第10話 やっと来たね
言われた通りシャルティアの後を付いていくと、前方に森が見えてきた。
マリベルの部屋を出てから、一時間ほどは経っただろうか。
学校どころか都市からも出て、ここまでずっと走ってきたのである。
「……なるほど、これくらいのペースには付いてくることができるわけですか。どうやら最低限の体力はあるようですね。もし途中で付いてこれなくなっていたら、その時点で不合格の烙印を押していたところですけれど」
「?」
この程度の速さだと、歩いているのとそんなに変わらないけどなぁ、と思うエデルだった。
「もしかしてこれが試験なの?」
「いいえ、これはただのウォーミングアップです。さあ、着きました」
森の手前で止まった。
「それではこれからが本番です。時刻は……ちょうど三時ですか」
シャルティアは懐中時計を確認し、呟く。
「一人でこの森を突っ切り、反対側に抜けてください。制限時間は一時間。つまり、この時計が四時を示すまでです」
「……森を抜けるだけでいいの?」
「どうやら甘く見ているようですね。もしこれが平地だったとしても、馬車で三時間はかかる距離があります。当然、全力で走らなければ間に合わないでしょう。加えて、この森は非常に迷いやすく、さらには狂暴な魔物が多数棲息しているのです。相応の力がなければ、一時間で突破するのは困難でしょう……もっとも、入学試験に合格できる力があるならば、達成できて当然ですが」
どうやって一時間で突破したかを確認するのだろうと思っていると、シャルティアが森に近づいていき、
「さて、それでは私は先に向こうに行っていますので。……後を付いてくれば、多少は道中が楽になるかもしれませんよ? 無論、付いてくることができればの話ですが」
それだけ言い残し、森の奥へと消えてしまった。
エデルは一人その場に取り残されて、
「……あの口ぶりから言って、そんなに簡単な森じゃないのかな?」
恐らく魔界の森のように、空間が歪んでいて勝手にワープしたり、地面が動いて進んでも進んでも同じ場所に居続けてしまったりするのだろう。
魔物はもちろんのこと、落とし穴や地雷のトラップなんかにも気を付けないといけないはずだと、気を引き締めるエデル。
「まぁでも、じいちゃんと散々色んな森を踏破してきたから、大丈夫だよね」
シャルティアは森の中を走っていた。
「ブルアアアアッ」
「はっ!」
「~~~~ッ!?」
目の前に立ちはだかった危険度Cの魔物、オークを一刀のもとに斬り伏せ、そのまま立ち止まることなく走り抜ける。
「「「ワオオオオッ!」」」
さらに前方に現れたのは、コボルトの群れだ。
「犬コロごときがこの私を止められるとでも?」
「「「ギャンッ!?」」」
それも瞬殺。
英雄を育成するための学校。
それが英雄学校である。
当然ながら生徒たちを指導する教師たちは精鋭ぞろい。
相応の実力がなければ採用されることはない。
「しかし、少しばかり難易度を高く設定し過ぎましたね。これでは今年の一年生でも、クリアできるのは七割……いえ、せいぜい五割ほどでしょうか」
息一つ荒らげることなく森の中を疾走しながら、彼女は独り言つ。
想定よりも魔物との遭遇率が高く、このままいくと彼女でも横断に三十分はかかってしまいそうだ。
「もっとも、特別扱いでの入学です。並の実力では困りますからね」
むしろちょうどいい難易度だろうと思い直し、彼女は森の中を走り続けた。
やがて森の終わりが見えてくる。
最後に襲い掛かってきたトレントを輪切りにして、彼女は森の外へと飛び出した。
「……ふう」
急ブレーキをかけ、息を吐く。
それから森の方を振り返って、
「さて、どれくらいで出てくるでしょうか。……あれだけ自信満々だったのですから、さすがに途中でギブアップ、などという期待外れな事態には――」
「あ、やっと来たね」
「っ!?」
背後から聞こえてきた声に、シャルティアは自分の耳を疑った。
慌てて振り返ると、そこにいたのは森の反対側で別れたはずの少年で。
「う、嘘でしょう……? まさか、私よりも先に森を突破したとでも……?」
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