいます。そのため一つの属性に絞り、極めていくことが大切なのです」

「(じいちゃんは、そんなこと言わなかったけどなぁ。とにかく色んな魔法を覚えさせられたし……)」


 その話を初めて聞く生徒であるエデルは内心で首を傾げていたが、そんなこと知る由もなく、シャルティアは続ける。


「もちろん、魔法そのものが苦手で、魔法以外を極めたいという方もいることでしょう。当然、

それでも構いません。ただ、先ほどの話と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、もし少しでも魔法が使えるならば戦いの幅が広がります。例えば――」


 そこでシャルティアが生徒たちに向かって風魔法を発動した。

 暴風が吹き荒れ、皆が思わず目を瞑る。


 その隙に一番奥にいた生徒の目の前まで移動していたシャルティアは、喉首に剣先を突きつけながら、


「――こんなふうに相手を怯ませ、隙を作るといったこともできるでしょう(ふふ、我ながらキレのある動きでしたね)」


 剣を下ろし、満足そうに元の場所へと戻っていくシャルティア。


「というわけですので、剣士や槍士を目指すというような人も、ぜひこの機会に頑張って魔法を修練していただければと思います」


 それから各々が得意とする魔法を撃つ練習を開始する。


 広い訓練場ではあるが、さすがに適当な場所で魔法を放っていては、クラスメイトに直撃してしまう危険性がある。

 そのため一定の距離を開けながら縦一列に並び、皆が決まった方角へと魔法を撃っていく形だ。


 訓練場の片側には、練習用の的として、人形のようなものが設置されていた。

 特殊な金属で作られており、ちょっとやそっとの魔法では傷一つ付かないはずなのだが、


「(射撃部もこんな感じだったけど……やっぱりあの的を壊したら怒られるのかな?)」


 エデルが見たところ、簡単に破壊できそうな的である。

 かなり手加減した方が良いだろうなと思っていると、そこへガイザーが溜息混じりに近づいてきた。


「兄貴~。オレ、魔法は苦手なんすよ~」

「そうなの?」

「どうやったら使えるようになるっすかね?」


 剣の名門で生まれ育ったガイザーは、魔法を不得手としていた。

 四属性すべて思うように使えず、この魔法実践ほど嫌いな授業はないという。


 そして授業後にはイライラして周囲に当たり散らしたりしていたため、大いに迷惑がられていたようだ。


「……マジであいつ最近どうしちまったんだよ?」

「得意な剣で完膚なきまでに叩きのめされて、心を入れ替えたんじゃないか?」

「そんなタイプの人間だったっけな……」

「噂じゃ編入生に洗脳されたとか」

「怖っ……」


 そんな彼がエデルにアドバイスを求めている姿に、他の生徒たちが思わず注目する中、エデルは自らの経験を元に助言する。


「だったら手っ取り早い方法があるよ。僕が今から魔法を放つから、君は同じ魔法でそれを相殺してみて。僕はそれができるまでずっと撃ち続けるから」

「いやいやそれ下手したら死ぬっすよね!?」

「うん、僕もじいちゃんとそれをして何度も死にかけはしたけど、お陰で簡単に魔法が使えるようになったんだ。やっぱり人間、死ぬか生きるかの極限状態に置かれると覚醒するよね」

「……あ、兄貴に訊いたのが間違いだったみたいっす」


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