第9話 一体どんな教育をしてたのかしら

「かつて先生から指導を受けていたのよ。私だけじゃないわ。今、四英雄と呼ばれている者たちは全員が先生の弟子なの」


 四英雄、と言われても、正直エデルにはあまりピンとこない。

 多分、有名な人たちなのだろうと、何となく納得しておいた。


「世間は私たち四英雄を讃えてくれるけれど、正直言って私たちなんて先生の足元にも及ばないわ。だって、私たちが束になっても先生には敵わなかったもの」


 昔を懐かしむような目をして、マリベルは言う。


「それで、僕はこれからどうしたらいいんだろう? じいちゃんには、とりあえず手紙を渡せばいいとしか言われてないんだ」

「……手紙には、身寄りのないあなたのことを任せる、と書いてあったわ」

「丸投げ……?」

「ええ、そうね。でも外ならぬ先生の頼みだもの。もちろん引き受けるつもりよ」

「本当? それは助かるよ」


 マリベルはそこで妙案を思いついたというように手を叩いた。


「そうだわ。あなた、この学校に通ってみないかしら?」

「……学校?」

「そう。ここ英雄学校は、英雄を育成することを目的に作った学校なの。そのルーツは、まさに先生から指導を受けたことにあるわ。先生みたいに、未来の英雄を育てたい。それがこの学校の設立理念なのよ。先生に育てられたあなたこそ、この学校に相応しいはず」

「なるほど?」

「魔界で生まれ育ったあなたには人間界の常識が欠けているようだし、それを学ぶためにも学校は最適な場所だと思うわ」


 確かに人間界のことはよく知らないエデルである。

 なにせ存在を知ったのもつい最近のことで、じいちゃんは何も教えてくれなかったのだ。


「校長室にいきなり押し入ってくるくらいだもの」

「え? ダメだったの?」

「……ダメに決まっているわ。普通は不法侵入で処罰されるわよ?」

「そうなんだ。魔界だとじいちゃんと一緒に勝手に人んちに入ってたけど」

「先生は一体どんな教育をしてたのかしら……?」


 魔界では、他人の領地や物を奪ったりするのが当たり前だった。

 秩序などない、完全に弱肉強食の世界である。


「そもそも侵入しようと思って侵入できるような、甘いセキュリティではなかったはずなんだけど……」

「そう?」


 そこら辺の魔族の家の方がよっぽどしっかり防衛してたけどなぁ、と思うエデルだった。


「ともかく決まりね。それじゃあ、急いで入学に向けた準備をしないと。……シャルティア、話は終わったわ。入ってらっしゃい」

「はい、マリベル様」


 マリベルに呼ばれて、先ほどの眼鏡美人、シャルティアが部屋に戻ってくる。

 まだエデルのことを警戒しているようで、いつでも対応できるように身構えていた。


「この少年を学校に入学させようと思うの。もちろん今すぐにね。本来なら編入試験が必要だけれど、免除で構わないわ」

「……はい?」


 マリベルの言葉に、シャルティアは唖然とした。


「な、何をおっしゃっているのですかっ? こんなどこの馬の骨とも分からない人間を……しかも、試験免除だなんて……」

「彼の身分については私が保証するわ。もちろん実力もね」

「ほ、本気ですか……?」


 一体こいつは何者なんだという顔で、エデルを睨みつけるシャルティア。


「マリベル様のご意向というならば、誰も反対することはないでしょうが……」

「じゃあ決まりね。それと、今から少しあなたに任せて構わないかしら? 何も知らない子だから、構内を案内したりとか、色々と教えてあげてちょうだい。私はその間に彼の入学手続きを進めておくわ」

「……畏まりました」


 それからエデルはシャルティアとともに部屋を出た。

 するとやけに鋭い口調で、


「付いてきなさい。……ただし、付いて来れるものならば、ですが」

「?」

「マリベル様はああおっしゃっていましたが、さすがに実力に乏しい者をこの学校に入学させるわけにはいきません。あなたを特別扱いしたマリベル様の沽券にもかかわることですからね。ですから私があなたの力を確かめて差し上げます。いわば、これがあなたの入学試験です」

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