第14話 会わせたい子がいるわ
「ここがあなたの部屋よ」
マリベルが立ち止まったのは、ちょうど曲がり角の手前に位置するドアの前だった。
「(……簡単に破れそうなドアだなぁ)」
そんなことを思うエデルを余所に、マリベルが寮長から受け取った鍵でドアを開ける。
中は部屋が一つあるだけの簡素なものだった。
ベッドと机、それにちょっとした棚だけで、すでに半分近くのスペースが埋まっている。
「もしかしてこれだけ?」
魔界でエデルが住んでいた部屋の広さを考えると、物凄く狭い。
ついそんな言葉が出てしまう。
「そうよ。基本的に寝るだけの場所と思ってもらえればいいわ。せっかく大勢の同年代の子たちと学ぶのだから、部屋に籠ってばかりなんてつまらないものね。代わりに色んな活動や施設が充実してるから、ぜひ積極的に交流を深めてもらいたいの」
王侯貴族も住むにしてはあまりにも狭くて質素な部屋だが、それは校長であるマリベルのそうした意図を反映してのものだった。
また、この学校の生徒になった以上、全員が平等で、特別扱いはしないという考えの現れでもある。
「というわけで、ぜひあなたに会わせたい子がいるわ」
「……?」
「すぐ隣の部屋よ」
そう言ってマリベルは隣の部屋のドアをノックした。
「アリス、いるわね? 私よ」
「っ!? お、おばあさまっ!?」
中から驚くような声が聞こえてきたかと思うと、すぐにドアが開く。
部屋から出てきたのは、燃えるような赤い髪が印象的な美少女だった。
「やっぱりいたわね。こんな時間から寮に籠っているなんて。他の生徒たちは今頃、友達同士で友好を深めたり、課外活動に精を出したりしてるでしょうに」
「あ、あたしには自学の方が向いているのよっ。そんなことより、おばあさまがなぜこんなところに?」
「そうそう。決してあなたにお小言を言いにきたわけじゃないのよ。ふふふ、実はね、あなたに面倒を見てもらいたい子がいるの」
「……面倒を?」
物凄く嫌そうな顔をする美少女を余所に、マリベルはエデルに告げた。
「この子、アリスはあたしの孫娘なの。彼女と同じクラスにもしておいたから、色々と分からないことがあったら聞きなさいね。仲良くしてあげてくれたら嬉しいわ」
「ちょっ、おばあさま!?」
エデルはこの人間界のことすらロクに知らない。
学校生活をまともに過ごしていくためには、生徒の中に協力的な友人がいると助かるだろう。
どうやらマリベルはその相手を、自分の孫娘に託すつもりらしい。
だが当の本人は、冗談はやめてくれとばかりに叫んだ。
「いやいや、勝手に話を進めないで欲しいんだけど!?」
「アリス、この子はエデルと言ってね、私の尊敬する方のお孫さんなのよ。今日からこの学校に編入することになったのだけれど、色々と常識に欠けてる子でね。だからあなたに頼みたいのよ」
「何であたしがそんなこと任されないといけないの!?」
「だってあなた、どうせまだ友達の一人もいないのでしょう?」
「っ……と、友達くらいっ……い、いるわよ……」
「あら、それならその子の名前を教えてくれるかしら?」
「ぐ……」
悔しそうに口を噤むアリス。
マリベルが指摘した通り、本当に友達がいないようである。
「だからって、あたしは女よっ? 男子だったら、男子に頼んだ方がいいでしょうにっ」
「それじゃあ頼んだわね、アリス」
「おばあさま!? 話はまだ終わってないんだけど!?」
大声で訴えるアリスを余所に、マリベルはさっさと立ち去ってしまう。
二人だけ残されて頭を抱える彼女に、エデルは言った。
「よく分からないけど、よろしく頼むよ。えっと、アリス、だったっけ?」
「はぁ……仕方ないわね……」
大きく溜息を吐き出しつつも、ひとまず状況を受け入れることにしたようだ。
「隣の部屋にいるから、何か分からないことがあったらノックして声をかけなさい」
「あ、早速、一つあるんだけど」
「なにかしら?」
「友達って何?」
「………………はい?」
予想を超えた常識の欠如っぷりに、唖然とされてしまうエデルだった。
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